地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年7月中央の動き


中央の動き


◎浸水想定区域内に20%の学校が設置 ― 文科省
 文科省は6月8日、浸水想定区域等に立地する学校の調査結果を発表した。全国の幼稚園~高校3万7,374校(2020年10月)のうち浸水想定区域に立地し要配慮者利用施設に位置付けられた学校が7,476校(20%)あった。うち85%は避難確保計画を作成、72%は同計画に基づく避難訓練を実施していたが、想定浸水深を考慮して学校施設内での浸水対策を実施しているのは15%にとどまった。また、土砂災害警戒区域に立地し要配慮者利用施設に位置付けられた学校も4,192校(11%)あった。同省は、学校設置者に「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」を送付し対応を要請した。
 また、政府は6月17日、国土強靱化年次計画2021を決めた。昨年暮れに閣議決定した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(総事業費15兆円)を受けて、初年度分に①風水害・大規模地震対策3.5兆円②インフラ老朽化対策0.7兆円③デジタル化300億円 ― を計上。全国109一級水系で「流域治水プロジェクト」策定や避難所のコロナ対応などを進める。


◎ワクチン供給と財政措置など決議 ― 全国市長会
 全国市長会は6月9日、全国市長会議(通常総会)をウェブ会議で開催、「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急決議」と「感染症対策の決議」「感染症拡大の地域経済・雇用対策の決議」をそれぞれ採択した。緊急決議では、高齢者接種の加速化のためワクチンの安定供給と財政支援、国民等への周知を求めるとともに、高齢者接種以降についても今後の工程表などの早期明示と財政措置を要請した。また、「感染症による経済への影響は甚大」だとして、①中小企業・小規模事業者、農林漁業者への支援拡充②観光振興では都市と事業者の意見を踏まえ支援③雇用維持助成金の手続き簡素化と期間の延長 ― などを求めた。
 また、指定都市市長会は6月17日、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金で政府に緊急要請した。今年4月に創設された同臨時交付金(事業者支援分)は都道府県だけに交付されているが、政令市には事業所が都道府県内の4割以上が集積しているとし、臨時交付金を政令市にも直接交付するよう求めた。
◎「コロナ感染抑制へ総力」など行動宣言 ― 全国知事会
 全国知事会は6月10日、定例の全国知事会議をウェブ会議で開催し、「新型コロナ感染抑制に向けた行動宣言」「ポストコロナに向けた日本再生宣言」を採択した。宣言では、①変異株を含めた新型コロナ感染拡大の防止②ワクチン接種の推進③教訓を踏まえた保健・医療体制の再構築 ― に向け「47知事は、この危機を乗り越え住民の命と健康を守るため総力を挙げる」と宣言。また、コロナ禍は様々な課題を突き付けたが、①誰もが活躍する地域社会の実現②社会全体のDXの推進などSociety5.0の実現③グリーン・リカバリーなど経済と環境の好循環 ― を進め、「新次元の分散型国土の創出」などに総力を挙げると宣言した。
 このほか、①地方税財源の確保・充実等に関する提言②大規模災害への対応力強化に向けた提言③将来世代が希望をかなえられる社会を目指した提言④国土強靱化の加速と地方創生回廊・観光立国の実現の提言⑤デジタル社会の実現に向けた提言⑥脱炭素社会の実現に向けた対策推進の提言 ― なども採択した。
◎「グリーン成長」へ森林・林業基本計画決定 ― 政府
 政府は6月15日、新たな「森林・林業基本計画」を閣議決定した。同計画は5年ごとに見直しているが、今回は政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル」に向け森林・林業・木材産業による「グリーン成長」を前面に打ち出した。具体策に、①森林資源の循環利用を進め再造林・複層林化を推進②新技術で伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」を展開③中高層建築物や非住宅分野等で新たな木材需要を獲得④集落維持のための農林地の管理・利用など協働活動促進 ― などを挙げた。
 一方、農水省は6月25日、食料安全保障対策の強化を決めた。感染症拡大で一部食品に品薄・欠品状態が発生したため、改めて①平素からの情報収集・分析と情報発信②サプライチェーン維持・確保のための事業継続計画の重要性 ― が再確認されたと指摘。このため、緊急事態食料安全保障指針に「早期注意段階」を新設し、早期の警戒監視と情報収集・分析を強化し対策を実施するとともに、国の災害用備蓄食品のフードバンク等への提供ポータルサイトを設けて情報公表する。併せて、食料の購買行動等を調査・分析する。
◎自治体の「国土の管理構想図」作成を提言 ― 国交省
 国交省は6月17日、国土管理の在り方を示した「国土の管理構想」を発表した。人口減少下では全ての土地で労力・費用をかけた管理は困難だとし、優先的に維持したい土地を明確化した上で、都道府県・市町村・地域がそれぞれ目指すべき将来像と土地の管理の在り方を示す「管理構想図」を策定するとした。都道府県構想では現状把握・将来予測と広域的視点から都道府県土の利用・管理の在り方など、市町村構想では現状把握・将来予測と対応すべき課題と管理すべきエリア、地域支援など必要な措置を記載する。同管理構想は、次期国土利用計画・国土形成計画に反映させる。
