50周年を迎えた自治総研
公益財団法人地方自治総合研究所(自治総研)は、2024年に、創設50周年を迎えた。
1974年の設立時には、「地方自治にかんする研究調査活動をつうじて、住民自治の確立と、自治体労働者の運動の前進に寄与すること」が目的とされていた。公益財団法人となった2010年には、その定款に、「地方自治にかかわって、内外の政治・経済・社会・労働・文化等の問題に関して調査研究し、国・地方にわたる行財政制度改革のための提言を行い、もって自治制度研究の発展に貢献するとともに、市民による地方自治の確立と地域社会の振興に寄与すること」と定め、現在に至っている。
現在、自治総研においては、5つの研究プロジェクトが進行している。地方交付税制度研究、地方財政研究、新地方自治研究プラットフォーム、地方自治判例動向研究、小規模自治体に関する研究である。いずれもが、研究員の問題関心を踏まえて組織されたものである。多くの研究者の参画を経て、現在の定款の目的の実現に資するよう、議論を重ねている。その成果の一部は、随時、本誌上で発表される。
本誌は、2019年より投稿論文制度(査読制)を導入した。自治総研は、発足の当初から、そのミッションのひとつとして研究者の養成を掲げてきたが、現在では、法学、政治学・行政学、財政学を中心とする充実した査読陣による厳格な審査がされている。この制度を利用したいわば間接的指導を通じて、全国の若手研究者に対するサポートをしている。今後は、自治を研究対象とする若手研究者を集め、分野横断的な研究会も組織したい。
刊行物としては、『現代地方自治年表』を特記しておこう。「現代地方自治に関する年表の完全版」を目指したもので、基礎年表部分(法律等の制定・改正動向、国の動き・政党の動き、国-地方の動き・社会の動き、地方の動き)と単年度解説項目部分から構成される。2025年夏にはお目にかけることができる。
自治総研は、節目の時期に、過去を振り返り将来を展望する記録集を発刊してきた。今回も、『50年のあゆみ』と題する印刷物を刊行する予定である。そこでは、4つの寄稿文のほか、「自治総研の10年を振り返る」「地方自治総合研究所の今後のあり方を模索する」「自治労や自治研センターとの連携をどう進めるか」と題する3つの座談会を収録する。それぞれにおいて、自治総研と関係が深い方々から、自治総研に対する期待や注文をいただいている。市販はされないが、2024年に新装された自治総研のウェブサイト上で公開するため、是非ともご覧頂きたい。
また、1月末には、関係者かぎりではあるが、「50周年記念シンポジウム」を企画している。「自治総研のミッション、自治総研の方向性を考える」というテーマのもとで、基調講演とパネルディスカッションが行われる。その内容も、ウェブサイト上で公開予定である。
全国には、多くの地方自治研究センター(自治研センター)があり、地域の状況を踏まえた活発な研究活動がされている。機関誌や報告書も発刊されている。その情報を集めてウェブサイト上で公開する計画もある。自治総研の役割に鑑み、遅ればせながらではあるが、研究交流を一層進めるようにしたい。オンラインにより、自治総研の研究員が自治研センターの研究会に参加し、またその逆もある。研究機会の増加を、研究活動のさらなる活性化につなげたい。
これらの機会を通して、自治総研は、組織の現状と課題、今後向かうべき方向性を否が応でも認識するだろう。これまでも、この国における地方自治研究の拠点のひとつたることを自覚して活動を継続してきたけれども、50周年を機に、さらに研究交流のネットワークを拡げて多くの研究者のサポートを得つつ、活動を進めてゆきたい。
現行憲法のもとで、地方自治国家をめざして出発したこの国の方向性は、80年を経過しようとする現在においても、まだ明確にはなっていない。この四半世紀の間になされた制度的対応は、はたして成功しているのだろうか。縮小社会のもとでの地方自治の本旨とは、一体どのようなものなのだろうか。2000年分権改革の成果を所与としてこれを神聖化するのではなく、その後の社会や法制度の動きを踏まえてそれ自体に対しても批判的な検討を加え、憲法92条が目指している国家ガバナンスのあり方を真摯に探求しつづけたい。
われわれの前には、実に多くの研究課題が横たわっている。新たな一歩を踏み出すにあたり、身の引き締まる思いでいる。