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2016年5月コラム

地域おこし協力隊の現在

 昨年の自治労奈良県本部の自治研集会は、曽爾村の「めだか街道」と「お茶会」、吉野町殿川地区の小水力発電、大和高田市の商店街活性化といった分科会ごとに、調査研究班をつくってその報告が行われた。このうち曽爾村と殿川地区の調査には、それぞれの地域で活動している「地域おこし協力隊」隊員が3人参加して、中心的な活動を担った。
 かれら協力隊員は、大都市圏から条件不利地域に住民票を移して移住してきた。年齢は20代、30代が中心で、3年はがんばるという気構えで飛び込んできているので、同じ班の自治労組合員とは一味違った発信力をもっている。また従来のUタ−ン者、Iターン者とは少し違うニュアンスがある。「地域おこし」が主たる目的で、結果として移住につながるといった順序といってよい。(生まれた経過は椎川忍さんらの「地域おこし協力隊、日本を元気にする60人の挑戦」学芸出版、2015年9月を参照。)
 平成21(2009)年度から始まった地域おこし協力隊。特別地方交付税の措置を基盤に、最初は全国で89名、31自治体(1県30市町村)で始まった。このときの特交措置は、は協力隊員一人当たり、350万円を上限としていた。内訳は、隊員の報償費に200万円、その他の経費について150万円となっていた。その他の経費とは、住居、活動用車両の借り上げ料、活動旅費等、作業道具・消耗品。隊員の研修受講料、定住に向けて必要となる資格取得等の経費である。
 昨年度、2015年度は、2,625名、673自治体(9府県664市町村)と大きく拡大している。今年度は3,000名を超えるとも見込まれている。
 特別地方交付税の措置についても、2014年度から一人当たり400万円、団体当たり200万円を上限とすると拡充されている。隊員の報償費は200万円で変わらないが、活動に要する経費が一人当たり200万円と引き上げられ、定住に向けた空き店舗改修などの経費も対象となった。これに団体当たり200万円の募集等に要する経費を見込む。かなり手厚い。交付税の使い方としては異論が出てもおかしくはない。
 ただ効果は出ている。2015年度の定住に関する調査結果(総務省地域自立応援課)では、15年3月までに任期を終了した隊員945人のうち、同一市町村への定住者が443人(47%)、近隣市町村への定住者が114人(12%)で、合わせて6割が同一地域に定住している。このうち3分の1の321人は女性である。
 この定住者のうち、就業者は210人。内容は民間企業、飲食店、地方自治体、社会福祉協議会、福祉施設、保育所、観光協会・案内所、道の駅、NPO法人、第三セクター、農業法人、森林組合、新聞社などである。定住者のうち76人は起業している。内容は株式会社設立、一般社団法人設立、NPO法人設立、農業法人設立、飲食店経営、カフェ経営、鍼灸院開設、整体師、経営コンサルタントなど。就農者は79人である。
 吉野町の隊員だった吉村耕治さん(38)は殿川地区(10戸)で農業用水路での水車による小水力発電事業に参加しているが、「半農半X」ではなく、「半市民活動半X」の道を選択した。任期中に電気工事業の登録を行い、水車発電の蓄電器設置や配電、地域の各家庭の電気工事を請け負う。一方で、地域プランナーやコーディネーター4人で三都物語有限責任組合を作り、地域の諸課題に取り組む。奈良県内の協力隊員による報告会と交流会も開く。
 協力隊については、各市町村が要項でその身分や活動について位置付けているが、どこでも社会保険適用は厚生年金と雇用保険としている。嘱託職員だが、公務員ではない。その点を生かし、任期後の就業の手掛かりになるよう有給での兼業を認める。
 なかには、観光事業担当の臨時の専従職としてこき使われ、1年で愛想を尽かされたところもあるようで、職員の定員不足を埋めるアルバイトに堕しているとの批判もある。しかし、地域に元気を醸す「よそ者」「若者」として歓迎されているところは多い。条件不利地域で生き生き活動する彼ら、彼女らを応援したくなるのは人情だろう。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)

 

 

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