地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年4月中央の動き


中央の動き


◎大規模災害防止へ建築基準法改正案閣議決定 ― 政府
 政府は3月6日、建築基準法改正案を閣議決定した。最近の大規模災害などを踏まえ、市街地の安全確保のため維持保全計画の策定が求められる建築物の範囲を大規模倉庫などにも拡大するとともに、防火地域・準防火地域内で延焼防止可能性の高い建築物の建ぺい率を10%緩和する。また、空き家などを福祉施設・商業施設等に用途変更する場合の大規模改修工事を不要とする。中層木造共同住宅など木造建築物の整備推進と防火改修・建替えなども促進する。また、内閣府は3月23日、災害の罹災証明書の交付迅速化へ「住家の被害認定基準運用指針」を改定した。熊本地震での認定遅れを踏まえ、航空写真等の活用、液状化等の簡易判定などを改定。これで申請当日の交付も可能となる。
 一方、総務省は3月9日、2017年度の東日本大震災などの被災自治体への地方公務員の派遣状況を発表した。東日本大震災への派遣職員は1,775人で前年より272人減少した。45都道府県が974人、20政令市が200人、341市区町村が601人それぞれ派遣。また、熊本地震へは275人が、九州北部豪雨には111人が派遣された。


◎所有者不明土地利用円滑化法案を閣議決定 ― 政府
 政府は3月9日、所有者不明土地の利用円滑化特別措置法案を閣議決定した。所有者不明土地について、都道府県知事の裁定で収用委員会に代わり利用権(上限10年間)を設定し地域福利増進事業の整備を可能とする。所有者が現れた場合は期間終了後に原状回復して返却する。また、所有者探索のため行政機関が固定資産課税台帳・地籍調査票の利用を可能とする。石井国交相は同日の記者会見で「法施行後10年で100件程の利用権設定を目標とする」と述べた。また、国交省はこのほど、中長期的な地籍整備推進検討会の中間まとめを発表した。次期7次計画では、一筆地調査の効率化や最低限必要な境界情報の迅速化、災害想定地域など優先地域での重点的実施を促すとした。
 一方、内閣府は3月23日、地方創生に資する不動産流動化・証券化の事例集を発表した。地方都市で増加する空き店舗や古民家など遊休不動産を「稼げる不動産」「地域価値を高める不動産」とするために参考となる取組を紹介したもの。「オガールプロジェクト」(岩手県紫波町)、「駅南口ブロック複合施設」(小松市)など14事例を紹介している。
◎第8次地方分権一括法案を閣議決定 ― 政府
 政府は3月9日、第8次地方分権一括法案を閣議決定した。2017年の提案募集の対応方針に盛り込まれた関連15法律を一括改正する。毒物・劇物事業者の登録事務権限を都道府県へ、認定こども園の認定事務・権限を中核市へ移譲。また、被災都道府県から応援要請を受けた都道府県が区域内市町村に応援要請できることを明確化するほか、災害援護資金の貸付利率を市町村の条例化、幼保連携型認定こども園の居室床面積基準の緩和、特定教育・保育施設の利用定員の設定・変更の協議を事後届出化、地方税関係情報などをマイナンバー制度の情報連携に追加などが盛り込まれた。
 また、内閣府は3月19日、地方分権改革シンポジウムを開催した。「地方の提案で国の制度が変わる」をテーマに、増田寛也東京大学大学院客員教授、高橋滋法政大学教授がそれぞれ基調講演。これを受けて、「提案募集方式による地方分権改革の成果と展望」をテーマに太田稔彦豊田市長、大橋洋一学習院大学大学院教授、田中里沙事業構想大学院大学学長らがパネルディスカッションした。併せて内閣府は「地方分権改革・提案募集方式 ― 取組・成果事例集」をまとめた。
◎医師偏在是正へ医療法等改正案を閣議決定 ― 政府
 政府は3月13日、医療法・医師法改正案を閣議決定した。医師数が増加する中、都道府県間で約2倍もの較差があるため、偏在是正の仕組みを創設する。都道府県知事が大学に地域枠等の創設・増加を要請できるほか、臨床研修病院の指定・定員設定の権限を都道府県に移譲する。また、都道府県の事務に新たにキャリア形成プログラム策定・医師少数区域への医師派遣、「医師確保計画」を策定し地域医療対策協議会で協議できることを追加する。一方、国も医師少数区域での勤務経験を評価する「認定制度」を創設、同認定医師だけを地域医療支援病院などで管理者とする。
 一方、厚労省は3月12日、2016年度の高齢者虐待の調査結果をまとめた。養介護施設従事者による虐待は虐待判断件数が452件、相談・通報件数が1,723件で前年に比べ44件、83件それぞれ増えた。また、養護者による虐待は判断件数が1万6,384件、相談・通報件数が2万7,940件で、前年に比べ408件、1,252件増えた。身体的虐待が68%で最も多く、虐待程度で最も重い「重大な危険」も8%あった。同省は3月28日、重篤事案の事後検証と再発防止などを各都道府県に通知した。
◎成年年齢を18歳とする民法改正案を閣議決定 ― 政府
 政府は3月13日、成年年齢の18歳への引き下げを盛り込んだ民法改正案を閣議決定した。1人で有効な契約ができる年齢や親権に服することがなくなる年齢をそれぞれ20歳から18歳に引き下げる一方、女性の婚姻開始年齢は16歳から男性と同じ18歳に統一する。また、喫煙や飲酒、競馬投票などは現行の20歳を維持する。川上法務相は、同改正法案が「若年者の積極的な社会参加を促し、自覚を高める」との意義を強調する一方、「消費者被害を防止する施策など環境整備の施策が必要だ」と述べ、省庁横断的な環境整備検討会を近く設置する方針を示した。
