地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年6月中央の動き


中央の動き


◎災害救助法改正案を閣議決定 ― 政府
 政府は5月8日、災害救助法改正案を閣議決定した。現行法では、大規模災害時に都道府県が実施主体となって避難所の運営や仮設住宅の供与などの救助事務を行うが、新たに政令市も実施主体となることを可能とする。同改正案に、指定都市市長会は歓迎するが、全国知事会は都道府県の広域調整が複雑になる・災害時の資源の先取りなどの懸念があると批判している。
 一方、国交省は5月18日、防災拠点となる建築物の機能継続ガイドラインをまとめた。庁舎や避難所などは地震後も機能継続が求められるとし、①緊急対応の活動拠点室はエレベータ停止・浸水も考慮して配置②避難所として高齢者・障害者等の利用にも配慮③大地震時の建築物各部の点検・継続使用の可否を判断する手順等を明確化 ― などを解説している。また、同省は5月16日、大雪時の大規模な車両滞留対策をまとめた。「できるだけ通行止めにしない」との従来の目標を「道路ネットワーク機能への影響を最小化」に変更。タイムラインで予防的な通行規制や本線等の速やかな通行止め、Uターン場所の確保などを提案した。


◎戸籍事務へのマイナンバー制度導入で試案 ― 法務省
 法務省は、戸籍事務にマイナンバー制度を導入する戸籍法改正の中間試案をまとめ、5月11日からパブリックコメントを開始した。申請・届出などで戸籍謄本の添付を省略できるようにするのが狙い。このため、戸籍法では電算化戸籍を原則とし、市町村職員は届出の受理審査等で国が構築する「戸籍情報連携システム」(仮称)の情報を参照できる。併せて、漏洩防止義務も設け、違反には罰則を課す。2019年度までに法整備を実施する方針。なお、総務省は5月11日、申請手続きの戸籍謄本提出の改善結果を発表した。公有水面埋立免許など14手続きで住民票のみとしたほか、看護師免許など13手続きで戸籍謄本を返却するとした。
 また、総務省の研究会は5月25日、中間報告をまとめた。所有者不明土地問題の増加を踏まえ、住基台帳制度を個人の一生を確実に公証・確認できる基礎台帳とするため「除票簿」を設け、同保存期間を150年とする。また、海外への永住・長期滞在増加を踏まえマイナンバーの海外継続を可能とするなどを提案した。
◎政治分野の男女共同参画推進法が成立 ― 国会
 政治分野における男女共同参画推進法が5月16日、全会一致で可決・成立した。各政党に衆参両院、自治体議会の選挙で「男女の候補者ができる限り同数となることを目指して行われなければならない」との努力義務を明記。併せて、国と自治体に推進施策を策定・実施するとした。これを受けて、野田総務相は5月18日の記者会見で、地方議会の女性議員の割合が都道府県議会10%、市区議会15%、町村議会10%と低く、3割の町村議会では女性議員がゼロとの実態を指摘。地方議会に出産の欠席規定などの環境整備を求めた。
 一方、自民党は5月18日、憲法改正国民投票法改正案と公職選挙法改正案を了承した。今国会の提出を目指す。名簿の縦覧を廃止し閲覧に一本化するほか、投票区に関わらず投票できる「共通投票所」の設置、期日前投票の投票事由に悪天候など投票所に到達困難なども追加、開始時間・終了時間の繰り上げ・下げを可能とするなど投票時間の弾力化も盛り込んだ。
◎高等教育改革で第10次提言 ― 自民党
 自民党の教育再生実行本部は5月17日、第10次提言をまとめた。大学の再編統合・連携の促進や、卒業後拠出金方式の導入、教員の1年単位の変則労働時間制度の導入などを提言。今後、政府の骨太の方針などへの反映を図る。
 高等教育改革では、①ガバナンス改革②経営力の強化③情報公開・評価の充実④再編統合・連携の促進 ― の4つの対応策を提言。具体的には、①国立大学は広く学内外に候補者を求め学長を選考②複数大学で財産を統合し寄付金を運用できる仕組み整備③1国立大学法人の複数大学設置・私大の学部等の譲渡制度の整備④国公私連携を可能とする法人制度の創設 ― を提案した。卒業後拠出金方式では、中間所得層(家計所得1,100万円未満)を対象に、在学中の授業料・入学金を国が立替え卒業後に支払い能力に応じて所得の一定割合を納付する。学校の働き方改革では、勤務のガイドラインを策定し教師の勤務時間の上限を示すとともに、夏休みなど長期休業を踏まえ1年単位の変則労働時間制を公立学校に導入することなどを提案した。
◎2040年の社会保障等の将来見通しを提示 ― 政府
 政府は5月21日、2040年を見据えた社会保障などの将来見通しをまとめ、経済財政諮問会議に示した。社会保障給付費は、18年度の121.3兆円が40年度には最大で190.0兆円に増加。うち、医療は同39.2兆円が66.7兆円に、介護は同10.7兆円が25.8兆円に増える。また、医療福祉分野の就業者は、18年度の823万人が40年度には1,065万人に増加。全就業者数の約3割を占める。加藤厚労相は、「社会保障の持続可能性確保のため給付・負担の見直しなど新たな社会保障改革の全体像について国民的な議論が必要だ」と訴えた。
