地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2022年12月中央の動き


中央の動き


◎都道府県と病院等で病床確保協定 ― 感染症法改正案
 政府は10月7日、感染症予防・患者医療法の改正案を閣議決定した。感染症発生・まん延に備えた病床等の確保や保健所等の検査体制強化、機動的ワクチン接種体制整備などを盛り込んだ。具体的には、都道府県と医療機関で結ぶ病床、発熱外来、自宅療養者等の医療確保に関する協定締結を法定化するとともに、公立・公的医療機関等には感染症発生・まん延時の医療提供を義務付ける。このほか、①都道府県と保健所設置市・特別区等で構成する連携協議会の創設②緊急時の入院勧告措置に対する都道府県知事の指示権限の創設③自宅療養者等に対する健康観察の医療機関への委託の法定化④ワクチン接種で国から都道府県・市町村に指示する新たな臨時接種類型・損失補償契約を締結できる枠組みの導入 ― などを盛り込んだ。
 一方、全国市長会は10月7日、同改正法案に対する意見を発表した。都道府県と保健所設置市・特別区との連携協議会は地域実情に応じて柔軟に対応できるよう求めた。また、都道府県の指示権限創設ではその趣旨を明確に示すとともに、自宅・宿泊療養者への健康観察・生活支援の保健所・医療機関・市町村の役割分担も国が方針を策定するよう要請。このほか、保健師等の専門職の人材確保、流行初期医療確保措置の負担では国保財政に影響が出ないよう求めた。


◎自治体情報システム標準化で「基本方針」 ― 政府
 政府は10月7日、地方公共団体情報システム標準化基本方針を閣議決定した。自治体情報システム標準化法(2021年9月1日施行)では、個々バラバラの自治体情報システムを標準化するとし、その対象範囲(政令)に児童手当、住民基本台帳、固定資産税、国民健康保険、生活保護などの事務を挙げ、国が策定する標準に適合した情報システムを利用するとされた。これを受けて、基本方針では、移行期間について「2025年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行を目指す」としたほか、情報システムの運用経費について「2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す」との方針も示した。
 一方、全国市長会は9月29日、「基本方針に対する意見」を政府に申し入れた。移行スケジュールについて、各都市の推進体制や進捗状況を踏まえ必要に応じ見直すとともに、国がシステム統一・標準化で運用経費3割削減を求めたことについても必要に応じた見直し検討を要請した。このほか、①新たに必要となる経費を確実に措置②標準化対象外の業務・自治体独自の施策対応も可能とする③ガバメントクラウドの管理・運用の障害発生時に早急に復旧できるよう措置する ― などを要請した。
◎孤独・孤立対策で3視点の対応を提言 ― 政府
 政府の孤独・孤立対策官民連携プラットフォームは10月7日、「『声を上げやすい・声をかけやすい社会』に向けた取組のあり方」をまとめた。制度を知らない層には、転入・転出・母子健康手帳などの交付時に「プッシュ型」による関わり強化、制度は知っているが相談できない層には「制度活用は権利である」との認識周知とオンライン化など申請負担感の削減などを提案。また、相談者になりうる層には「ためらい」除去が必要だとし、身近な実践者の事例紹介や認知症サポーター養成事業のような制度創設を提言した。
 一方、内閣府は10月12日、「生理の貧困」に対する都道府県・市町村の取組(2022年7月20日時点)を発表した。実施自治体は715団体で、前年(581団体)より増えた。都道府県別では、広島(79%)、愛媛(76%)、鳥取(70%)で高く、富山・高知(各6%)、島根(10%)で低い。調達元は予算措置が最も多いが、防災備蓄、企業や住民からの寄付も多い。また、配布場所では学校のトイレ配置のほか、相談者への配慮のため専用の「意思表示カード」「スマートフォン画面」提示だけで受け取れる工夫も見られた。
◎DV対策の保護命令の抜本強化など提言 ― 内閣府
 内閣府の専門調査会は10月12日、DV対策の抜本的強化を求める報告書をまとめた。配偶者からの暴力被害の発生から通報、保護命令、生活再建支援までを抜本的に強化する内容で、政府はDV防止法改正案を来年の通常国会にも提出する方針。「保護命令の強化」では「被害者を畏怖させる言動」「精神に対する重大な危害を受けるおそれが大きい」を対象に加えるほか、「子への電話禁止命令」も追加する。また、保護命令期間を6か月から1年に拡大する。このほか、SNSによる連絡やGPSを使った位置情報の取得を新たに電話等禁止命令の対象に追加。これら保護命令違反の罰則も強化する。さらに、生活再建支援・多機関連携の強化のため配偶者暴力対策の会議体を法定化するとともに、基本方針・都道府県計画の生活再建支援・多機関連携の記載を義務化する。
 一方、全国都道府県議会議長会は9月15日、都道府県議員を対象にハラスメント防止研修会を開催した。三浦まり上智大学教授が「議会ハラスメントの防止に向けて」をテーマに講演。内閣府の「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」も活用し議論した。

