月刊『自治総研』
2022年3月中央の動き
中央の動き |
◎所有者不明土地の活用事業の対象を拡大 ― 政府 ◎豪雨災害での市町村の避難情報発令で提言 ― 政府 政府は2月4日、昨年7~8月の豪雨災害を踏まえた避難の在り方検討会の報告をまとめた。死者26人など甚大な被害となった同災害で、①住民は避難情報が発令されても避難しない②市町村は避難情報の発令を躊躇 ― などの背景を検証。その結果を踏まえ、住民の避難行動促進には「命は自らが守る」の意識向上のため地域の防災リーダー育成や参加型・体験型の実践的な防災活動、防災デジタルを活用した避難行動を促す取組などを提言。また、市町村の避難情報発令では、市町村の人材育成と専門家等の支援充実を図るとともに、①市町村長や危機管理責任者等への研修充実②空振りを減らすため発令対象を災害リスクのある区域等に絞り込む③専門家の技術的助言 ― などを提言した。 また、政府は2月4日、土地改良法改正案を閣議決定した。最近の豪雨災害を踏まえ、国・自治体が農業者の申請・同意や費用負担を求めず自ら実施する「急施の防災事業」の対象に農業用用排水施設の豪雨対策を追加。また、土地改良区の防災・災害対策等で全国土地改良事業団体連合会が資金交付できるとした。 ◎コロナ下の国・自治体の役割を審議へ ― 地制調小委 第33次地方制度調査会は2月7日、専門小委員会の初会合を開き、諮問「デジタル化の進展とコロナ感染症への対応を踏まえた国・自治体、自治体相互間の関係の在り方」を受けて、今後の具体的な審議事項を審議。次回から関係省庁や自治体等から意見聴取する。 会合では、総務省が、感染症入院措置等の権限行使は保健所設置首長等が行い、国は感染予防の基本指針の策定や緊急時の自治体指示を行うなど感染症法やデジタル化の現行法制・制度を説明。併せて、「自治体事務の実施に国が強い関心を持って関わる手法」として「指示」「並行権限の行使」「代行」も示した。これを受けて、参加委員からは「感染症対応では分権計画で国の関与が狭くなったとの見方もあるが、現場で人的資源がないことが課題を生み出した」(伊藤正次東京都立大学教授)、「コロナ問題は全ての地域が被災地(災害応援できない)で、弱いところがより強く痛む。自殺や孤立などは政策・制度として考えるべき」(土山希美枝法政大学教授)、「オンライン会議、オンライン傍聴など民主主義を強めるデジタル化も必要」(谷口尚子慶応大学教授)などの意見が出た。 ◎コロナ後のオンライン授業など検討へ ― 中教審 文科省は2月7日、中央教育審議会に次期教育振興基本計画(2023~27年)の策定を諮問した。中教審では今後、コロナ後も踏まえたオンライン授業との最適組合せや幼児・義務教育から大学院まで一貫性を持つ社会ニーズに応える教育・学習の在り方など今後5年間の教育政策の目指すべき方向性・施策を審議する。 また、文科省は2月21日、コミュニティ・スクールの在り方検討会最終まとめ「地域と学校の信頼と協働に基づく開かれた学校運営に向けて」を発表した。同スクールの導入は全公立学校の33%(2021年5月現在)だが、関係者間でその必要性の認識に差があるため、「国が導入を強制する法的措置」は逆に推進気運を削ぐため慎重な対応が必要だとした。その上で、同スクールの法的位置付は変える必要はないが、改めて関係者に同スクールの趣旨・目的・必要性の理解を求めながら全ての公立学校での導入を進めることが必要だとし、そのための国の支援も求めた。 ◎情報システム調達で他社参入阻害の事例 ― 公取委 公正取引委員会は2月8日、国や自治体の情報システム調達の実態調査を発表した。情報システムの更新等で導入事業者以外の参入をできなくする「ベンダーロックイン」等の実態を調べた結果、「既存ベンダーだけがシステムやデータを把握」「適切なベンダーを探すのがむずかしい」などから既存ベンダーと再契約した実態が分かった。このため、①情報システムの疎結合化は調達単位の縮小・調達件数の増加②情報システムのオープンソース化 ― などが望ましいとした。これを受けて、金子総務相は2月10日の記者会見で、「他のベンダーへの移行も可能となるよう、自治体の情報システムの標準化・共通化の取組を通じて引き続き競争の適切な環境を図りたい」と述べた。 一方、政府のデジタル臨時行政調査会は2月17日、法制事務のデジタル化検討チームを発足させた。今後、デジタル原則から見直し対象となる法令について関係省庁と議論・調整する。具体的には、①デジタル完結・自動化②機動的で柔軟なガバナンス③官民連携と共通基盤利用 ― などの原則から法律・政令・省庁令(約1万件)、通知・通達(約2万件)などを見直す。 ◎自治体の温暖化対策に新たに財政措置 ― 政府 政府は2月8日、地球温暖化対策推進法改正案を閣議決定した。2050年カーボンニュートラル実現に向け民間事業に資金供給する官製ファンド「脱炭素化支援機構」を創設。