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2006年10月のコラム

許されない「地方自治体=官」

 

 今年の通常国会でついに通称「公共サービス改革法」(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)が制定された。そして9月には、「公共サービス改革基本方針」が閣議決定され、いよいよいわゆる「市場化テスト」の導入が本格化することになる。

 その基本理念といえば、「公共サービスによる利益を享受する国民の立場に立って、国の行政機関等又は地方公共団体がその事務又は事業の全体の中で自ら実施する公共サービスの全般について不断の見直しを行い、その実施について、透明かつ公正な競争の下で民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、国民のため、より良質かつ低廉な公共サービスを実現することを旨として」行うことにある(第3条)。

 このように国の行政機関等と並んで地方公共団体も「競争の導入による公共サービスの改革」を推進することが求められ、具体的には、その際、「民間事業者の創意と工夫が反映されることが期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札に付すること」(第1条)となる。ちなみに、小泉内閣最後の「骨太の方針」では、こうした市場化テストの促進を盛り込んだ地方行革の新しい指針を策定することが予定されている。

 この法案を一瞥したとき、私は、地方自治体が「官民競争入札」でいう「官」として一括して扱われていることに強い違和感を覚えざるをえなかった。いったい、これは許されることなのだろうか。

 「官民競争入札」でいう「官民」とは何か。それは、昔ながらの「官尊民卑」の思想がしみついた用語法ではないのか。民の上に立つ官、それを否定するところから戦後民主主義は出発したはずである。憲法の条文には「官吏」の概念が2か所残ってしまったが、戦後改革で中心課題とされた行政の民主化にあたって、天皇の官吏からパブリック・サーバントとしての公務員への転換が説かれ、地方自治についても「官治」からの脱却が目指されたのであった。よもや、そのことの歴史的意義を否定する者はいるまい。

 しかし、それにもかかわらず、「官」の伝統的思想は牢固として命脈を保ってきた。驚いたことに「社会の木鐸」を自任する大新聞ですら、本来であれば、戦後の再出発にあたって死語とすべきであったその言葉を平気で使い、地方自治体を「官」の中に含めた記事をくり返し載せている。それどころではない。公共サービスの見直しに乗り出した地方自治体自らが、「民と官でともに担う『新しい公共』を創ることが求められている」などという表現を使ったりする始末である。

 戦前から戦後への転換まで遡らずとも、 21世紀はじめの中央省庁再編が、長らく国の「官」によって独占されてきた公共性の再定義から出発したことを想起するだけでもよい。それは断じて、古色蒼然とした「官」の世界に自治体行政を追い込むために必要とされたことなどではない。むしろ、自治体行政も含めて、行政サービスが公共サービスの一部でしかないことをわきまえたうえで、いかにして、より良質で安全な公共サービスの供給を確保し、「公共の責任」を果たすことができるのか、そのシステムづくりこそが肝要なのである。

いまむら つなお・中央大学教授 )


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