地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2025年11月コラム

住民の暮らしと健康を守る
― 群馬県上野村の取り組み

地方自治法第1条の2には、自治体が「住民の福祉の増進を図ることを基本」とする旨が謳われている。この「住民の福祉の増進」について、大森彌・大杉覚(2019)『これからの地方自治の教科書』では、「これは私たち一人ひとりの幸せ(=福祉)を向上させること、地域の豊かさを高めることを意味しており、とりもなおさず自治体の役割、使命なのです」と記されている。また、その大前提として「住民の生命・身体・財産がしっかり守りきられていなければ」ならないとある。自治体が、地域の実情に即してどのように応えていくかが問われている。

先日訪問した群馬県上野村の取り組みは注目に値する。人口わずか1,000人弱、面積の95%が森林を占める上野村では、「健康水準の高い村」「道徳水準の高い村」「知識水準の高い村」「経済的に豊かな村」の4つを村建設の理念として掲げる。そのなかでも「住民の健康」を最優先に掲げ、独自の保健福祉施策が積み重ねられてきた。

まだ人々の健康に対する意識が低かった1968年に、村では成人病検診を開始している。県の保健所の協力も仰ぎながら1日がかりで健診を実施し、保健師がその結果をもとに地域に入って村民の健康を守る体制が作られた。この取り組みは続けられ、国保特定健診・後期高齢者健診はもとより、村独自の19~39歳を対象とした「ヤング健診」も無料で実施している。各種がん検診等も希望する対象者には健診時に同時に受診できるよう日程を調整するなどして体制を整えている。世代を問わず住民の健康管理に力を注ぐ。

社会保険加入者の健診については事業主責任とされているが、事業主と村、健康づくり財団が協定を結び、健診データの情報提供を村が受けることができる。これにより、村民の健康情報を村で把握できる体制が取られている。被扶養者健診の場合、各保険者が規定する料金はかかるが、村の健診会場での受診が可能である。健診後には保健師や栄養士から健診結果の説明を受けることのできる機会を設けるなど村独自の取り組みが実施され、多くの村民が利用している。

村の乙父地区には、総合福祉拠点「いこいの里」がある。診療所があるこの場所に、村は1989年、過疎債を活用し、高齢者集合住宅を全国に先駆けて整備した。当時としては先進的な取り組みであり、要介護になる前の段階から、高齢者が地域で支え合いながら健康に暮らすことのできる環境を整える発想があった。

この場所にはその後も、「すこやかセンター」「いきいきセンター(総合福祉センター)」「デイサービスうえの」「グループホームひだまり」など、福祉関連施設が段階的に整備された。6つの施設は連絡通路で相互につながっており、雨の日でも濡れることなく医療・介護サービスにアクセスできる。施設内には役場の保健福祉課や社会福祉協議会、地域包括支援センターも併設され、医療・福祉・介護一体の体制が構築されている。加えて、施設内の調理場を活用した配食サービスも展開されており、希望する村内高齢者全般を対象に、低価格で食事が届けられる。

「へき地診療所」は村内唯一の医療機関として、診療や往診、検査を担い、保健師・介護職と連携して健康管理を支える。県の支援もあり、医師の派遣体制も整っており、土曜や夜間の診療にも対応している。歯科分野でも、昭和大学との連携により週2回の診療日を確保。歯科助手の資格を持つ役場職員が助手として勤務し、村民の口腔ケアをサポートする。

上野村の特徴は、こうした保健福祉を村全体で支えることにある。役場職員は複数業務を兼務し、住民一人ひとりの顔と名前が一致する関係性を基盤に、きめ細やかな対応を実現している。社会福祉協議会は高齢者全戸訪問による見守りや生活支援、ボランティア活動の支援など、行政と地域住民をつなぐ役割を担う。介護予防教室、健康づくりイベント、認知症カフェなども積極的に展開され、高齢者の社会参加と健康寿命の延伸を図る。一連の取り組みは、単なる医療費抑制にとどまらず、地域の活力創出にもつながっている。

小規模自治体の強みを生かしながら、全村が一体となって住民の暮らしと健康を支える基盤を構築している。「いこいの里」を核としたこの包括的な体制は、過疎地における保健福祉のモデルであり、自治体による「住民の福祉の増進」の原点を見た思いである。

ぬまお なみこ 地方自治総合研究所研究理事・東洋大学国際学部国際地域学科教授)