地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2025年9月コラム

誰に対して命ずるか?
議法における見直し規定の名あて人

法律案は、本則と附則から構成される。附則に規定される内容は、施行期日や経過措置など多様であるが、最近付されることが多くなったものとして、いわゆる見直し規定がある。「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」というのが、典型的な規定ぶりである。

期間については、これを5年とするものが大半であるが、1年(例:児童福祉法)、3年(例:電気事業法)、4年(例:借地借家法)、7年(例:港湾法)、10年(例:環境影響評価法)もある。明記がないもの、「令和12年までに」のようなもの、「適当な時期」というものもある。

命ずる相手方であるが、内閣提出法案の場合には、「政府は」とするものばかりである。立案にあたる府省が、議員の関与を受けることなくマイペースで改正作業をするのがもっとも望ましいと考えるのは当然である。

それでは、議員提出法案の場合はどうだろうかと思い、e-Gov法令検索を用いて調べてみた(用いた検索語は「この法律の施行の状況」であるため、すべてを調べたわけではない)。356法律のうち66が議法である(意外に多い)。

「政府は」とするものが圧倒的多数であるが、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」のように、「国は」とするものも9法律ある。この違いをどう考えればよいだろうか。法律用語として、「政府」というのは中央政府だけを指し、「国」というのは立法・行政・司法の三権を指す。一般に、裁判所は立法関係行為をしないから、実質的には国会と内閣である。

政府を名あて人とするものであるが、提案それ自体は関係委員会がしたけれども、見直しを踏まえた改正は閣法によってさせるつもりであるからしっかり勉強しておけという趣旨だろうか。2014年制定の「空家等対策の推進に関する特別措置法」は、5年見直し規定を踏まえた国土交通省の作業を経て、2023年に閣法により一部改正された。あるいは、改正も議法でするから、議院法制局が改正法案立案作業をする際にはサポートをせよという趣旨だろうか。はたまた、改正を議法でするか閣法でするかはわからないけれども、そのときのために準備はしておけという趣旨だろうか。議法として成立した「動物の愛護及び管理に関する法律」のその後の改正は、すべて議法でされているが、改正法の附則にある見直し規定の主語は、「国」であったり「政府」であったりと一貫しない。

主語を「国」とする見直し規定には、どのような意味があるのだろうか。採決をした委員会が国会の組織である委員会事務局に対して施行状況調査を命ずるというのは、現実には考えにくい。法律所管府省に対して、委員会が具体的に調査内容を指示するなどして関与するということだろうか。

主語が明示されない見直し規定もある。「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」の原始附則は、「被害防止施策については、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況、鳥獣による農林水産業等に係る被害の発生状況等を勘案し、その全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直しが行われるものとする。」(2条)と規定する。受動態で記されるめずらしい例であるが、誰によってかが明記されていない。いささか他人事のようでもある。採決するのは委員会であるから、当然に議法でやるという意味だろうか。実際、参法で改正された。

議法の附則にある見直し規定の主語が誰かによって何らかの積極的意味があるのではないかと思っての作業であったが、結局、法則は発見できなかった。まさか議院法制局担当者の「好み」というわけではないだろうが。

きたむら よしのぶ 地方自治総合研究所所長・上智大学教授)