地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2023年1月コラム

マルチレベル・デモクラシー

国と自治体とを問わず、日本の議会制民主主義を実り豊かなものにするためには、そこにいまよりもっと強固で安定した政党政治の芯をどうしても通す必要がある。もちろん民主主義の主役はわたしたち市民である。だが、市民を政治にきちんとつなぐ政党の存在なくして、わたしたちが主役をつとめることはできない。

政党政治のあり方を決める最大の要因は、執政制度と選挙制度にあるといわれる。そしてどちらの制度とも国と自治体の両レベルを通じて同じである場合に、政党システム総体と各党の政党ラベルは安定し、市民のより合理的な投票その他の行動が期待できるとされる。たとえば英国イングランドでは、国と自治体の両レベルを通じて執政制度は議会中心制parliamentarism、選挙制度は小選挙区制でおおむね一貫し、保守党と労働党による2大政党制がいまも健全に機能していると見てまず大過ない。

翻って日本の場合、執政制度は国レベルでは議会中心制、自治体レベルでは首長制presidentialismと一致していない。さらにそれ以上に目立つのが選挙制度の不均一である。国レベルの選挙制度について、衆議院は小選挙区制とブロック別比例代表制の並立・一部リンク制、参議院は小・中選挙区制と比例代表制の並立制で、それぞれが混ぜ合わさったしくみであるうえに衆参両院の制度が一致していない。加えて都道府県レベルでは知事選挙が小選挙区制、議会選挙が小・中選挙区制、市区町村レベルでは市区町村長選挙が小選挙区制、議会選挙が大選挙区制(政令指定都市は中選挙区制)と不均一なかたちになっている。

自治体議会選挙の中・大選挙区制について、選挙区定数の大きさがどうなっているかに注目してみる。手元で調べると、都道府県議会選挙で定数10以上の選挙区を置いているのが26県、定数15~17に及ぶ選挙区を置いているのが6県ある。最多の定数17としているのは鹿児島県の鹿児島市・鹿児島郡区である。また、『地方自治月報』第60号によると(2021年4月1日現在)、市区町村議会選挙(市は一般市のみ)で定数40以上としているのが31市区ある。最多の定数50としているのは船橋市、大田区、世田谷区、練馬区である。政令指定都市議会選挙についても調べると、定数10以上の選挙区を置いているのが15市、定数15~20に及ぶ選挙区を置いているのが5市ある。最多の定数20としているのは岡山市の北区選挙区である。

こうした実態の選挙区選挙を通じてX、Y、Zの政党が議会で多数を占めようとする場合、各党は同じ1つの選挙区にX、Y、Z、の複数候補者を立てざるをえない。政策の束を軸に結集した組織が政党であり、その束を象徴するのがX、Y、Zの政党ラベルであるのに、各党身内の複数候補者間でも競争が生じるために政策本位で争う選挙の特長が損なわれ、政党ラベルの価値が低下し、詰まるところ市民が政党候補者を「党より人」の基準で選ぶ逆説的な結果を招くことになる。

自治体レベルの議会制民主主義にも政党政治の芯を通すためには、こうした議会選挙の選挙区制のあり方を根本から見直す必要がある。だがこれまでのところ、地方自治研究者が自治体選挙制度改革を真剣に検討してきたとはいいがたい。

制度改革を検討するうえでもっとも重要な論点の1つは、政党政治の芯を通すためには国と自治体の両レベルを通じて、選挙制度を一致させることが必要不可欠かどうかである。もし必要不可欠なら、たとえ集権的なやり方に見えても制度を一致させるほかない。分権に名を借りて、自治体議会制民主主義の機能不全を放置してよいはずがない。

その一方、制度改革の要点は政党本位の選挙制度を構築することにあって、選挙制度の一致が必要不可欠とまではいえない可能性も大いにある。その点で示唆を与えてくれるのが英国スコットランドの例である。なぜなら、国、地域政府、自治体の3つのレベルで議会選挙制度がまったく異なっているのに、スコットランド国民党、保守党、労働党の主要3党を中心とする政党政治の芯が3つのレベルのすべてで貫かれていると見ていいからである(小原隆治「2021年スコットランド議会選挙」『自治総研』2022年4月号を参照)。

一致か不均一かのいずれの制度設計を採るにしろ、国と自治体両レベルを通じて議会制民主主義、マルチレベル・デモクラシーをどう充実させるか。それを自治体選挙制度改革の視点から真摯に検討することがいま急務であるのは疑いない。

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授)