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2010年8月コラム

気になる「新しい公共」の行方

 鳩山内閣から菅内閣への「置き土産」の中で、気になるひとつが「新しい公共」の行方である。

 鳩山前首相は、政権交代後の臨時国会における所信表明演説につづいて、今年の通常国会における施政方針演説でも「新しい公共」を取り上げた。

   今、市民や非営利組織(NPO)が、教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。……(中略)……人を支えること、人の役に立つことは、それ自体が歓びとなり、生きがいともなります。こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域のきずなを再生するとともに、肥大化した「官」をスリムにすることにつなげていきたいと考えます。

 覚えているだろうか。この施政方針演説は、「いのちを、守りたい。いのちを守りたいと、願うのです」という、出し抜けの呼びかけからはじまった、あの「唐突」演説である。最後のむすびに入ってからも再び「いのちを守りたい」のコトバがくり返され、しかも、「いのちを守るための『新しい公共』は、この国だからこそ、世界に向けて、誇りを持って発信できる。私はそう確信しています」とすら述べられたのだった。

 「自立と共生を基本とする人間らしい社会」を築くのに「新しい公共」をひとつの橋頭堡としたいという思いは理解できる。しかし、「いのちを守ること」と「新しい公共」とを直結させ、中身が不明なその「いのちを守るための『新しい公共』」をもって、「世界に向けて、誇りを持って発信できる」などと言ってのけるのは、どうかと思う。いったいが、そのような「確信」もどきと、その一方でうっかりホンネを漏らしてしまったということなのか、つなげていきたいとする「肥大化した『官』をスリムにすること」とは、そんなにしっくりした関係にあるものだろうか。

 突然の辞任表明があった民主党の両院議員総会でも、鳩山代表から「新しい公共」についての言及がなされ、「まだ、なかなか新しい公共という言葉自体がなじみが薄くて、よくわからん、そう思われているかもしれない」と述べられたという(「朝日新聞」夕刊)。数日後の鳩山退陣当日には、先の施政方針演説とほぼ時を同じくしてスタートした「新しい公共」円卓会議の最終取りまとめ(宣言)も行われた。あるいは、それを読んだ人びとの大半も同じ感想だったのかもしれない。

 しかしふり返れば、東京・世田谷区で、「新しい公共」を区政の基本理念とする企てがあったのは、すでにひと昔前のことであった。それにかかわったわたし自身の経験からすると、なにをいまさら、という感じがしないわけでもない。その当時から「新しい公共空間」やら「新たな公」やらの類似した表現もしきりに使われるようになった。なかでも「新しい公共空間」の形成などという標語は、総務省主導による威嚇的な地方行革の推進過程ですでに色あせたお題目になってしまっている。一説によると、「新しい公共」もまた「同じ穴の狢」でしかないという。

 そんな十把一絡げの整理でよいのかどうか、わたしのかねてからのこだわりはまだ消えていない。そういえば、「置き土産」という表現には「あとに残された厄介な事柄」という意味合いもあるようだが、「新しい公共」を鳩山内閣から引き継いだ菅内閣は、これから先、それをどのように取り扱うことになるのだろうか。具体策としてすでに提言されているような「公共サービス分野での包括的連携に関するガイドライン(日本版コンパクト)」が策定されるのはいつのことだろうか。

いまむら つなお 山梨学院大学教授)

 

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