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2010年12月の自治動向


メキシコ先住民、インディヘナの自治
〜父から娘への手紙〜
上林陽治
 昨日(現地11月17日)夜にメキシコシティに到着し、本日(18日)は朝から世界都市・自治体連合の国際会議で、夜の20時からメキシコ市長主催の晩さん会に出席しました。例の通り、おいしいワインをしこたま頂戴し、先ほど部屋にたどり着きました。

 さて、メールにてお問い合わせの件ですが、結論を先にいうと、やはり世界が変わったのと歩調を合わせ、インディヘナの生活も変わっています。
 村上春樹さんがメキシコ南部のチアパス州を訪れたのは1992年。そのころチアパス州は「忘れられた土地」と言われていたようです。つまり、メキシコ連邦政府も、チアパス州政府も、インディヘナをこの世の中に存在しないものとして無視してきたのです。インディヘナの多くは、独立自尊の生活で、大規模農園<アシエンダ=荘園>に暮らすものも小作農として過ごし、基本的な公共サービスは農園主=荘園主がやればいいと考えられてきたからです。当時のインディヘナは、つまり農奴で、農園主の所有物で、政府としては人の<持ち物>に口を挟まなかったということなんでしょう。
 事態が一変したのは、1994年のインディヘナによるサパティスタの反乱です。反乱が、インディヘナは従順ではないということを知らしめたのです。
この反乱自体は、1994年1月1日発効のメキシコ、アメリカ、カナダの自由貿易協定をきっかけにしたもので、この発効がインディヘナの暮らしに大打撃を加えると考えられたことから、同協定発効日の1月1日に武装蜂起したのです。
 メキシコ政府とチアパス州政府はここからインディヘナは忘れてしまってはいけない存在だと考えたようです。
 忘れてはいけないということには、2つの意味があります。ひとつはインディヘナからしっぺ返しを受けるということ。もう一つは、忘れていたがために、手つかずの資源が先住民の土地にはあふれている、農産物だけでなく、天然ガス、水力発電、新鮮な水、医薬品となる生物資源、さらにはウランetcを発見したということです。
 1994年のサパティスタの反乱以降、政府は道路や電気などのインフラ整備を進め始め、将来の天然資源開発のためインディヘナ共同体を破壊し、集団住宅化を進める一方、土地を環境保護地区という名の下で国有化しようとしています。そのためには、インディヘナ共同体内部の分断を図ろうとしてきました。政府方針に従うものには金が落ち、自治体政府の役職が割り振られ、従わないものには何も渡されない。こうした分断の結果が、1997年のアクテアルの虐殺(礼拝中の45人の女性、子どもが襲撃される)につながったようです。政府方針に従うインディヘナによる、従わないインディヘナへの襲撃。それもインディヘナの内輪で行われたことに、政府による周到な準備がうかがわれます。
 襲われた方は、今も次のようにいっています。「私たちの欲することは、政府に何かをしてくれということではない。私たちを認めよ。暮らしを認めよ。文化を認めよ。土地が私たちに帰属することを認めよ。私たちが同じメキシコ人であることを認めよ」
 これがメキシコに住むインディヘナの思いなんです。

 今日から世界都市・自治体連合が始まりました。メキシコ中の市長、州知事も参加しています。彼らからも、当然、世界中から集まっている市長たちからも、インディヘナの人権なんていうことは出てきません。
 忘れられた存在であると同時に、1994年以降は「邪魔な存在」が加わった、それが、村上春樹さんが来て以降の最大の変化です。

文責 : 上林 陽治

参考文献:
村上春樹『辺境・近境』新潮文庫、2000年
山本純一『メキシコから世界が見える』集英社新書、2004年



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