地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2019年11月中央の動き


中央の動き


◎日米貿易協定の国内対応で基本方針決定 ― 政府
 政府は10月1日、日米貿易協定の最終合意を受けて総合的なTPP等関連政策大綱改定の基本方針を決めた。合意協定では牛豚肉など農産品は環太平洋連携協定(TPP)の範囲内で市場を開放するとされた。これを受けて、新政策大綱では①海外展開を進める日本企業・日本産品の新たな市場開拓②国内産業力の強化③農林水産業の生産基盤強化 ― を盛り込むとした。また、政府は10月11日の閣議で農林水産物・食品の輸出促進法案を閣議決定した。農水省に「農林水産物・食品輸出本部」を設置するとともに、輸出証明書の発行や生産区域指定などの支援措置を盛り込んだ。
 一方、政府は日米貿易協定で国内農業生産額が600億~1,100億円減少するとの暫定試算を発表した。米国産農産品の流入、農産品価格の低下などによるもので、すでに発効しているTPP11による影響を含めると合計1,200億~2,000億円の減少になる。このため、江藤農水相は10月1日の記者会見で、「農林水産業の生産基盤強化など万全の施策を検討する」と強調したが、財務省の財政制度等審議会では早くも政府の「大盤振る舞い」を牽制する意見が出ている。


◎妊婦健康審査の公費負担で調査結果発表 ― 厚労省
 厚労省は10月1日、妊婦健康審査の公費負担の調査結果を発表した。2018年4月現在、全市町村が年14回以上の助成を実施。公費負担の全国平均は10万5,734円で、9万円台が27%、10万円台が26%、11万円台が18%、上限なしも4%あった。また、妊婦の居住地以外の病院等での妊婦検診の場合も93%が受診施設と契約・償還払いの併用で対応していた。一方、人事院はこのほど、国家公務員の育児休業の取得状況(18年度)を発表した。新たに育児休業した常勤職員は2,360人で、うち男性が1,350人。同男性の取得率は21.6%で、前年度より3.5ポイント上昇し過去最高となった。介護休暇を使用した常勤職は199人だった。
 また、厚労省は10月24日、障害者優先調達法に基づく障害者施設等からの調達実績(18年度)が14万351件、178億円だったと発表した。うち、物品の調達額は約34億円で、小物雑貨の金額が多い。役務の調達額は約144億円で、清掃・施設管理が大半。内訳は国が6,069件、9億円、都道府県は2万6,320件、25億円、市町村は9万1,447件、128億円となっている。


◎ふるさと納税の泉佐野市除外継続を決定 ― 総務省
 総務省は10月3日、泉佐野市を新ふるさと納税制度に指定しないとした判断を継続することを決めた。6月からスタートした「ふるさと納税指定制度」で対象から除外された泉佐野市がその取消を国地方係争処理委員会に申請。同委が9月に制度開始前の寄付金募集を理由にした除外は法律違反の恐れがあるとし、総務省に「再検討」を勧告。これに対し、総務省が改めて不指定の維持を回答した。争点の「過去の制度運用」を判断基準にした点について、同省は①制度根幹を揺るがしかねない不当な寄付金募集をした団体が指定されれば地方団体の理解・納得を得られない②地方税財政制度の公平・効率的な財政資金の配分の観点から制度の適正運営を困難にする ― などを理由に挙げた。
 一方、千代松泉佐野市長は10月11日、総務省の指定除外の取消を求めて大阪高裁に提訴すると発表した。市長は「見せしめのように除外するのは法治国家として許されるのか」と批判した。なお、ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合は10月9日、「制度が健全かつ公平に運用されることを企図したもの」と除外継続を支持する共同声明を発表した。


◎地域医療確保で国と地方の協議の場 ― 政府・3団体
 厚労省・総務省と全国知事会・同市長会・同町村会による「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」が10月4日、都内で開催された。会合では、厚労省が地域医療構想、総務省が公立病院の経営状況を説明。これに対し地方側は、厚労省の一律基準による再編・統合すべき公立病院等の突然の実名公表を批判。さらに、「個々の自治体病院の見直しには住民理解と検討期間が必要」(全国知事会)、「公立病院廃止は地域の過疎化に拍車をかけ地域に強い異論がある」(同市長会)、「町村内に病院がなくなると住民に大きな負担が強いられる」(同町村会)などと訴えた。厚労省は各都道府県単位の説明会も開催するが、同協議では今後、医師偏在対策、医師の働き方改革も議論する。
 一方、経済財政諮問会議は10月28日、社会保障制度改革を議論。民間議員が地域医療構想の実現が必要で、官民合わせて過剰となる約13万病床の削減に向け公立・公的病院を手始めに病院の再編統合を進めるべきだと提言。安倍首相も「地域医療構想の着実な実現に取り組む」よう関係閣僚に指示した。


◎外国人受入問題で検討会を発足 ― 全国市長会
 全国市長会は10月15日、第1回外国人受入問題検討会を開催した。会議では、外国籍が市民の5%を超える谷畑湖南市長が報告。外国人市民会議の設置や多文化共生社会推進条例制定などの対応を進めるが、税督促状も多国籍言語が必要となるほか、教育・保育の現場でも人材不足で崩壊の危機にあるなどの現状を紹介し、国の総合対策は自治体丸投げだと指摘した。なお、出入国在留管理庁が10月25日発表した2019年6月現在の在留外国人は282万9,416人で前年末に比べ9万8,323人、3.6%増加、過去最高に。内訳は、中国78万6,241人(構成比28%)、韓国45万1,543人(同16%)、ベトナム37万1,755人(同13%)など。対前年度増加率は、ベトナムが12.4%増と最も高い。
 一方、文科省は9月27日、外国人の子どもの就学状況(今年5月1日現在)を発表した。住民基本台帳上の外国人の子どもは小学生8万7,164人、中学生3万6,885人。うち、不就学・確認できずが小学生は8%、中学生では9%いた。なお、不就学・不明への対応では、訪問による就学勧奨、電話による就学勧奨がそれぞれ17%あるが、特に実施していないも65%あった。


