地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2022年11月中央の動き


中央の動き


◎大学設置規制の改革で工程表 ― 教育未来創造会議
 政府の教育未来創造会議は9月2日、5月にまとめた第1次提言の工程表を公表した。提言では、「日本の社会と個人の未来は教育にある」として、現在35%の理系分野の学生割合を5割程度に増やす目標を示すとともに、学部段階の給付型奨学金と授業料免除の中間層への拡大、自治体や企業による奨学金の返還支援などを提言した。これを受けて工程表では、就学新制度・貸与型奨学金の見直しを来年の法改正を経て2024年度から実施する。また、大学設置基準を今年度中に改正するほか、大学規模抑制は24年度開始申請から順次適用、計画的な規模縮小・撤退等の経営指導徹底は23年度中に制度改正し24年度から実施するなどとした。
 一方、内閣府は9月12日、地域の大学振興・雇用機会創出による若者の就学・就職促進法の施行状況を検討する有識者の初会合を開催した。感染症拡大やデジタル化も踏まえ地域の若者の就学・就業の促進方策をはじめ、①専門職大学等を23区の定員抑制の対象とすること②大学進学時の人の流れの変化と27年度末までの見直しに向け把握すべき指標 ― などを検討する。


◎デジタル人材の確保・育成支援策など改定 ― 総務省
 総務省は9月2日、自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画の改定を発表した。国の重点計画やデジタル田園都市国家構想などの基本戦略・支援策のほか、外部デジタル人材確保の方向性と国の支援策を掲載。具体的には、①「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」を策定し、公募・研修と人材のリスト化②都道府県や市町村間での外部デジタル人材のシェアリング支援③自治体で活躍する外部デジタル人材間のネットワーク化支援 ― などを挙げた。このほか、情報システムの標準化・共通化では市町村の進捗管理等支援ツールを構築。また、地域のデジタル実装による課題解決のため「地域社会のデジタル化に係る参考事例集」をバージョンアップした。
 一方、文科省は8月31日、学校教育の情報化実態調査結果を発表した。今年3月1日現在、教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数は0.9人と初めて1人1台を上回った。都道府県別では、徳島が0.8人と最も高く、滋賀が1.1人で最も低い。このほか、普通教室の無線LAN整備率は98.0%、普通教室の大型提示装置の整備率も81.9%と前年より上昇した。
◎「農村RMO」の維持・強化策など紹介 ― 農水省
 農水省は9月5日、第1回農村RMO推進研究会を開催した。中山間地域では、集落維持機能が弱体化しているため、農村RMOによる地域コミュニティの維持・強化策を探る目的で開催した。農水省が、地域運営組織(RMO)は6,064組織(2021年)形成されているが、「祭り運営」(44%)、「高齢者交流」(33%)などが多く、「農道補修」(1.6%)など「農」に関する活動は少ないなどの実態を紹介。農村型地域運営組織(農村RMO)形成推進事業(今年度予算97億円)の「むらづくり協議会」実証事業や中間支援組織の育成事業などを説明した。次いで、安来市、豊田市、花巻市での農村RMOなどの取組状況が報告された。
 一方、内閣府は8月29日、第3回小さな拠点・地域運営組織の形成推進有識者懇談会を開催した。全国で小さな拠点(22年8月)は385市町村(22%)で1,510、地域運営組織(21年度)は814市町村(47%)で6,064組織されているとし、デジタル田園都市国家構想基本方針との関連を説明。また、埼玉県小鹿野町、大仙市での取組が紹介された。このほか、総務省や農水省、国交省などが小さな拠点づくりの取組を報告した。
◎下水汚泥活用など新バイオマス計画を決定 ― 政府
 政府は9月6日、新たなバイオマス活用推進基本計画を閣議決定した。下水汚泥などを含めた総合的なバイオマス利用の推進やバイオプラスチックなど新たな技術開発によるバイオマス産業の創出で農山漁村の活性化・地球温暖化の防止などを重点に進める。また、都市部も含めた地域主体のバイオマスの総合的な利用推進、製品・エネルギー産業のうち一定のシェアを国産バイオマス産業により獲得を目指すとし、バイオマスの年間産出量の約80%利用を2030年の目標に設定。全都道府県でバイオマス活用推進計画を策定し、市町村がバイオマス関連計画を活用するなどとした。
 一方、農水省は9月12日、農産物脱炭素の見える化に向け「温室効果ガス簡易算定シート」(試行版)を作成した。フードサプライチェーン全体の脱炭素化推進のため、取組を可視化するもの。生産者が生産段階で実際に使用する農薬・肥料等の資材投入量や農業機械・施設暖房等のエネルギー投入量を入力することで温室効果ガス排出量が算定できる。現在は米、トマト、きゅうりの3品目だが、さらに対象品目を拡大する。
◎子育て支援や介護制度改革案を年内に策定 ― 政府
 政府は9月7日、全世代型社会保障構築本部を開催。会議で岸田首相は、「我が国の将来を支える人材を育む未来への投資として子育て、若者世代への支援を強化し少子化対策に大胆に取り組むことが重要だ」と指摘し、①子ども・子育て支援の充実②医療・介護制度の改革③働き方に中立的な社会保障制度の構築 ― の3テーマについて年末までの報告を指示した。
