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2012年1月コラム

介護保険事業計画余聞

 介護保険も運営が始まって12年が経つ。3年ごとの事業計画をつくるのだが、来年度からは第5次になる。保険者である各市町村、特別区では現在、改訂作業が行われ、新しい第1号被保険者(65歳以上)の保険料が年度末の3月議会にかけられる。予想では、今回は全国平均でこの保険料基準額が第4期計画での4,160円を大きく超え、5千円以上になる。

 財政面では2009年度決算で7兆5,587億円(うち介護給付費国庫負担金1兆2,346億円)という大きな事業に成長してきている。2012年度の概算要求ではこの介護給付費国庫負担金は1兆4,213億円なので、国庫負担金ベースでは毎年度1千億円程度の増加となっている。ちなみに、介護保険制度発足時の2000年度決算では、3兆8,357億円、給付費国庫負担金7,018億円だったから、10年間で決算規模は1.97倍、国庫負担金は1.76倍である。

 なお今後3年度にわたる奈良県A市(人口12万人、高齢化率22%)の給付費見込額の推計(素案)を見ると、2012年度58億6千万円(2011年度の実績見込み比で4.9%増)、2013年度63億1千万円(7.7%増)、2014年度67億6千万円(7.1%増)となっている。これに12月22日に示された介護報酬1.4%の引き上げが加味されることになる。なおこの引き上げ分は、前回、保険料の引き上げをしないで介護職員の給与を改善するために設けられた「介護職員処遇改善交付金」を介護報酬に組み込んだものだ。

 一方で課題も明らかになってきた。第一はヘルパーなど介護スタッフの離職率が高く、介護のスキルが継承されにくいことだ。また10年ほど働いていたベテランがやむを得ず退職していく姿も見かける。基本的要因は、給与水準の低さにある。パートである登録型ヘルパーに依存する割合が高いために、全体の給与水準を低位にしている。また経営環境がよくない事業所もあり、働きがいのある職場ばかりではない。そういうところでは、慢性的な人出不足になやみ、それが処遇改善の足かせになるという悪循環に陥っている。

 また事業主体の多くが小さく、新しい事業展開に動きにくいことや、人材の確保にも課題があるとも指摘されている。2006年度に創設された地域密着型のサービスでお泊まりもできるデイハウス(小規模多機能型居宅介護)には、参入がなかなか進まなかった。それは単体の経営では収支がなかなかとれず、当初の収入不足を賄えたのは特養や老健、それにグループホームなどを組み合わせている「複合型」経営に限られたからだ。

  ところで在宅での介護が望ましいのは、第一には要介護高齢者自身が望んでいることだからであるが、同時に介護保険制度を持続可能な制度とするために施設への過度の依存を避けたいという要因も強く働いている。これが問題を複雑にしている。介護者の負担を軽減しながらの望ましい在宅介護を定着させるためには、医療サービスと生活ケアとを統合した「地域包括ケア」が推進されるべきだというのが今回の改訂の中心テーマだった。しかし現場ではなかなかこの「医療と福祉との連携」は浸透しない。まず言葉が通じない。医師からすれば福祉職の医療知識が圧倒的に不足しているという認識がある。事実そうだ。この点を越えていくためには、福祉職側から医療スタッフに働きかけて壁を低くすることから始めなければならない。もう一つは、介護予防事業を一般施策から介護保険と医療保険利用まで切れ目なくつなげていく持続力が不足している。それは役所の担当者が現場から切り離され、パソコンの画面で仕事を「こなす」スタイルに落ち込んでいることも影響している。要介護者とその家族の生活自立支援をすすめる現場の視点が失われがちだ。介護保険法第1条の「介護状態となったものが、その尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活ができるよう」サービス給付を行う、という目的理念に立ち返ることがなお必要なのだ。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)

 

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