地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2023年8月中央の動き

◎デジタル田園都市国家構想で近く整備計画 ― 政府

政府のデジタル田園都市国家構想実現会議は6月2日、「当面の重点検討課題」をまとめた。「デジタル実装の優良事例を支えるサービス・システムの横展開」「モデル地域ビジョンの実現支援策の強化」などを掲げ、今年度中に「デジタルライフライン全国総合整備計画」を策定。その具体策に、ドローン航路や自動運転支援道の設定、インフラ管理DX開始などを掲げた。

また、デジタル田園都市国家構想・地方創生に関する地方六団体との意見交換会が6月7日、開催された。内閣府が各自治体でのマイナンバーカードを活用したサービス横展開の参考となるカタログを近く作成する方針を示したことを受け、平井全国知事会長がデジタル田園都市国家構想交付金の充実確保を要請するとともに、誤紐付けなどトラブルが相次ぐマイナンバーカードについて「我々も一緒に信任回復に向けた努力をしていく」と述べた。また、立谷全国市長会長はデジタルインフラ整備を地域差なく推進するとともにデジタル人材育成のため教育分野での対策とGIGAスクール構想の財政措置充実などを要請した。

◎出生数が77万人と過去最少を更新 ― 厚労省

厚労省は6月2日、2022年の人口動態統計月報年計を公表した。出生数は77万747人で前年より4万875人減少。7年連続の減少で過去最少を更新。また合計特殊出生率は1.26で、前年の1.30より低下。7年連続の低下で過去最低。都道府県別では、沖縄(1.70)、宮崎(1.63)、鳥取(1.60)で高く、東京(1.04)、宮城(1.09)、北海道(1.12)で低い。死亡数は156万8,961人で、前年より12万9,105人増加。死亡率(人口千対)は12.9で、前年11.7より上昇した。出生数と死亡数の差である自然増減数は79万8,214人減で、前年より16万9,980人減少。全ての都道府県で減少した。

一方、令和国民会議(令和臨調)は6月21日、提言「人口減少を直視せよ」を発表した。2100年の日本人口が約6,200万人に減少するなど、「長期的・急速に人口が減少することを前提に政策を構想する必要がある」と指摘。このため、①誰もが「社会起業家」として活躍できる包摂型の社会実現②垣根を払った業種なき産業構造③個人・組織・地域が多様な関係性・重層的なネットで支えあう ― などを提言した。

◎過度な会長選挙運動自粛を申合せ ― 全国市長会

全国市長会は6月7日、都内で通常総会を開き、「こども・子育て施策の充実強化」「物価高騰等を踏まえた地域経済対策の充実強化」「デジタル社会の推進と新たな地方創生の実現」など7件の決議を採択するとともに、「全国市長会会長選挙に関する申合せ」を了承した。申合せは、昨年の会長選挙過熱を踏まえまとめたもの。申合せは「過度な運動」につながりかねない①会員市区長への戸別訪問②会員市区長以外の者への働きかけ③SNS等での個別の地域ごとの情勢等の発信④選挙に関する物品等の提供 ― などは「厳に慎むこととする」とした。

また、全国市議会議長会は6月14日、都内で定期総会を開き、新会長に坊恭寿神戸市議会議長を選任。併せて「多様な人材の市議会への参画促進」など32件の議案を採択した。このほか、全国都道府県議会議長会は6月20日の臨時総会で新会長に山本徹富山県議会議長を、全国町村会は7月6日の理事会で新会長に吉田隆行広島県坂町長をそれぞれ選任した。

◎出産・子育て交付金を制度化 ― こども未来戦略方針

政府は6月13日、「こども未来戦略方針~次元の異なる少子化対策のための『こども未来戦略』の実現にむけて」を閣議決定した。若者が結婚・子育ての将来展望を描けないなどの課題克服のため、若い世代の所得増加、社会の構造・意識を変えるなどの方針を掲げ、今後3年間に集中的に取り組む「加速化プラン」を示した。具体的には、①児童手当の所得制限撤廃と支給期間の高校生までの延長②「出産・子育て応援交付金」(10万円)の制度化検討③公営住宅への子育て世帯優先入居の仕組導入 ― などを挙げた。なお、こども・子育て予算倍増(3兆円台半ば)の財源では、「増税は行わない」としたが具体策は示さなかった。

岸田首相は、同日のこども未来戦略会議で「少子化は先送りできない待ったなしの課題。2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス。こども未来戦略を策定し加速化プランに掲げる各種施策を早急に実施する」と強調した。また、全国知事会と全国市長会は同日、それぞれ同方針へのコメントを発表。いずれも、今後の少子化対策では「国と地方が車の両輪となって取り組む」との意向を強調したうえで、安定的な地方財源の確保を要請した。

◎行政分野での女性参画拡大 ― 女性版骨太方針2023

政府は6月13日、女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)を決めた。「女性の所得向上・経済的自立に向けた取組強化」「女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」などを柱に掲げた上で、「男性育児は当たり前」の社会実現に向け子どもが2歳未満の期間に時短勤務の活用を促す給付を創設するほか、ベビーシッター・家事支援サービスの利用促進へ認証制度のあり方などを検討するとした。さらに、行政運営の委員構成の性別偏りの解消や農業委員の女性登用促進の事例集作成、教育委員会での取組状況の見える化、防災分野での女性役割の向上と参画拡大の環境整備などを進めるとした。

