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2009年6月のコラム

介護保険と障害者

 奈良県のある都市の地域包括支援センターのメンバーと一緒に、1昨年からボランタリーな勉強会を二月に1回程度の頻度で行ってきた。いつも12人程度のスタッフが集まる。夜の6時半から残業代なしで9時まで。つい先日は、認知症の人がどこまで在宅で暮らせるか、その限界をどう判断するかについて、二つのケースについてのケアカンファレンスだった。

 そこでも話題になったのは、障害者自立支援法と介護保険制度との関係である。要介護度が4や5で濃厚なサービスを必要とする人に対して、介護保険給付ではカバーできないサービスを、障害者自立支援法によって給付することで、生活支援の実があがる可能性がある。たとえば、特別養護老人ホームへの入所は難しいが、障害者の療護施設なら入所できるというように。そして、介護保険と障害者支援給付で類似の給付であれば、所得が低い場合、利用者の自己負担は今のところ特例減額の措置もあり障害者自立支援給付のほうが低く、経済的負担は少ない可能性がある。しかし、介護保険を担うケアマネージャーなどは、介護保険の枠内で考えることに慣れていて、このことに気がつかないことがある。

 ところで現場では「介護保険優先の原則」について誤解があり、障害者のサービス利用に制限を加えるような対応も見られた。自立支援法の第7条では、「他の法令による給付との調整」として、概ね「介護保険法による介護給付で自立支援給付に相当するものを受けることができるときは、自立支援給付は行わない」と規定している。

 たとえば、従来の障害者デイサービスから転換した「訓練等給付費」は、介護保険のデイサービスに相当するから、まず介護保険のデイサービスを受けることになる。ある女性障害者の場合、支援法の前身である障害者支援費制度の下では、ウイークデイには毎日、デイサービスで入浴し、洗髪していた。それが彼女の作業所通いを支えていたのである。しかし65歳に到達したとたん、要支援1と判定され、週に一日のデイサービスとされて、「他はできません」と窓口で断られるということが起きた。全国で同様なサービス水準や量の切り下げが生じたのである。このような従来受けてきたサービスを介護保険サービスの範囲内に押さえ込む、ということが「介護保険の優先」と誤解されて横行したようである。

 しかし、「この介護保険の優先」とは、まず介護保険サービスを提供し、それで足りないサービスの種類や量は、市町村の判断により、自立支援法の自立支援給付で行うことを前提としている。この場合は、週一回は介護保険のデイサービス、残りの5日は市町村の担当者会議などの判断で、自立支援法の職業訓練等給付費で保障すれば済む。また介護保険にないサービスは、当然に自立支援法で提供する、ということに過ぎない。

 ところで障害者自立支援法は2006年の4月から施行されたが、障害当事者からの反対が強く、3年後の見直し規定もあり、制度的に極めて不安定のまま推移してきた。与党のプロジェクトチームは、09年2月10日の実務者会合で、費用の1割自己負担(応益負担)を定めた現行法の規定を削除、所得に応じた応能負担とする方針を固めた(朝日新聞2月11日)。原案では「今回の法改正では、介護保険との整合性を考慮した仕組みを解消する」とし、「障害者福祉の原点に立ち返り、自立支援法により障害者の自立生活に必要十分なサービスが提供されるという考え方に立って、給付を抜本的に見直す」と記述していた。この応能負担に改めた改正法が3月31日に国会に提出されている。この改正法案については、与党PT案よりも後退し、実質的に応益負担を残し、介護保険に統合するための布石としての「障害程度区分」についても廃止ではなく、緻密化の方向が取られているなどの批判が強い。

さわい まさる・奈良女子大学名誉教授)

 

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