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2009年3月のコラム

ロンドンのバスと混雑税と監視カメラ

武藤 博己

 ロンドンの2階建バスはどこまで乗っても1ポンドである。しかも、2階席の一番前に座ると、まちの景色がよく見えるだけでなく、道路の左端にバスレーンが完備されており、渋滞するマイカーを横目に、スイスイと走ることがよくわかる。さすがに、都心に入ると、渋滞につかまるが、景色が見えるので地下鉄よりもバスの方が私の好みだ。なお、バス代の1ポンドはオイスター・カード(スイカのようなカード)を利用した場合で、現金の場合には2ポンドである。最近の為替レートは1ポンドが130円台となっているため、安く感じる。

 バスは快適なのだが、問題はどのバスに乗ればよいのかわからない点である。バス停で丹念に行き先とバス路線を探すか、バス路線の地図を入手して何番のバスがどの道路を走るのかを知っておく必要がある。乗り換えれば、ロンドンのどこでも行ける。1990年頃にはなかったバス路線が住宅地の中まで伸びており、地下鉄よりも路線の木目がずっと細かいので、便利なところもある。ちなみに、オイスター・カードは、1日の上限が決まっており、それ以上は何回乗ろうと無料となる。

 バスに乗って気づくことは、曲がりくねったロンドンの道路に沿って、バスの幅よりわずかに広いだけのバスレーンを走り抜ける運転手の腕前も見事であるが、バスレーンに駐車する車が見事に排除されていることである。バスレーンを走ってよいのはバスとロンドン・タクシーだけであり、一般車は規制されている。バスレーンに入る車がほとんどない理由は、カメラでバスレーンが監視されているからである。地域により通行規制の時間や曜日も異なるが、違反すると反則金の請求書が届く。日本の反則金のようなものだが、カードやチェック、現金で支払うことができる。

 バスがここまで優遇されているのは、ロンドンの混雑税収入を公共交通機関の改善に向けているからである。ブレア政権になってから、交通政策が転換され、自治体に交通規制・課税の権限が与えられた。1999年に制定されたGLA2000年法(Greater London Authority Act 2000)によって、2000年7月にグレーター・ロンドン・オーソリティ(GLA)が設置されたが、同年5月の選挙で、ケン・リビングストンが市長に選ばれた。同氏はサッチャー政権で廃止されたグレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)のリーダーだった人物で、その後は労働党の下院議員であったが、ロンドン市長選出馬にあたり労働党から公認されず、無所属で立候補した。その際、公認されなかったハンディを克服するため、マニフェストで政策を明確にして、当選を勝ち取った。そのマニフェストに、交通問題への取組みが明記されていた。

 こうしてロンドンの混雑税は、2003年2月から導入され、対象地域はロンドンの中心部約21平方キロ(東京都港区とほぼ同じ面積)であり、月曜日から金曜日の7:00〜18:00の間とされた。導入当初は1日5ポンドであったが、2005年7月から8ポンドに引き上げられた。さらに、2007年2月には対象地域が西側の約17平方キロにも拡大され、ほぼ2倍になった。

 課金の確認は、対象地域への進入口と退出口の340地点にカメラが設置されており、カラー画像と白黒画像の記録を撮影して、ナンバー・プレートを読み取り、それを課金データベースに問い合わせるという方法である。画像処理の能力は、90パーセント以上を正確に読み取れる精度だという。事前支払済の車両は画像が削除され、未納の車両は深夜12時までに支払われれば、画像が削除される。その後は、翌日の深夜までなら10ポンドであるが、それ以降は車両の所有者に対して120ポンドの反則金請求書が発せられる。14日以内に支払う場合には半額になる。

 ロンドンでは、いやイギリス全体で、多くのカメラがあちこちに設置されており、混雑税の徴収のみならず、スピード違反の取締や犯罪の抑止・捜査に利用されている。その意味では、日本より進んだカメラ監視社会であるといえる。

(むとう ひろみ 法政大学大学院政策創造研究科教授)

 

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