 また、厚労省は同日、第7期(18~20年度)の介護保険料の動向を発表した。介護保険料の全国平均は5,869円となり、前期(15~17年度)5,514円より6.4%上昇する。都道府県別にみると、沖縄6,854円をトップに、大阪6,636円、青森6,588円、和歌山6,538円などで高い。逆に、埼玉5,058円が最も低く、以下、千葉5,265円、茨城5,339円、静岡5,406円などで低い。アップ率は熊本の12.1%が最も高く、このほか栃木、大阪、徳島の各府県でも10%台のアップ。市町村別では、福島県葛尾村9,800円が最も高く、次いで福島県双葉町8,976円、東京都青ヶ島村8,700円、福島県大熊町8,500円などで高い。逆に、最も低いのは北海道音威子府村の3,000円。このほか、群馬県草津町、東京都小笠原村、北海道興部町、宮城県大河原町、千葉県酒々井町も3,000円台と低い。
◎ICT活用の鳥獣被害対策で通知 ― 総務省
 総務省は5月21日、ICTを活用した鳥獣被害対策の実態調査結果を発表した。鳥獣による農作物被害は例年200億円にのぼるが、有害鳥獣を捕獲する狩猟者が減少、ICTを活用した被害対策に期待が高まっている。調査は、導入済み・予定の105市町村を対象に実施。捕獲数が増加(67%)、罠の見回り負担軽減(89%)などの効果があったが、未導入団体では機器の種類・価格・性能の情報や効果・導入実績の情報不足があると指摘。農水省に対し、ICT機器導入・活用した事例などを市町村に提供するよう通知した。なお、農水省は5月18日、野生のシカやイノシシの食肉利用拡大に向け国産ジビエ認証制度を制定した。
 また、農水省は2017年度の農業白書を公表した。49歳以下の若手農業者がいる若手農家は、販売農家の1割だが、農産物販売金額1,000万円以上が45%いるほか、経営耕地面積規模も10㌶以上が73%など、この10年間で経営規模は1.5倍に拡大した。このため、農業経営の法人化やIoTなどの後押しが重要だとした。併せて、TPP11等の発効に備えて生産コスト低減や品質向上に取り組む必要性も強調した。
◎地方移住促進へ地方生活実現会議が報告書 ― 内閣府
 内閣府のわくわく地方生活実現会議は5月23日、提言をまとめた。東京一極集中と地方の若者減少が継続しているため、若者のUIJターンや、地方での女性・高齢者の就業などの全国的なマッチング支援の仕組み構築と、地方移住を後押しする支度金など財政的な支援を提案。さらに、外国人材活用のマッチングに向けた財政支援なども提言した。
 一方、総務省は5月5日、我が国のこどもの数(2018年4月1日現在)を発表した。全国のこどもは1,553万人で前年に比べ17万人減った。37年連続の減少。総人口に占める割合も12.3%で、44年連続して低下した。都道府県別(17年10月1日現在)では、前年に比べ東京だけが増加(7千人)。逆に、大阪の1万4千人減など北海道、神奈川、兵庫の各道府県でも1万人台の減少となった。また、こどもの割合は沖縄が17.1%で最も高く、秋田が10.1%で最も低い。
◎地方法人課税の偏在是正へ検討会発足 ― 総務省
 総務省は5月23日、地方法人課税に関する検討会の初会合を開いた。昨年の税制改正大綱で新たな地方法人課税の偏在是正措置を検討するとされたことを受けたもの。秋にも議論をまとめる。野田総務相は、5月22日の記者会見で「東京都から小さな離島まであり、地方税増収で全ての地方が等しく潤うわけではない事実を前提に議論していただきたい」と述べた。一方、税収削減を危惧する9都県市首脳会議は5月9日、「地方税の原則を歪めてはならない」との意見を政府に提出。小池東京都知事は5月18日、「財源を不当に収奪するのは不合理。断固反対」と指摘し、東京都税制調査会に税財源の充実策を諮問した。
 一方、全国市長会は5月18日、税財政研究会の提言を発表した。超高齢化・人口減少(ネクストステージ)に向け、まず消費税の10%引上げを確実に行うよう提言。さらに、①地方消費税は「市町村消費税」(仮称)として直接市町村に配分②地方交付税の法定率引上げと、特会直入の「地方共有税」とする③地域コミュニティ等の再構築へ「協働地域社会税」(仮称)を創設 ― などを提言した。
◎新財政健全化や地財改革で意見 ― 財務省・総務省
 財務省の財政制度等審議会は5月23日、新たな財政健全化計画で建議をまとめた。「これ以上の財政健全化の遅れは許されない」とし、遅くとも2025年度までにプライマリーバランス(PB)黒字を確保すべきだと指摘。併せて「約束どおりの消費税率引上げが大前提」だとした。地方財政では、地方歳出の計画が決算を継続的に約1兆円上回っているとし、財源保障の適正規模の精査が必要だと指摘。同時に、一般財源総額の「実質同水準ルール」はこれらを踏まえ検討すべきとした。また、基金残高と臨時財政対策債が増加する中で地方の債務残高を引き下げるべきとした。
 一方、総務省の地方財政審議会は5月25日、地方税財政改革の意見をまとめた。一般財源総額を確保すべきだとした上で、国より良いPB・債務残高数値を理由に「地方に財源余剰が生じるとの指摘は誤り」だと指摘した。併せて、基金残高の増加を理由に地方財源を削減する議論も不適当だと批判した。
 また、自民党の財政再建特命委員会は5月24日、報告をまとめた。2025年度までにPB黒字化を目指すべきだとし、社会保障では高齢者医療・介護制度の能力に応じた負担を要請。地方財政ではトップランナー方式など業務改革の推進や広域連携による地方財政の効率化、遍在性が小さな地方税体系構築などを提言した。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)