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2010年6月の自治動向


韓国の第5回全国同時地方選挙をめぐって
鄭 智允

 

 地方自治は民主主義の学校である。民主主義の疲弊が憂慮されるなか、地方選挙は学級の立てなおしにつながる重要な選択になっている。2010年6月2日、韓国では5回目の全国同時地方選挙(以下、同時選挙)が行われた。その結果について簡略に紹介してみたい。

5回同時選挙は…

 今回の同時選挙については、中央政府・与党に対する政治的な評価であるという報道が目立っていた。中央政府の与党ハンナラ党は先の「哨戒艦沈没」事件をあげ北朝鮮に友好的な政策を推進してきた野党側をけん制し、一方の野党民主党は与党の主要政策である「世宗市(行政首都移転)修正案」・「4大河川整備事業」の撤回と「哨戒艦沈没」事件究明を唱えた。さらに、没後ちょうど一年になる盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の追悼の雰囲気も高まっていたため、地方選挙でありながら地域のために働く代表者を選ぶという色合いは、選挙前から薄くなりがちであった。

 さて、6月2日に行われた同時選挙は、広域自治団体(以下、広域自治体)の首長と議員、基礎自治団体(以下、基礎自治体)の首長と議員、さらに、広域自治体に置かれている教育監と教育委員を選ぶために行われた。自治体の議員選挙は選挙区制と比例代表制の並立制であるため、有権者は候補者と政党の両方に投票する。その結果、1人の有権者は同時に6つの選挙において合計8人もの候補者に票を投じる選挙となった。

韓国の地方行政体制の現況

選挙の投票結果から見えてくること

 選挙前の世論調査によれば、国民の選挙への関心は低く投票率も下がるだろうという予測であった。しかし、投票率は54.5%で、歴代2番目(地方選挙実施後)の投票率であって、予想外に高い投票率となった(第1回68.4%、第2回52.7%、第3回48.8%、第4回51.6%)。

 なぜ、予想を超えて高い投票率が出たのだろうか。今回も20〜30代の投票率が作用したといわれている。日本同様、韓国においても若年層の投票率は低いのだが、若年層の投票率が劇的に上昇することによって与野党が逆転するほどの影響力を持つことが過去にもあった。例えば、2002年の大統領選挙では、若年層がインターネットや携帯のメールを活用して当初劣勢だと思われた盧武鉉前大統領を当選させた。そして、今回の選挙では、選挙戦における度重なるハンナラ党の北朝鮮利用に飽きた若年層が、ツィッターを用いて与野党の得票差が僅差である情報を共有し、投票締め切り直前になって選挙に参加したことで、投票率をあげる結果となったといわれる。実際、今回の選挙では50代の投票率と20〜30代の投票率の差が目立たなくなっており、若年層の投票が選挙結果に大きく影響したことを裏付けている。

 その結果、異変が起こった。全国の基礎自治体の首長選挙では228名の中、民主党92名で、ハンナラ党(与党)82名より10名も多く当選した。前回の選挙(2006年)では、230の基礎自治体の首長の中、155名がハンナラ党推薦の首長であった。また、16の広域自治体首長選挙では、ハンナラ党(与党)推薦候補者が6名、民主党7名、自由先進党が1名で、前回の選挙での16自治体の中14名がハンナラ党推薦であった状況を大きく変えた。特に、ソウル特別市の自治区においては、前回の選挙で25区すべてがハンナラ党推薦の首長であったが、今回の選挙ではこのうち21区で民主党推薦の首長が誕生し、野党優勢を示す結果となった。

 広域自治体議会選挙においても、自治体首長選挙と同様に、民主党を中心とする野党勢力が議席を大幅に増やす結果となり、改選680席の中、民主党が328席を占め、ハンナラ党の252席を大きく上回った。ただし、基礎自治体議会の選挙結果をみると、全体議席2,888席の中、ハンナラ党議員が1,247席を占め、民主党の1,025席を上回っている。

 以上のように、基礎自治体議会を除く、広域自治体・基礎自治体の首長選挙、そして広域議会選挙において、野党民主党が予想を超えて広範に勝利を治めた。

教育自治を目指した選挙?

 今回の同時選挙の大きな特徴は、自治体の首長と議員に加え、教育監と教育委員を直接選挙によって選ぶという点にあった。1991年に韓国で地方自治制度が甦った際、地方教育自治制度と地方警察制度を復活すべきであるという議論があり、教育監と教育委員を間接選挙(学校運営委員会の委員による選挙)で選ぶようになった。そして、今回の選挙で初めて地域住民の手によって教育監と教育委員が選ばれるようになったのである。

 韓国において、教育に関する事務は、広域自治体の事務とされている。日本の教育システムとは違って、韓国ではこの事務を担当する機関として、執行機関=「教育監」と審議・議決機関=「教育委員会」が設置されている。教育監とは、広域自治体の教育に関する事務の執行機関(独任制)であり、自治体とは分離・独立した執行機関になっている。すなわち、教育監は、首長の指揮・監督をまったく受けず、教育に関する事務(条例案等の議案提出権、予算の編成・執行権など)を執行していて、大きな権限が与えられるという特徴がある。

 このように大きな権限を持つ教育監の多くは、地方自治制度が実施されてからずっと保守系によって占められてきた。しかし、今回実施した同時選挙では、全体16席の中、革新系の教育監が6人誕生した。当選者の中では、全国教職員労働組合(革新系)の活動で職を失った人もいて、中央政府の教育政策と異なる地方の特徴を生かした教育政策を展開できるかどうかに期待が集まっている。

同時選挙が残した課題・・・

 この結果から、これは国政選挙であり地方選挙とは言えないのではないか、という批判があるかも知れない。地方選挙は地域のために働く代表者を選ぶものであると考える筆者もその指摘には同感である。しかし、野党推薦候補が躍進したことで、中央と地方との力関係の再編を促し中央政府が一方的に推進してきた政策、4大河川整備事業、行政首都移転事業への歯止めになる選挙であったと思われる。この結果を有権者の声として受け止め、大きな公共事業を実施する前に、徹底的な議論と調査を行う契機としてほしい。さらに、野党推薦で選ばれた首長たちが、今までの行政とは異なる、行政への市民参加の回路を開く試みを始めていることにも期待したい。

 しかし、1人の有権者からすれば、自分の選挙区には首長・議員・教育監選挙合わせて約40人も候補者がいて、各々の候補者の選挙公約を比較しながらこのうちの8名を選ぶことは至難のことであったに違いない。さらに、教育監・教育委員を除くと、候補者は政党の推薦によって選ばれるため、地域の課題より全国的な課題が注目されるなど、選挙制度そのものの修正が必要であることが明らかになったと言える。これは日本の統一地方選挙においても共通に指摘できる問題ではないだろうか。

 今回の同時選挙で、韓国人は民主主義を学ぶ地方自治の授業を受けることとなったと思う。これを踏み台として次回はもっとわがまちを考える候補者を選べるようになることを期待したい。今回の概況では紙面上の制限があり、説明が足りない部分もあったと思われる。より詳しい内容については別の機会に述べてみたい。


文責 : 鄭 智允



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