地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年8月中央の動き


中央の動き


◎概算要求基準に脱炭素化など特別枠設定 ― 政府
 政府は7月7日、2022年度予算の概算要求基準を決めた。菅政権の重点政策「グリーン(脱炭素化)」「デジタル」「地方活性化」「子供・子育」に「新たな成長推進枠」を設けたほか、地方交付税は「新経済・財政再生計画との整合性に留意」して要求。社会保障関係は高齢化の自然増(6,600億円)にとどめる。
 これを受けて総務省は同日、22年度の地方財政措置31件を各府省に申し入れた。新型コロナウイルス感染症対策では、地方の意見を十分踏まえるとともに所要の財源確保を要請。デジタル・ガバメント推進では、うち自治体の情報システムの統一・標準化に向けた取組は全額国費で措置するとともに、自治体への適時適切な情報提供を求めた。また、少人数学級整備に伴う教職員定数の確保では国・地方の厳しい財政状況に配慮し地方の意見を踏まえて措置すべきだとした。併せて、教室不足が生じた場合は解消のための財源確保も求めた。このほか、新規に有害鳥獣の捕獲・被害対策のための人材確保の財政措置を講じるよう申し入れた。


◎1人1台端末の学校施設整備で中間報告 ― 文科省
 文科省の有識者会議は7月7日、新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方で中間報告をまとめた。1人1台端末環境の整備とポストコロナ禍を踏まえ、学校施設は均質・画一的なものから柔軟で創造的なものへ転換が求められるとし、①1人1台端末に対応したゆとりある教室整備②多目的スペース活用による多様な学習活動へのフレキシブル対応③空調整備と手洗い等の非接触化④居場所となるリビング空間(小教室・コーナー等)整備 ― などを提言。併せて、これらの教育環境整備は老朽化対策と一体的に推進すべきだとした。このほか、首長部局と協働して中長期視点から計画的に整備を進めるほか、国には学校スタンダードの提示と財政支援制度見直し・充実などを求めた。
 また、同省は7月20日、2020年度文部科学白書を公表した。感染症対策で昨年実施された学校の臨時休業で、改めて学校が学習機会・学力の保障のほか身体的・精神的な健康を保障する福祉的役割も担っていることが再認識されたと指摘。1人1台端末整備を学校教育で生かすとともに、対面指導とオンライン指導を使い分けた教育の質向上を進めることも必要だとした。
◎自治体のDX推進で標準手順書を作成 ― 総務省
 総務省は7月7日、自治体DX推進手順書を発表した。昨年暮れに策定した「自治体DX推進計画」の着実な実施に向け、①DXの認識共有・気運醸成②全体方針の決定③推進体制の整備④取組みの実施 ― について解説。DX推進のビジョンと工程表で構成する「全体方針」を作成するとともに、DX推進担当部門を設置し一般職員も含めて身につけるべきデジタル技術・知識など「体系的な育成方針」も作成するとした。併せて、先進事例として「各課にDX推進員を選任し全庁の意識改革」(真岡市)、「大学と連携したDX人材育成」(香美市)、「ICT専門家を市町村へ派遣」(宮城県等)なども紹介した。
 また、同省は7月12日、「日本型テレワーク」実現に向けた提言をまとめた。コロナ禍でテレワークが急速に普及したが、今後は「流行っては廃れる」可能性が高いとし、テレワークを「リモートワーク」ではなく「ICTを活用し、時間や場所を有効活用できる柔軟な働き方」と位置付け、通勤時間の削減で有効活用できる時間創出・ストレス軽減など個人や組織ともにウェルビーイングを向上させるべきだとした。
◎熱海土石流災害受け全国の盛土箇所抽出へ ― 国交省
 国交省は7月9日、熱海市の土石流災害を受けて今後の盛土の点検の参考となる全国の盛土可能性箇所の抽出を行うと発表した。作成時期の異なる整備済みデジタルマップを比較し抽出するもので、今後、関係省庁や自治体に情報提供する。赤羽国交相は同日の記者会見で「まず盛土が現在全国のどこにどのくらいあるのかを把握。全国の総点検について今後、関係省庁と連携しながら進めたい」と述べた。また、静岡県が今回の土石流で安否不明者64人の氏名を公表、翌日には不明者数が半減したが、棚橋防災担当相は7月9日の記者会見で、「各自治体が人命の救助・救出活動に資する場合は積極的に公表すべきと考えており、今回、適切な対応がされたと受け止めている」と述べた。全国知事会は6月の総会で「災害時の死者・行方不明者の氏名等公表ガイドライン」をまとめている。
 一方、環境省は7月2日、気候変動による災害激甚化の影響評価(中間報告)を発表した。地球の温度が平均2度高まると、令和元年東日本台風で被害が大きかった多摩川、利根川など8水系で河川災害リスク指標ピーク流出量が平均15%上昇、中小河川では氾濫が発生する目安を超える箇所が1.4倍増えると試算した。
◎介護人材が2025年には32万人の増員必要 ― 厚労省
 厚労省は7月9日、第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数を発表した。必要職員数は、2023年度が約233万人、25年度は約243万人、40年度は280万人で、19年度(約211万人)に比べ、それぞれ22万人、32万人、69万人の増員が必要となる。必要数を都道府県別(25年度)にみると、東京22万人、大阪21万人、神奈川17万人、愛知12万人など大都市部で多い。同省は、介護職員確保に向け今後も処遇改善や多様な人材確保、離職防止などに取り組むとしている。