 また、国交省は6月18日、インフラ長寿命化計画の第2次計画(2021年度~25年度)を策定した。新たに、①計画的・集中的な修繕など「予防保全」への転換②新技術・官民連携手法によるメンテナンスの生産性向上③集約・再編などインフラストックの適正化 ― を掲げ、その具体策として早期措置が必要なインフラへの集中的な対応、自治体等への財政的支援と広域的連携による維持管理体制の確保などを進めるとしている。
◎財政健全化目標の堅持を明記 ― 骨太の方針2021
 政府は6月18日、経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)を閣議決定した。コロナ感染防止策の継続・徹底を進めるとともに、成長を生み出す原動力に①脱炭素化などグリーン社会の実現②官民挙げたデジタル化の加速③日本全体を元気にする活力ある地方創り④少子化の克服、子供を産み育てやすい社会の実現 ― を掲げ、その基盤作りを進めるとした。
 また、経済・財政一体改革では、名目3%の成長と600兆円経済の実現を目指すとともに、25年度の国・地方のPB黒字化の財政健全化目標の「堅持」を明記。併せて感染症の経済財政への影響を検証し「目標年度を再確認」も盛り込んだ。このほか、分野別改革では、全世代型社会保障改革のほか、今回の感染症で直面した医療供給体制の広域的対応の遅れに対し、第3次医療圏を超えた広域的マネジメントや自治体間の役割分担を明確化する。併せて、大都市圏の都道府県間関係・都道府県と市町村の関係について地方制度調査会で検討。また、地方行政全般の広域化について法制化を視野に検討するとした。一方、来年度予算編成では地方一般財源総額の前年度「同水準の確保」を明記した。
◎転職なき移住「地方創生テレワーク」推進 ― 政府
 政府は6月18日、まち・ひと・しごと創生基本方針2021を閣議決定した。感染症に伴う地方への関心の高まり、東京から地方への転出の動きなどの変容を踏まえ、これまでの「稼ぐ地域づくり」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」などの4政策に加え、新たに①ヒューマン=地方への人の流れ創出・人材支援②デジタル=地方創生に資するDX推進③グリーン=地方が牽引する脱炭素社会の実現 ― の3つの視点を掲げ、地方創生のバージョンアップを図る。具体的には、「地方創生テレワーク」(転職なき移住)を進めるほか、企業の地方移転の促進、地域での人材支援、関係人口の創出と魅力ある大学の創出、デジタル分野の人材支援、グリーン分野の人材支援などを進めるとした。
 なお、6月9日には「地方六団体とまち・ひと・しごと創生担当相との意見交換会」が開催された。坂本担当相が、企業の地方移転促進に向け地方拠点強化税制で企業を後押しする意向を強調。地方側からは「観光回復・国土強靱化への積極的な財政措置」(全国市長会)、「デジタル社会へのハード・ソフトの基盤整備支援」(全国町村会)などを求める意見が出た。
◎AI導入の労使コミュニケーションで提言 ― 厚労省
 厚労省の技術革新(AI等)進展の労使コミュニケーション検討会は6月22日、報告書をまとめた。過去5年間に企業の約3割でAI等の新技術を導入、うち半数で労使協議を行い、約9割で「効果があった」と回答。これを踏まえ、働く現場で新技術を活用するには現場の実情を把握した上で導入すべきだと指摘。不十分なまま導入すると現場実情に合わず、労働者の納得も得られず生産性向上が達成されない懸念があるとした。さらに、新技術導入には労働者が乗り遅れないよう企業が職務の変更、スキルアップなどに取り組むよう要請。労働組合にも、幅広い労働者の意見集約などの取組が求められるとした。
 一方、厚労省が6月2日に発表した2020年の労使間交渉実態調査によると、正社員以外に「組合加入資格がある」のはパートタイム労働者38%、有期契約労働者41%、嘱託労働者37%など。また、過去3年間で新たに設けられた労働協約は「育児休業制度、介護休業制度、看護休暇制度」38%、「賃金額」37%などだった。また、厚労省の中央最低賃金審議会は2月22日、2021年度の地域別最低賃金の目安をめぐる協議をはじめた。なお、菅首相は各方面で最低賃金の全国平均1,000円を目指す意向を表明している。
◎2020年国勢調査で8割の市町村が人口減少 ― 総務省
 総務省は6月25日、2020年国勢調査の速報を発表した。20年10月1日の人口は1億2,622万7千人で、前回(15年)に比べ86万8千人(0.7%)減少。前回(0.8%減)に引き続き減となった。都道府県別では、東京(前回比4.1%増)や神奈川、埼玉など9都府県で増加、秋田(同6.2%減)や青森、岩手など38道府県で減少した。一方、市町村では、1,416市町村(82%)で人口が減少。増加数は、東京都特別区(47万2千人増)や福岡市、川崎市などで多く、逆に北九州市(2万2千人減)や新潟市、長崎市で減少数が多かった。なお、同速報値の結果、衆院選挙区では15都県で「10増10減」の見直しが必要となる。増えるのは東京5、神奈川2、埼玉・千葉・愛知各1。減少するのは宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の各1。格差は最大1.65倍に縮小する。
 また、厚労省は6月4日、2020年人口動態統計を発表した。出生数は84万832人で前年より2万4,407人減少し過去最少となった。合計特殊出生率は1.34と前回1.36より低下。沖縄が1.86で高く、東京1.13が最低だった。また、婚姻件数は52万5,490組で同7万3,517組減少、戦後最少となった。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)