 このほか、18歳に変わるのは帰化の要件(国籍法)、社会福祉主事資格(社会福祉法)、分籍(戸籍法)、行政書士資格(行政書士法)など約130法律。20歳が維持されるのは、小児慢性特定疾病医療費支給児童の年齢(児童福祉法)、児童自立生活援護事業の対象者の年齢(同)、猟銃の所持許可(銃砲刀剣類所持等取締法)、国民年金の被保険者資格(国民年金法)、大型・中型免許等(道路交通法)など約20法律。
◎自治体基金テーマにセミナー ― 日本自治学会
 総務省は3月16日、2018年版地方財政白書を公表した。16年度の歳入総額は101兆4,598億円(前年度比0.4%減)、歳出総額は98兆1,415億円(同0.3%減)で、実質収支は1兆9,605億円(同0.0%減)の黒字だった。また、経常収支比率は同1.7ポイント上昇の93.4%、実質公債費比率は同0.6ポイント低下の9.3%で、借入金残高は197兆3,189億円(同0.9%減)にのぼる。また、白書は、自治体基金調査で各自治体は将来への備えのため行革や歳出抑制努力に努めながら積み立てていることが把握されたと強調している。
 その自治体基金をテーマに、日本自治学会が3月10日、セミナーを開催した。基調講演で小西砂千夫関西学院大学教授は、地方財政の総額確保に信頼がないため基金積立の必要度が増しているが、今後も基金問題が地方財源確保の足を引っ張るとし、各自治体に基金残高の説明責任を果たすよう訴えた。パネル討論では総務省の境勉審議官が基金の調査結果を紹介。谷隆徳日本経済新聞社論説委員は、各自治体が基金を使用しないと地方交付税を守れなくなる懸念を示したが、河村文夫東京都奥多摩町長(関東町村会長)は、16年の大雪災害で集落が孤立した事例を挙げ「突発的な財政需要の財源には基金しかない」と現場の実態を訴えた。
◎地域おこし協力隊の活動状況発表 ― 総務省
 総務省は3月20日、2017年度の地域おこし協力隊の稼働状況を発表した。同隊員数は、4,830人で前年より852人増えたほか、農水省の旧田舎で働き隊を含めると4,976人となる。また、受入自治体は997団体で、前年より111団体増えた。団体別の受入れ人数は、大分県竹田市の49人をトップに、島根県海士町45人、島根県津和野町32人、高知県佐川町31人などで多い。
 一方、国交省は3月23日、「農地付き空き家」の手引きを作成した。地方部での空き家の利活用と移住促進を狙いに、関連制度や運用事例をまとめたもので、①空き家と農地を空き家バンクに登録②農業委員会は「別段の面積」を設定し公示③農地所有者・購入者・賃借人による農地の権利移動等を農業委員会が許可 ― などの流れを示した。また、同省は3月16日、歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドラインも作成した。観光まちづくりに向けて古民家などを活用するための条例制定から保存活用計画の作成、代替措置、包括同意基準、支援措置などを解説している。
◎町村議会の在り方研究会が報告書 ― 総務省
 総務省は3月26日、町村議会の在り方研究会報告書を公表した。議員のなり手不足が深刻化している小規模市町村議会について、現行議会の維持を前提に、新たに「集中専門型」と「多数参画型」の選択肢を提案した。集中専門型は、少数の専門的議員で構成し生活給の報酬を支給。併せて、多様な民意反映のためくじ等で選出する「議会参画員」制度も設け、条例・予算など重要議案を議員とともに議論(議決権無し)する。多数参画型は、集落等から選出する多数の非専業的議員で構成し、夜間・休日等に開催するが、契約締結などは議決事件から除外。また、議員の請負禁止の緩和や他の自治体常勤職員の兼職も可能とする。なお、町村総会については「実効的な開催は困難」と退けた。
 同案に対し、全国市議会議長会、全国町村議会議長会は同日、「議会権限の限定」「パッケージ論は住民自治の侵害だ」などと批判するコメントを発表。野田総務相は3月27日の記者会見で「女性や若者など多様な人材参画が重要。これを議論の材料に3議長会等の意見を伺いながら対応を検討したい」と述べた。
◎働き方改革法案を了承、閣議決定へ ― 自民党部会
 自民党厚生労働部会等は3月29日、働き方改革関連法案の修正案を了承した。政府は閣議決定の上、今国会に提出する。長時間労働是正のため、時間外労働の上限を年720時間、単月100時間未満を限度とし、違反には罰則を科す。また、短時間・有期雇用労働者と正規労働者との不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」も導入する。このほか、国が働き方改革の「基本方針」(閣議決定)を策定する。施行は当初案から1年延期し労働時間関係は2019年4月から、同一労働同一賃金関係は20年4月からとし、中小企業関係はさらに1年延ばす。また、時間外労働制限の除外となる裁量労働制の対象業務追加は削除されたが、高度プロフェッショナル制度の創設は盛り込まれた。
 安倍首相は、2018年度予算が成立した3月28日の記者会見で「この国会は働き方改革国会だ」と述べ、今国会での成立を目指す。このほか、自民党部会審議の中で、同一労働同一賃金と公務員との関係について、政府側が「民間給与が上がれば公務員の報酬も上がる。そのための予算措置もすることになる」との基本方針を示している。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)