地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2024年2月コラム

市民決算

菅原 敏夫

本稿の締切の2週間ほど前、11月28日、総務省が恒例だが重要な報道発表をしている。総務省自治財政局による「令和4年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要(確報)」「都道府県・市町村普通会計決算の概要」がそれである。「確報」とあるのは、9月29日に「速報」が出ているからだ。

このスケジュールはかれこれ15年ほど続いている。稿者も例年9月の末になると総務省のHPをのぞいてみる。速報と確報を比べてみると、健全化判断比率と都道府県の決算数値に異同はないのだが、市町村決算は毎年速報と確報で数値がかなり違う。考えるに、市町村には締め切りに遅れるヤツがいるんだな。

毎年見てきたので、気づいたことを少しお伝えしたくなった。一つは直近のこと、もう一つは普通会計という仕組みと地方分権のこと。

先日の総務省の発表はこんなふうになっている(市町村分)。

22年度(令和4)の普通会計決算は、市町村全体の歳入で、69.0兆円、▲1.5兆円。

【増要因】地方税の増加(7,167億円増)

【減要因】・コロナ対策関係国庫支出金の減少(1兆8,496億円減)・臨時財政対策債の減等による地方債の減少(1兆101億円減)

歳入が大きく減って、市町村も大変だ、と思い込まされること勿れ。減少した最大の要因は国の補助金の減少。これはお金としては「行って来い」なので実質影響なし。実質的な最大要因は、「地方債の減少」である。これは単式簿記の欠点で、減要因として麗々しく挙げるのは詐術に等しい。借金(をすること)が減ったのである。バランスシートも改善している。よかった。

市町村税収は2年連続史上最高を記録した。さすが20年度決算では少しへこんだが、ここのところ拡大を続けている。それも史上最高(!)の更新だ。文句のない「好決算」である。民間企業だったらボーナスが出る。

ボーナスは諦めるとして、自治体財政の今の役割は、本来の財政の仕事、再配分の実現ではなかろうか(岸田さんも最初そう言っていた)。200年も前から資本主義は格差と貧困を必要条件としている。あらゆる格差を利用した。その中でも使い勝手が良かったのはジェンダーギャップなのではなかろうか。クラウディア・ゴールディン『なぜ男女の賃金に格差があるのか』にそう書いてある。再配分が必要だ。

22年度の健全化判断比率を見て驚いたのは、将来負担比率(ラフに言って、借金-貯金額の年収に対する比率)がマイナス、すなわち貯金が借金を上回っている市町村が898にものぼっているということだ。半数以上だ。子供に美田を残さず、再配分の財源に使ったらどうか。ちょっと脱線。

もう一つの普通会計の仕組みについては暗い結論だ。この仕組み、通常は「決算統計」と呼ばれている。「統計」なので「統制」ではないというのが建前だった。地方分権論議華やかりし頃、統計なのだからと言って、根拠となっていた政令を廃止した。あろうことか調査(財政状況調査)に応じない、都道府県に報告しない自治体が現れた。随分いじめられただろうな。さらに追い討ち。2006年6月、夕張市の財政破綻が明らかになった。夕張市の例は出納整理期間という制度の隙間を利用した事件だったが、総務省がとった策は出納整理期間の廃止ではなく、統制色の強い財政健全化法の制定だった。

しかし、統制のための都道府県・総務省への報告と同時に、数値・指標の「公表」を義務付けたために、市民へ決算結果をいち早く知らせることにもなった。「決算」の原義は、結果を示して会計責任(accountability=説明責任)の解除を申し出るということなので、成果と評価をめぐって「決算対話」が行われるべきだろう。現在の制度は議会による決算の認定に限定され、責任を取らせる方策もほぼ全く法定化されていないが、(1)「会計責任解除」の申し出、(2)「決算対話」、(3)「議会・市民決算」という流れはできないものだろうか。地方財政論は遅れていて、いまだに予算統制に一本軸足だ。「決算統制」を市民の手に取り戻す、「市民決算」の制度化に踏み出せないものか。

(すがわら としお 元公益財団法人地方自治総合研究所研究員)