地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2023年5月コラム

ユニットケアの現在

「ユニットケア」とは、特別養護老人ホームや老人保健福祉施設などでの介護の方法について、2000年前後に革命的な変革をもたらしたケアのことである。それまでの介護は、介護する側の都合で高齢者を扱っていた。一斉に起床させ、朝食など食事は、大食堂で定時にとらせる。風呂を決められた時間にあわせてつかう。お年寄りは管理されるものとして扱われてきた。これが1990年代に、各地でいろいろな実践から、変化の兆しが表われてきた。それはグループホームや宅老所での介護の実践の中で生まれてきたといえる。そして、1999年10月2・3日に、第1回「老健・特養ユニットケア全国セミナー」が福島県郡山市で開かれた。これを当時の厚生省大臣官房審議官辻哲夫が次のように述べている。

「ユニットケア・セミナーは、特別養護老人ホーム、老人保健施設、あるいは高齢者ケアに係る関係者にとって、画期的な問題提起をしているように思いました。それも質的に大きな問題提起です。ユニットケアの問題提起は、一言で言えば、『ホームでお年寄りが主役になっているのか』ということではないでしょうか。ユニットケアをしている施設では、お年寄りが、そこを自分の本当の居場所だと感じているように見えました。(中略)別の施設では、お年寄りと職員の方が一緒に食事の準備をしていました。お年寄りが手伝っている様子はすごく自然で素敵でしたね。

今回のセミナーを通して私が思ったのは、施設に日常性があるかどうかがポイントだということです。ここで注意していただきたいのは、単にハードを小規模にして、物質的に家庭と同じ環境を作ればいいというのではない点です。ケアワーカーができるだけ利用者のそばにいるようにするとか、ケアワーカーがユニットごとに固定され、利用者とケアワーカーが顔なじみの関係になるとかですね。」(『ユニットケアのすすめ』外山義京都大学教授、辻哲夫厚生省大臣官房審議官、大熊由紀子朝日新聞論説委員、武田和則きのこ老人保健施設副施設長、泉田照雄痴呆性老人研究編集長、編著。2000年8月発行、8-10頁)

私が「ユニットケア」の実践の現場を垣間見たのは2002年11月、奈良市にある特別養護老人ホーム『万葉苑』を奈良女子大学の大学院生や学部の学生たちと訪問したときが最初である。その万葉苑の玄関で出迎えてくれたのが小寺一隆さん。学生たちがどよめいたほど、飛び切りのハンサムで笑顔も魅力。北新地のトップホストで稼ぎながら福祉の専門学校に通い資格を取ったと言う。

万葉苑は、定員73名で、20室。古い施設で個室はない。2000年4月からユニットケアの取り組みを手探りで進めてきた。小寺さんの案内で中を見せてくれた。職員は制服を着ていない。古い茶箪笥は利用者の家から持ち込んだものだという。お金がないので自分たちの夜勤手当などを返上して施設改造に充てているという。廊下が共同の居間となっていて、そこに利用者と職員が一緒に座って談笑している。少し雑然としているが、温かみがある空間だった。

その小寺さんは、翌年3月、吉野での研究会の帰りに事故で急逝、34歳だった。その死を悼んで出されたのが、『ユニットケア前夜 小寺一隆が取り組んだ施設の中の居場所づくり』だ。講演が二つ、座談会が二つ。彼の2年間の取り組みが具体的にわかる。

施設の現場からの改革は、このような実践と厚生省の後押しもあり、徐々に浸透してきた。現在は、特養や老健施設の3分の1程度に広がっているという。しかし、2018年の7月4日の朝日新聞では、「従来型は入居費用が低く抑えられ、ユニット型より従来型を希望する入居希望者が多いとの声が施設にはある」として埼玉県が「特養整備、ユニット型減らす方針に転換した」と報じている。介護保険財政が抑制される中で、なお現場での苦闘が続くと思われる。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授