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2015年2月コラム

安易な「地方消滅」論の衝撃

 全国の多くの市町村が「地方消滅」ショックに見舞われている。きっかけは日本創成会議・人口減少問題検討分科会の報告『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』(通称「増田レポート」)とされることが多いようだが、実際には、その公式発表(2014年5月)よりも早く、一昨年暮れの『中央公論』12月号に載った特集記事「壊死する地方都市」冒頭に配置された「戦慄のシミュレーション」が第1弾であり、その半年後、翌年の同誌6月号に載った「緊急特集・消滅する市町村523 ― 壊死する地方都市 ― 」が第2弾であった。
 特集記事の中身に入る前に、私は双方の特集の扉で用いられている「壊死する地方都市」の表題に思わず眉をひそめてしまった。岩手県知事を3期つとめ総務大臣経験もある著者代表の増田寛也氏が、基礎自治体である市町村の近未来について「壊死」などというおだやかではないコトバをなぜ使ったのかと、それが雑誌編集者によるものであることに気づかず、早とちりしてしまったのだ。いつだったか、日本地方自治学会の企画で岩手県知事だった同氏と道州制にかんする公開対談をおこなったときのことを思い起こし、「あの増田さんにして」と、とっさに思いこんだのである。念のため付記しておくと、上記の月刊誌掲載論文の表題は、第1弾のそれが「2040年、地方消滅。『極点社会』が到来する」、第2弾が「〈提言〉ストップ『人口急減社会』」である。
 だが、「壊死」を「地方消滅」と言い替えても、いぜんとして強い違和感が残る。月刊誌掲載論文の第1弾は、次のような書き出しから始まる。「地方が消滅する時代がやってくる。人口減少の大波は、まず地方の小規模自治体を襲い、その後、地方全体に急速に広がり、最後は凄まじい勢いで都市部を飲み込んでいく。このままいけば30年後には、人口の『再生産力』が急激に減少し、いずれ消滅が避けられないような地域が続出する怖れがある。」人口推計のシミュレーションにあたって、急激な減少が見込まれる人口「再生産力」の簡便な指標として採用されたのは、20〜39歳の「若年女性人口」であって、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年から20年後の2040年には、その若年女性人口が5割以下に減少する自治体数が896自治体に及ぶという。これが「消滅可能性」のある自治体(消滅可能性都市)であり、そのうち2040年の推計人口が1万人未満の市町村、523自治体が「消滅可能性の高い自治体」であるとされる。
 いったい、自治体が消滅するとはどういうことなのか。なるほど確かに「平成の大合併」によりびっくりするほど多くの市町村が独立の市町村ではなくなった。なかでも町村の数は激減した。そのうえさらに上記の523の「消滅可能性の高い自治体」の中で、なんと97.5%にあたる510自治体が町村なのである。しかし、いかに人口規模が小さくとも、独立した法人格を有する自治体として、一定区域における団体自治と住民自治とが成り立つのであれば、もっと具体的には、公選の首長と数人の議会議員を選出するために必要な選挙の仕組みを維持することができる規模の住民がそこに残っているならば、たとえそれが財政的に自立した自治体の「適正規模」に遠く及ばずとも、当該自治体の法人格を自動的に消滅させてしまうようなことにはならないはずである。それをいとも安易に「消滅可能性の高い自治体」と断じ、一括して「地方の消滅」などと言ってのけるのは、はたして許されることなのだろうか。第2弾の論文の最後に付された「消滅可能性都市896全リスト」を一つひとつチェックしながら、私は文字どおりの衝撃を禁じ得ず、そこに至る本論部分でのいくつかの提言など、どこかへ吹っ飛んでしまったような感覚に襲われたのであった。

 

いまむら つなお 山梨学院大学教授)

 

 

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