◎23区の大学定員抑制の見直しに反対 ― 市長会など
 全国市長会と全国町村会は10月13日、東京23区内の大学定員抑制策の見直しに反対する意見を発表した。東京23区域の大学定員抑制は、地方での若者減少の防止と地域振興を目指す地域の大学振興・若者雇用機会創出法(2018年)に盛り込まれたが、内閣府は9月12日、有識者会議を発足させ「専門職大学等を23区内の定員抑制対象とすること」のあり方について審議を開始した。同会議では、このほか感染拡大やデジタル化を踏まえた就学・就業の促進策なども検討する。
 このため、全国市長会・全国町村会は、現在も23区内の学生数は増加を続けているとし、人口減少に歯止めをかけ東京一極集中是正を図るとの地方創生の目的を没却しないよう「23区内の大学定員抑制策の早期撤廃・緩和につながる見直しは断固反対する」とした。一方、東京都は10月18日、緊急要望を発表した。東京の学生数増加は東京近郊の学生によるもので地方から東京への進学者増加の事実はないと指摘。さらに、「定員抑制は学生の選択や大学経営の自由を縛るもので、大学の国際競争力の低下にもつながりかねない」などと23区内の定員抑制策を批判した。
◎コロナ禍で女性の自殺が大幅増加 ― 厚労省
 厚労省は10月14日、2022年版自殺対策白書を公表した。2021年の自殺者数は2万1,007人で、前年より74人減少。うち男性は1万3,939人で同116人減少、女性は7,068人で同42人増えた。また、コロナ感染拡大前5年平均と比べると女性自殺者が増加、「~19歳」「20~29歳」の女性自殺者が男性よりも著しく増えた。これを受けて政府は同日、「自殺総合対策大綱」を閣議決定した。重点施策に地域レベルの取組支援強化、自殺対策の人材確保・養成などを挙げた上で、2026年度までに自殺死亡率を15年度比で30%削減するとした。
 また、厚労省は10月21日、2022年版の過労死等防止対策白書を公表した。仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者が53%(2021年度)と半数を超えた。一方、自殺者2万1,007人のうち勤務問題が原因・動機の自殺が1,935人で前年より17人増えた。このほか、地方公務員の公務災害補償では、うち脳・心臓疾患の受理件数(2020年度)は49件(前年度45件)、認定件数は22件(同24件)で、一般職等16件、義務教育学校職員15件で多い。精神疾患等の受理件数は148件(同153件)、認定件数は60件(同54件)で、一般職等80件、義務教育学校職員23件で多い。
◎議会の位置付け法定化など答申素案 ― 地制調小委
 第33次地方制度調査会の専門小委員会は10月24日、「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申」の素案を審議した。素案は、地方議会では女性議員が都道府県12%、市18%、町村12%、無投票当選者割合が都道府県27%、町村23%など多様性を欠いているとし、多様な人材参画のため①勤労者が議会参画できる夜間・休日議会の開催②会議規則に育児・介護の取扱明確化とハラスメント窓口の設置明記③小規模町村の議員報酬のあり方検討 ― などを提案。また、地方自治法での議会の位置付け明確化のため、「議会の設置根拠」規定に議事機関の位置付けを追記するほか、①自治体の意思決定など議会の役割・責任②議員は住民の付託を受け職務を行う ― などを規定。「立候補環境の整備」では、企業の取組として立候補に伴う休暇制度の創設や議員の副業・兼業を可能とするなどを提案した。併せて、議会のデジタル化ではSNS活用などデジタル技術を活用した情報発信のほか、本会議へのオンライン出席では「幅広く可能」「一定の場合に可能」など国会の取扱も踏まえ検討。議会への請願書提出や国会への意見書提出はオンライン化を可能とするなどを提案した。
 同素案に対し、委員から「議会の多様性などを指標化し交付税措置などにつなげないと改革は進まない」(伊藤正次東京都立大学教授)、「議員の多様性・無投票増加の課題は議会だけが悪いのではなく、選挙の結果こうなっていると住民も感じてほしい」(谷口尚子慶応大学教授)、「ハラスメントのトラブルを解決する仕方まで書かないと自分の自治体で当事者が言い出すのは大変」(荒見玲子名古屋大学教授)などの意見が出た。同調査会は、次回会合で「答申案」を審議する。なお、全国都道府県議会議長会など議会3団体は9月13日、「地方議会が自治体の意思決定を行うことを明文化する地方自治法改正」を求める意見をまとめ、寺田総務相や自民党役員に要請した。
◎首相が交付税増額を表明 ― 国と地方の協議の場
 国と地方の協議の場が10月25日、首相と関係5大臣、地方六団体会長が参加し開催された。岸田首相は、日本経済再生の優先課題に物価高・賃上げ・投資への対応を挙げ、総合経済対策で地方交付税の増額を表明するとともに、旧統一協会問題で「地方相談窓口でも被害者に寄り添う」よう要請した。また、マイナンバーカード交付申請の促進も求めた。
 これを受けて、平井全国知事会長は地方交付税増額を「時宜を得たもの」と評価し、地方でも「事業者や生活者に寄り添った支援をしたい」と述べるとともに、①デジタル田園都市国家構想・地方創生・地方分権の推進②新型コロナウイルス感染症対策 ― を要請した。また、六団体側がそれぞれ物価高騰に伴う生活困窮者への支援や地方一般財源総額の確保・充実、デジタル田園都市国家構想交付金の予算枠確保・拡充、ガバメントクラウドへの移行に向けたフォローアップと地方実情を踏まえた見直しのほか、①脱炭素社会実現に向けた取組支援②持続可能な社会保障の基盤づくり③次世代を担う「人づくり」④地方議会の地方自治法への明確な位置付け ― などを求めた。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)