 また、同省は7月16日、2019年度の市町村国保・後期高齢者医療制度の財政状況を発表した。国保の単年度収入は24兆436億円(前年度比1.2%減)、単年度支出は24兆741億円(同0.6%減)で、法定外繰入金(1,096億円)を除いた清算後単年度収支差引額は936億円の赤字で前年度より1,150億円減った。なお、被保険者数は2,660万人で前年度より92万人減少、保険料収納率は92.92%で同0.07ポイント上昇した。後期高齢者医療制度の収入合計は16兆5,575億円(同3.2%増)、支出合計は16兆1,969億円(同3.8%増)で、収支差は3,607億円の黒字だった。
◎新たな「均衡ある発展」テーマに公開講座を開催
 第51回都市問題公開講座が7月10日、「新たな『均衡ある発展』を考える ― 東京圏一極集中を超えて」をテーマに都内で開催された。基調講演で、広井良典京都大学こころの未来研究センター教授は、2050年の日本を視野に人口、財政・社会保障、地域、環境・資源について持続可能シナリオ、破局シナリオをAIを活用してシミュレーション。その結果、「都市集中」型では一極集中の進行と地方衰退、出生率低下と格差拡大が進み、「地方分散」型では人口分散と出生率持ち直し、格差縮小が進み個人の幸福感も増大するとし、今後8~10年でいずれに進むかの分岐点を迎えると指摘。地方分散型の実現には、①労働生産性から資源生産性への転換を促す環境課税②地域経済化を促す再生可能エネルギー活性化③まちづくりのための地域公共交通機関の充実④地域コミュニティを支える文化・倫理の伝承 ― などの政策が有効だと訴えた。
 次いでパネル討論では、瀬田史彦東京大学准教授を司会に、一極集中是正と分散型社会をどう実現すべきかをテーマに議論。天野朋美・元宮崎県椎葉村地域おこし協力隊が、村は96%が林野で人口約2,500人、老齢化率4割超の過疎地だが、神楽など伝統文化が口伝えで伝承され各村民も役割を持ち、高齢化で継ぐ人は減少しているが「住民には危機感もない」と現状を紹介。「村への定住促進には自治体職員の手助けが必要だが、全てのサポートには限界。住民のサポートが必要だ」とした。高見具広独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員は、東京に出た地方出身者が大学卒業後も東京に残るのは、地方にも建設・介護・サービス業など就職はあるが、給料は低く土日休みも少ないためで、「雇用問題は量より質の問題。若い人が地方に還流しないのは選択肢が小さいためだ」と指摘。宮崎県小値賀町の観光資源再発見などを例に地域に魅力ある仕事・雇用をつくるには「内発的・地元資源を活かした仕事をつくることが必要」と強調した。嶋田暁文九州大学教授は、これまでの政策は人口増加・過密化・効率化を前提に進められ、農山村は非効率とされていたが、農山村に人が住むことで食料は確保され、高齢者も元気になれば介護費用も縮減するなど「時間軸・分野横断で発想の転換が必要だ」「地方都市の連携、農山村の小さな拠点を主役とすることで多層的な地域づくりが求められる」と強調した。
◎ワクチン接種の供給不足で批判 ― 知事会・市長会
 全国知事会は7月11日、「緊急事態宣言の再発出を受けた緊急提言」を発表した。提言は、各都道府県・市町村は総理言及の「今年10月から11月に接種完了」を受けて取り組んでいる中、7月以降のワクチン供給量減少で予約受付停止や予約キャンセルなど「市町村は国の方針に基づき全力を挙げてきたのにハシゴをはずされ混乱している」と批判。改めてワクチンの供給スケジュールや配分量の提示を要請した。また、全国市長会も7月15日に提言を発表。「各自治体は2回目分を確保した上で1回目の接種を行っており、これは指摘されているような『在庫』ではない」と批判し、確実なワクチン供給を求めた。前日開催した理事・評議員合同会議でも参加市長から国の対応への批判が相次ぎ、立谷会長も「確保と在庫は全然違う。『在庫』といわれたらえらい迷惑だ」と批判した。
 これらの批判を受けて、河野担当相は7月15日の全国知事会との意見交換で「7月からの配送スケジュールの提示が遅れた。ハシゴを外した形になり、大変申し訳ない」と陳謝。また、政府は一定の在庫があると見なした自治体への配分を削減する方針も撤回した。
◎30年度の温室効果ガス削減目標46%に ― 環境省等
 環境省と経産省は7月26日、有識者会議に「地球温暖化対策計画」(案)を提示した。2050年カーボンニュートラル実現に向けた中期目標に、「30年度の温室効果ガスを13年度比46%削減」を掲げた。うち、産業部門で38%、家庭部門で66%、運輸部門で38%それぞれ削減する。併せて、森林で約3,800万トンの吸収量を確保する。このため、国民一人一人に理解と行動変容を求めるとともに、国は多様な政策手段を動員した対策を推進。また、都道府県・政令市は削減施策・目標を掲げた地方公共団体実行計画区域施策編を策定、同計画策定が困難な市町村への助言・人材育成も求めた。このほか、自治体や地元企業・金融機関が中心に「脱炭素先進地域づくり」を100カ所の地域で進めるとした。政府は同計画を今年秋にも閣議決定する。
 また、環境省は同日、「2050年度までの二酸化炭素排出量実質ゼロ」を目指す自治体、いわゆるゼロカーボン・シティが気象災害の激甚化を背景に増加、2年前の4団体が今年7月時点では420自治体に増加、その人口は1億1,000万人を超えたと発表した。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)