また、「ゼロカーボンシティ宣言」自治体が534団体(今年1月末)と増えており、自治体の温室効果ガス排出削減の具体化に向けた総合的・計画的な施策の策定・実施の費用を国が財政支援する。 一方、農水省は2月2日、今後の営農型太陽光発電検討有識者会議を発足させた。農地の上部空間に太陽光発電設備を設置する営農型太陽光発電は農山漁村の所得機会確保や耕作放棄地解消などから関心も高まり、2019年度までに合計2,653件、741㌶が許可されている。その一方で、下部での営農を考慮しない支柱や台風・積雪時の倒壊、農作物の栽培情報・知見不足からの作付け転換や耕作放棄、さらに農村景観が損なわれるなどの課題が指摘されている。このため、農作業や災害対応を考慮した構造や下部農地での作付け品目の選定、さらに平地や中山間地など規模・地域に応じた経営モデルの在り方などを検討する。 ◎コロナ対応で福祉部門の6割で超過勤務 ― 総務省 総務省は2月9日、コロナウイルス感染症対応に伴う地方公務員の超過勤務実態を発表した。緊急事態が宣言された昨年4~6月の3か月間に上限規制を超えて勤務した職員は全体の4.3%だが、うちコロナ対応部署の職員は33%にのぼる。さらに、福祉関係部門全体では5.9%だが、コロナ対応部署の職員は59%と過半数を超えた。また、超過勤務した職員には医師の面接指導が行われるが、同3か月間の対象職員は延べ4万6,725人(1.3%)で、うち52%はコロナ対応部署の職員。しかし、実際に医師の面接指導が行われたのは延べ2万1,544人(46%)で、過半数が受けていない。 また、総務省はコロナ感染拡大に備えた自治体の機能維持・業務継続の緊急点検結果を発表した。都道府県では100%で対応。うち39団体(83%)は業務継続計画で対応。市町村も1,220団体(70%)が業務継続計画で、359団体(21%)は同計画以外で対応しているが、162団体(9%)は未対応だった。なお、同省は1月14日、各自治体に感染拡大に備えた自治体の機能維持・業務継続の緊急点検を要請した。具体的には、業務を①強化・拡充、継続すべき「発生時継続業務」②それ以外の縮小・中断する業務 ― に区分し、組織全体として必要な業務体制を確保するよう要請した。 ◎親権者の「しつけ」で懲戒権を削除 ― 法制審議会 法務省の法制審議会は2月14日、親子法制の見直しなど民法等改正要綱案を答申した。親権者の子どもに対する「懲戒権」を削除し、「しつけ」を口実にした虐待正当化を明確に否定した。また、離婚後300日以内に生まれた子を「前夫の子」と見なす「嫡出推定」は維持するものの、女性が出産時点で再婚していれば現夫の子とする例外を設けるとともに、女性が離婚後100日間は再婚できない規定も廃止する。 一方、内閣府は2月4日、離婚と子育てに関する世論調査を発表した。未成年の子がいる夫婦の離婚について「離婚した方がよい」が59%と過半数を上回ったほか、離婚後は夫婦一方が親権者となる現行制度は89%が知っているが、離婚後も子の進路等の養育に双方が関わることは「望ましい」が50%、「特定条件がある場合は望ましい」も42%と多かった。なお、離婚後も双方が関与すべき事項では「子の大病の治療方針」(59%)、「子の教育進路」(53%)などが多かった。また、別居親の養育費負担では「同居親と同程度負担すべき」が65%で最も多く、72%は「離婚までに養育費の取組をすべき」と回答した。 ◎計画策定義務付で基本原則 ― 地方分権有識者会議 政府の地方分権改革有識者会議は2月28日、「計画策定における地方分権改革の推進」をまとめた。国が求める計画策定が自治体の事務負担との指摘が多く、内閣府調査では計画策定の規定がこの10年間で1.5倍に増えていた。このため、昨年秋から計画策定・手続の一般通則的ルールを検討していた。「計画策定の基本原則」に「できるかぎり新たに設けない」を掲げ、必要な場合も①計画等の内容・手続は自治体の判断に委ねる②支障がない限り策定済み計画等との統合・他自治体との共同策定を可能とする ― とした。併せて、①義務的な国への協議・報告等の手続は原則不要②意見聴取手続も必要なものに限定 ― なども求めた。 また、内閣府は2月14日、「地方分権改革・提案募集方式ハンドブック(2022年版)」と「地方分権改革・提案募集方式、取組・成果事例集」をまとめた。成果事例では、「生活保護費返還金等のコンビニ納付」「放課後児童クラブ職員の基準を地域実情に配慮」「小規模多機能型居宅介護の定員の『従うべき基準』を『標準』に」「病児保育施設を整備する者の範囲要件緩和」など25事例を紹介している。
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(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)
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