◎小中高校のいじめ実態調査結果を発表 ― 文科省
 文科省は10月17日、小中高校のいじめ等調査結果を発表した。2018年度のいじめ認知件数は合計54万3,933件で前年より12万9,555件増加、過去最高を更新した。児童生徒1,000人当たり認知件数は40.9件(前年度30.9件)。小学校42万5,844件、中学校9万7,704件、高校1万7,709件で、いずれも前年度を上回った。いじめ発見のきっかけは、「アンケート調査など学校の取組」が53%で最も多い。なお、地方いじめ防止基本方針の策定済み市町村は94%(同90%)、いじめ問題対策連絡協議会は80%(同76%)の市町村が設置済み。このほか、小中学校の長期欠席者は24万39人で、うち不登校児童生徒は16万4,528人だった。
 一方、法務省は10月4日、児童虐待とたたかう法務省プロジェクトチームを設置した。来年1月にも提言をまとめる。また、厚労省の体罰によらない子育て推進検討会は10月28日に第2回会合を開催、体罰禁止などのガイドラインを来年3月にまとめる。このほか、同省は、2022年度に全市町村で設置する子ども家庭総合支援拠点の整備に向けて学識経験者等のアドバイザーを自治体に派遣する支援を開始した。


◎気候変動を踏まえた治水計画の対応で提言 ― 国交省
 国交省は10月18日、気候変動を踏まえた治水計画技術検討会の提言を発表した。豪雨発生件数が30年前の1.4倍に増えるなど気候変動の影響が顕在化しているため、河川整備の目標を早期に達成するとともに土地利用も地域一体となった治水対策を組み合わせて実施すべきだと指摘。同時に、治水計画は「実績の降雨」から「気候変動により予測される将来の降雨」を活用する方法に転換すべきだと提言した。同省は今後、変化を想定した河川整備、施設能力を上回る洪水の減災対策、豪雨・土砂や流木の流失・高潮と洪水の同時発生などの対応を検討する。なお、内閣府は10月17日、自然災害からの復旧・復興事業に企業版ふるさと納税を活用できるよう通常の申請期間に関わらず個別に相談・申請を受け付け、認定すると発表した。
 また、国交省は10月10日、全市町村の盛土造成地の安全性把握状況を公表した。今年9月時点で、「大規模盛土造成地マップ」の公表は76%、安全性把握の第一歩となる大規模盛土の造成年代調査は2020年度末には全団体が実施予定だが、同計画策定は51%にとどまり、地盤調査による安全性把握は57団体だけだった。


◎市町村合併特例法の継続を答申 ― 第32次地制調
 第32次地方制度調査会は10月25日、市町村合併の今後の対応方策に関する答申を決めた。現行の市町村合併特例法が2020年3月末で失効することから、「自らの判断により合併を進めようとする市町村」を対象に、合併円滑化の措置を講じられるよう現行法の期限延長を提言した。これを受けて、総務省は来年の通常国会に期限を29年度末まで延長する同法改正案を提出する。同日の総会では、地方六団体の各会長が答申案に賛同、異論は出なかった。しかし、来年夏の答申に向けた検討テーマに挙がっている圏域における自治体の協力関係について、「町村が望まない新たな圏域行政導入には反対する」(荒木全国町村会長)、「広域連携でははじめに法制ありきでなく慎重な議論を」(松尾全国町村議会議長会長)との牽制意見が出た。
 また、全国町村会は10月18日、町村行政未来戦略会議の初会合を開いた。地制調が後半に議論する「圏域・広域連携の推進」「スマート自治体への転換」「公共私のベストミックス」について、町村の立場から対応策を検討。来年5月にも提言をまとめる。


◎全都道府県・政令市の2019年度給与勧告出そろう
 47都道府県人事委員会の勧告が10月25日出そろった。月給は44道府県で、期末・勤勉手当は42都道府県で引上げを勧告した。月給では較差が小さいことから鳥取、東京、三重の3都県が「改定なし」を勧告。引上げ勧告した44道府県では大阪の1.78%をトップに、奈良0.21%、大分0.18%の順で高い。また、大半が人事院勧告の若年層に限定した月給増に合わせた。期末・勤勉手当では、岩手、新潟、長野、宮崎、沖縄の各県で改定を見送った。また、全20政令市の給与勧告が10月25日に出そろった。月給は、札幌、さいたま、名古屋、堺、岡山、広島が「改定なし」とした。改定率は大阪0.34%、北九州0.14%、新潟0.12%で高い。期末・勤勉手当は、横浜を除く19市で引上げを勧告した。
 一方、総務省は10月11日、地方公務員の給与改定の取扱で各自治体に通知した。人事院勧告に準じた対応と合わせた給与適正化とともに、政府の「骨太の方針2019」で就職氷河期世代の就労支援が盛り込まれたことを踏まえ、各自治体でも中途採用に向けて①受験資格の上限年齢の引上げ②経歴不問の中途採用試験の実施③対象者への一層の周知 ― に取り組むよう求めた。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)