一方、スイスの世界経済フォーラムは6月21日、ジェンダーギャップ指数2023を公表した。男女平等の度合いを国際比較したもので、日本は146か国中125位と過去最低となった。韓国(105位)、中国(107位)も下回った。なお、トップはアイスランド、以下、ノルウェー、フィンランド、ニュージーランド、スウェーデンなどが続く。その他の分野別順位をみると、教育は47位、健康は59位で世界トップクラスだが、政治は138位、経済も123位と最低レベルだった。国会議員や管理職的職業従事者の男女比を反映した。

◎都道府県・市町村が推進計画策定 ― 認知症基本法

超党派の議員立法「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が6月14日、成立した。基本理念に「全ての認知症の人が基本的人権を享有する個人として自らの意思によって日常生活・社会生活を営むことができる」ことを掲げ、政府は施策の具体的目標・達成時期などを盛り込んだ「認知症施策推進基本計画」を策定。都道府県・市町村も認知症施策推進計画を策定する。併せて、内閣に認知症施策推進本部を設置するとした。また、国民にも認知症の正しい知識・理解を深め共生社会実現に寄与するよう求めた。

一方、内閣府は6月20日、2023年版高齢社会白書を公表した。我が国の総人口に占める65歳以上人口(22年10月)は3,624万人で、総人口に占める割合は29.0%と20年の28.6%より上昇。なお、65~74歳人口は13.5%、75歳以上は15.5%だった。また、就業率は、60~64歳が73.0%、65~69歳が50.8%、70~74歳も33.5%あり、10年前(2012年)に比べそれぞれ15.3ポイント、13.7ポイント、10.5ポイント上昇した。高齢者と健康の関係を見ると、健康状態が「良い」と回答した割合が「健康に心掛けている」は32.4%で、「心掛けていない」の17.5%を上回った。特に「40代から心掛けている」は「良い」が45.3%と約半数を占めた。

◎コロナ後の歳出構造を平時に戻す ― 骨太方針2023

政府は6月16日、経済財政運営と改革の基本方針2023を閣議決定した。こども・子育て政策を「最も有効な未来への投資」とし、その抜本強化で「少子化トレンドを反転させる」としたが、その財源についてはこども未来戦略方針に基づき国民に追加負担を求めることなく加速化プランを推進するなどの方針の指摘にとどめた。このほか、①三位一体の労働市場改革②家計所得の増大と分厚い中間層の形成③多様な働き方の推進④女性活躍や共生・共助社会づくり⑤食料安全保障の強化と農林水産業の成長推進 ― などを掲げた。そのうえで、「財政健全化の旗を下ろさず、コロナ禍を脱し歳出構造を平時に戻していく」とした。

また、国と地方の新たな役割分担では、各府省に対し地方の制度を検討する場合は「まず計画以外の形式を検討し、計画によらざるを得ない場合はあらかじめ地方六団体に説明・理解を求める」ことを盛り込んだ。政府の地方分権改革有識者会議が示した計画策定のナビゲーション・ガイドを受けたもの。

◎マイナ情報の誤紐付け解消など総点検へ ― 政府

政府は6月21日、マイナンバー情報総点検本部を開催した。マイナンバー制度を巡る相次ぐトラブルを受けたもので、同本部ではマイナンバーの誤紐付け事案として①健康保険証で別人の資格情報に紐付いた誤登録(2021年10月~22年11月)が7,312件②地方職員共済組合のマイナポータルに別人の年金情報表示1件③障害者手帳で別人に紐付け62件 ― などが報告され、今後、マイナポータルで閲覧可能な情報全ての制度で総点検することを決めた。また、松本総務相は6月20日の記者会見で誤紐付け事案の全自治体調査最終報告を発表。誤り事案の累計は131団体、172件で、うちログアウト漏れが136件、誤入力が32件などと説明した。

一方、岸田首相は6月21日の国会閉会後の記者会見で、マイナンバーの誤紐付けに言及。「来年秋の保険証廃止への国民の不安を重く受け止めており、現行の保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提として取り組む」と強調した。ただ、「大前提」とした国民の不安払拭が実現するか、なお不確実性が残りそうだ。

◎非平時の役割分担・連携などで議論 ― 地制調小委

第33次地方制度調査会は6月28日、第15回専門小委員会を開き、非平時に着目した地方制度のあり方について審議した。総務省が、これまでの審議を踏まえ「論点と考え方の整理」を提示。同論点は、非平時における①地方制度のあり方を検討する必要性②役割分担、連携・協力のあり方③情報共有・コミュニケーションのあり方④リソース確保のあり方 ― について論点を整理。「個別に危機管理法制が整備されているが、非平時の国・地方関係の一般ルールとして国が役割・責任を果たす事態をどう考えるか」「一定要件の下、的確・迅速な対応実施のため自治体への指示を定める必要性をどう考えるか」「指示権行使の手続きはどう考えるか」などを示した。

これを受けて、委員間で地方分権と危機対応をめぐり議論。「非平時の備えを自治法で規定すべき」「非平時の時、誰が責任を取るか明らかにすべき」「指示権は通常発動せず、最後はこれがあると位置づける」「同意には時間がかかるので連携協力、情報提供が必要」などの意見が出た。今後も引き続き議論する。

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)