地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2023年9月コラム

「『非平時』における一般ルール」の法制化?

「非平時」に際して、自治体への国の関与を強める一般ルールを法制化する動きがある。6月28日の地方制度調査会専門小委員会に提出された事務局資料では次のように示されている。

「個別法が想定しない事態においても、国・地方を通じ的確かつ迅速な対応に万全を期す観点からは、現行の地方自治法に規定されている国と地方、地方公共団体間の関係とは別に、平時ではない事態、すなわち『非平時』における一般ルールを地方制度として用意しておくことが必要ではないか」(第33次地方制度調査会第15回専門小委員会「資料1」)

本誌読者には釈迦に説法であるが、地方自治法245条以下に、自治体に対する国の関与のルールが詳述されている。例外的に「一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為」も関与として認められているが、いずれにしても「法律又はこれに基づく政令」によることが必要である。つまり個別法を制定することで、一般ルールとは異なる自治体への国の関与を定めることは現在でも例外として可能となっている。たとえば、私個人としては好ましいとは思わないが、コロナ禍対策の国の反省の一つとして、今年の通常国会では新型インフル特措法が改正され、知事に対する国の権限が強化されている。

しかし、今回、地制調を通じて国がもくろんでいるのは、たとえ個別法に規定がなくても、「非平時」に必要であれば、自治体への国の関与を強めるという一般ルールを法制化しようということである。そもそも「『非平時』における一般ルール」という形容矛盾からして突っ込みどころ満載ではないか。

「非平時」という耳慣れない言葉の初出は、33次地制調に先立つ「デジタル時代の地方自治のあり方に関する研究会」第3回(2021年6月4日)のことだった。議事概要によれば、委員の発言として「非平時の状態で、制度改革を構想することが果たして適切か。次に何が起こるか分からない状態で改革をすると、逆に今後機能しなくなるようなことを思いつくだけではないか」とある。素直に読めば、非平時という概念はむしろ否定的にとらえられている。ところが次の第4回に事務局(総務省)から出された資料は「非平時」のオンパレードになる。この流れがそのまま地制調になだれ込む。

法令データベースによれば、現在の法令で「非平時」という言葉を使っているものはひとつもない。それに対して「緊急事態」という言葉は18の法律に使われている。「非常事態」は48の法律にある。国語的感覚によれば、「非平時」とは「平時」ではない事態全般を意味するので、「緊急事態」や「非常事態」よりも幅広い概念になる。「非平時」という空疎な概念を持ち出して地方自治を制約することは、地方自治に対する挑戦ではなかろうか。

そこで地制調事務局は「非平時の要件や事態の判断手続を定める必要があるのではないか」「非平時に国が担うべき役割に応じた要件・手続の検討が必要ではないか」とする。しかしこうなると「『非平時』における一般ルール」という形容矛盾そのものに遭遇する。そもそも「非平時」とは個別法が想定していない事態であり、このような要件が見定められないからこそ「非平時」なのであるが、それをあらかじめ組み込んで一般ルールにしようというのである。いかにも机上の空論であり、無理に無理を重ねているとしか思えない。

今後の専門小委員会の推移で内容が変わる可能性もあるが、地制調答申は12月に原案がまとまり、1月半ばまでにあるはずの総会で決定されると思われる。

最後に、半ば私事であるが、今回のコラムが私にとっての最終回になる。地方自治に関わるみなさまの健闘をお祈りする。

今井 照公益財団法人地方自治総合研究所主任研究