地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2023年11月コラム

マイカーの活躍

今年8月の新聞やネット報道によると、菅義偉前首相が長野市の講演会で、「ライドシェア(相乗り)」の解禁を唱えているというニュースがあった。長野市だけではなく、多くの観光地でタクシーが不足する状況が生まれており、それを補う手段として前首相は提唱した。それに同調したのが河野太郎氏や小泉進次郎氏であったことがニュースとしての価値を高めたようだ(たとえば、朝日新聞、2023年8月24日、2023年8月31日)。タクシー業界の擁護者である国交省や関連議員は、反対している。

ライドシェアは「相乗り」と訳されることが多いが、一般的な相乗りとは、タクシーなどで行き先の違う人間が複数乗って、結果として料金を安くする乗り方であろう。とすると、ライドシェアは相乗りではない。現在使われているライドシェアとは、「自家用有償旅客運送事業」の一種の「白タク」であり、日本では限定的にしか許可されていない。マイカーによる有償運送というのが正確で、そこにウーバー(Uber)などのスマホアプリなどが介在して、移動したい人と移動する手段を有する人をマッチングさせて、前者が後者に対価を支払うことである。ただ、紛らわしいのはウーバータクシーで、タクシーを呼ぶのにスマホアプリのウーバーを使うだけで、白タクではない。

アメリカでは「便利な交通手段」としてウーバーの評価は高い。イギリスでは「ミニキャブ」と呼ばれており、有名なロンドンタクシーとは異なり、自家用車を利用したタクシーである。筆者も利用したことがあるが、日本からミニキャブの会社に電話して空港まで迎えに来てもらい、荷物と一緒にアパートまで帰ったことがある。タクシーが利用できないからではなく、タクシー料金の1/2~2/3で済むから利用者がいる。前首相の主張は、タクシーが不足しているからという理由であったが、なぜタクシーが不足するのかという観点から、インバウンドが急激に回復した、タクシーの台数を簡単に増やせない、増やしたとしてもドライバーがいない、という状況がある。

物流の「2024年問題」として知られているトラック・バス等のドライバー不足もある。2019年の働き方改革関連法で時間外労働の上限規制に5年間の猶予を与えられた自動車運転や建設・医師等の業務で、2024年4月1日から上限規制が適用されることになっていることから派生する問題である。ドライバーの場合は、上限が年960時間とされることになるが、そのことによって人手不足が予測されている。タクシードライバーの不足はあまり指摘されないが、他産業と比較して給与が低いので、やがて人手不足が生じるであろう。むしろ、地域の交通問題としては、タクシーさえも利用できない地域が存在することであり、問題は深刻である。こうした地域は、「白タク」が許されることになる。しかし、様々な問題点が指摘されている(たとえば、嶋田暁文、「自家用有償旅客運送に関する事務・権限の移譲をめぐる一考察(上)(下)」、『自治総研』2014年3月号、4月号)。

こうした問題を解決する方法として、マイカー(自家用自動車)の利用がある。2023年6月末現在、自動車保有台数は8,273万台であり、内訳は四輪が7,869万台(95.1%、以下%は総数の中での割合)、三輪が2万台(0.0%)、二輪が402万台(4.9%)となっている。四輪の内訳を見ると、貨物が1,457万台(17.6%)、乗合が21万台(0.3%)、乗用が6,213万台(75.1%)、特殊用途が181万台(2.2%)となっている。乗用の割合が3/4を占めていることがわかる。また、乗用車(軽四輪を含む)と営業車の割合は、自家用が6,191万台(74.8%)、営業用が21万台(0.3%)となっており、タクシーなど営業用が予想外に少ない。逆に言えば、マイカーが圧倒的に多いことがわかる。いうまでもなく、マイカー所有者の多くがドライバーであり、免許証所有者は8,000万人を超えている。日本の地域交通やドライバー不足を解決する方法は、これらの人々にマイカーで活躍してもらえる場・制度づくりであろう。

武藤 博己 法政大学名誉教授