 一方、厚労省は9月16日、2022年版厚生労働白書を公表した。「社会保障を支える人材の確保」をテーマに現役世代が急減する中での医療・福祉サービス提供の在り方や人材確保対策を提言した。2040年に必要となる医療・福祉就業者1,070万人に対し確保が見込まれる就業者数は974万人と大きく下回るほか、医師・看護職の地域別・診療科目別の偏在も課題となっている。このため、①医療・福祉サービス改革②地域実情に応じた取組③処遇改善④多様な人材の参入促進 ― の必要性を指摘。その具体策に、オンライン診療など遠隔医療推進、介護ロボットの導入支援、医療従事者の多職種連携(チーム医療)、高齢者・障害者・子どもなど複数分野の包括的支援体制の整備、農福連携の推進、在宅医療・訪問介護の看護職養成などを挙げた。
◎地域公共交通導入ガイドラインで4類型 ― 国交省
 国交省は9月7日、地域公共交通(BRT)導入のガイドラインを策定した。BRTの維持・確保には環境負荷の低減と地域活性化が求められるとし、自治体がBRT導入の際の留意点などを示した。BRTの特徴等に、①PTPS(公共車両優先システム)や快速運行を導入して連結バスや高頻度運行で多くの利用者を輸送②基幹交通として専用走行空間を整備、またはバス優先レーンやPTPSを導入③主要鉄道駅と観光地などを結ぶ区間を定時性を高めつつ連結バスで運行④鉄道の廃線敷を活用してバス専用道を整備 ― の4類型を解説。その上で、構想段階・計画段階・事業化段階・管理運営段階ごとに留意点などを示した。
 また、国交省の社会資本メンテナンス戦略小委員会は9月8日、「総力戦で取り組むべき次世代の地域インフラ群再生戦略マネジメント」案をまとめた。小規模市町村では、予算・人員不足で補修・修繕に着手できない状態から重大事故のリスクが高まっていると指摘。このため、複数・広域・多分野のインフラを「群」として捉える「地域インフラ群再生戦略マネジメント」が必要だとし、そのための計画策定プロセス、実施プロセスの具体的内容などを解説した。
◎農林政策の大転換へ基本法改正を指示 ― 岸田首相
 政府は9月9日、食料安定供給・農林水産業基盤強化本部を発足させた。同本部で岸田首相は、食料安定供給のリスク顕在化を踏まえ①スマート農林水産業②農林水産物・食品の輸出促進③農林水産業のグリーン化④食料安全保障の強化 ― の4本を柱に「農林水産政策を大きく転換する」と述べ、食料・農業・農村基本法の見直しを指示。併せて、物価高騰緊急対策として①下水汚泥・堆肥等の未利用資源の利用拡大による肥料の国産化・安定供給②小麦・大豆・飼料作物の国産化推進③食品ロス削減対策の強化 ― を内容とする「緊急パッケージ」を来年にも策定するよう指示した。
 これを受けて、野村農水相は同日の会見で、省内に食料安定供給基盤強化本部を設置、各界各層の意見を聴きながら1年かけ農村基本法の検証と見直しに向けた検討を進めることを明らかにした。同省は9月29日、食料・農業・農村政策審議会に同基本法の検証を諮問。同審議会は、来年夏に答申をまとめる。
◎物価高騰対策で自治体向け地方交付金創設 ― 政府
 政府は9月9日、物価・賃金・生活総合対策本部を開き、電力・ガス・食料品などの価格高騰対応として電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金の創設などの追加対策を決めた。創設する同交付金は総額6,000億円で、都道府県・市町村に人口や物価高騰率などを基に交付。推奨事業メニューに、低所得世帯に一律5万円のプッシュ型給付のほか、①小中学校の給食費等の支援②プレミアム商品券や地域で活用できるマイナポイントの発行③省エネ性能の高いエアコン・給湯器等への買替支援 ― などを挙げた。また、事業者支援では、医療機関や介護施設、保育所等に対する支援や農林水産業、中小企業、地域交通・観光業などへの支援を挙げた。
 また、文科省は同本部で各自治体の学校給食費の保護者負担軽減の取組状況を報告した。今年7月29日現在、「実施している」は679団体(38%)、「実施を予定」が812団体(45%)あり、「予定していない」は302団体(17%)だった。同省は、「今後も、自治体の取組を促していく」とした。
◎高齢者の数・割合ともに過去最多を更新 ― 総務省
 総務省は9月18日、統計から見た我が国の高齢者(2022年9月15日現在)を発表した。高齢者(65歳以上)の人口は前年より6万人増加の3,627万人と過去最多、その割合も29.1%と過去最高を更新した。うち、男性は1,574万人(男性人口の26.0%)、女性は2,053万人(女性人口の32.0%)。また、75歳以上は1,937万人(人口比15.5%)と初めて15%を超えた。一方、21年の高齢就業者は前年比6万人増の909万人と、18年連続して増加、過去最多となった。就業率は前年と同じ25.1%で、うち男性は34.1%(20年34.2%)、女性は18.2%(同18.0%)。また、65~69歳は50.3%と初めて過半数を超えた。
 一方、厚労省は9月9日、2021年の国民基礎調査結果を発表した。単独世帯は1,529万2千世帯(2019年・1,490万7千世帯)、その割合は29.5%(同28.8%)、高齢者世帯は1,506万2千世帯(同1,487万8千世帯)、その割合は29.0%(同28.7%)で、いずれも過去最高となった。一方、1世帯当たり平均所得金額は564万3千円(同552万3千円)と増加した。また、生活意識が「苦しい」とした世帯は53.1%(同54.4%)と前回調査より低下している。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)