地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2024年7月コラム

介護保険制度の25年

介護保険法が2000年4月1日に施行されて25年になる。この間に、介護保険制度は、「歩きながら考える」状態であったと言える。このような介護保険制度の歩みをふらつかせた要因の第1は、財務省サイドからする財源圧縮圧力だと言える。要因の第2は、高齢化の急速な進行と介護需要の拡大である。

日本の介護保険制度の財源構成は、その50%が被保険者である国民の負担する保険料である。この内訳は、第1号被保険者(65歳以上)が22%、第2号被保険者(40歳以上)が28%になっている。これは2013年の人口比である。

残りの50%は、税金である。うち国が25%、都道府県が12.5%、市区町村が12.5%となっている。

この間に、介護保険法の改正という形で制度の改正が、7回行われている。

 ・最初の改正である2005年の改正では、まず介護予防の重視の方向性を明確にした。市町村に地域包括支援センターを創設し、介護予防ケアマネジメントは地域包括支援センターが相談窓口となる。センターはまた、介護予防事業、包括的支援事業などの地域支援事業を実施する。また小規模多機能型居宅介護等の地域密着サービスを創設する。

 ・2008年改正では、コムスン事件に対応して、介護サービス事業者の法令順守と業務管理体制の整備を推進することとした。サービス事業の休・廃止の事前届け出制の順守。休・廃止時のサービス確保の義務化などの措置がとられた。

 ・2011年改正においては、地域包括ケアの推進が掲げられた。これと並んで、24時間対応の定期巡回・随時対応のサービスや複合型サービスの創設が提案されている。また介護施設でのたんの吸引などの医療的ケアを制度化した。

 ・2014年の介護保険法の改正では、地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実(在宅医療・介護連携、認知症施策の推進等)が法制化された。
  全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を、市町村が取り組むべき地域支援事業に移行させ、多様化するよう求めた。
  低所得の第一号被保険者の保険料の軽減の割合を拡大するとともに、一定以上の所得がある利用者の自己負担を引き上げる(2015年8月)。特別養護老人ホームの入所者を、要介護3以上の中重度者に制限する。

 ・2017年の介護保険法の改正では、全市町村が保険者機能を発揮することによって、自立支援・重度化防止に向けて取り組む仕組みの制度化を推進するよう求めた。「日常的な医学的管理」、「看取り・ターミナル」等の機能と「生活施設」としての機能を兼ね備えた、「介護医療院の創設」を介護保険制度の中に位置付けた。特に所得の高い層の利用者負担割合の見直し(2割→3割)を行う。

 ・2020年の改正では、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する市町村の包括的な支援体制の構築も支援することとした。また、医療と介護のデータ基盤の整備を推進するよう求めた。

 ・2023年の介護保険法の改正では、医療・介護サービスの質の向上を図るため、医療保険者と介護保険者が被保険者等に係る医療・介護情報の収集・提供等を行う事業を一体的に実施することとし、介護保険者が行う当該事業を地域支援事業として位置付けている。

介護保険の産婆役と言われる堤修三氏(大阪大学大学院教授、元厚労省老健局長)は、「最近の制度改革を見ると、国は自治体を縛りすぎているのではないかと感じる。(略)制度の余白を残し、自治体が地域の実情に応じて事業運営に工夫をこらすべきであるのに、国は余白を塗りつぶしてしまった。その結果、保険者である市町村から考える機会を摘み取ってしまった。」と繰り返し指摘している(東洋経済on line 2011、1.24)。市民が見て分かり易い制度に変えていくことが求められている。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)