地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2023年11月中央の動き

◎感染症対応の一元化へ「危機管理統括庁」が発足

感染症危機対策を担う内閣感染症危機管理統括庁が9月1日、発足した。新型コロナウイルス禍で初動が遅れた教訓を生かすため、各省庁から一段高い立場で統括する司令塔組織として位置付けた。同日の発足式で岸田首相は「次なるパンデミックに備えて万全の体制を構築することは政府の使命。次の感染症危機に備えて万全の備えを構築してもらいたい」と述べた。

一方、全国知事会は9月4日、10月以降のコロナ入院患者の受入体制などで、厚労省に①都道府県判断による病床確保のための財源確保②重症・中等症Ⅱの患者を病床確保料の対象とする③患者の受診・治療控えが生じない公費支援の継続 ― などを要望した。また、全国市長会と全国町村会は9月14、19日に2014年度以降のコロナワクチン接種で厚労省にそれぞれ申し入れた。9月8日の厚労省審議会で「特例臨時接種」(無料)を今年度末で終了する方針が示されたことを受けたもので、自己負担が生じる場合もインフルエンザと同水準負担で接種できるなど希望する高齢者等が安心して接種できる仕組みの提示を求めた。

◎防災拠点の公共施設耐震率が96%に ― 消防庁

総務省消防庁は9月1日、防災拠点となる公共施設の耐震化状況(2022年10月1日現在)を発表した。同公共施設18万1,573施設のうち耐震性が確保されている割合は前年度比0.6ポイント上昇の96.2%。また、災害対策本部設置庁舎の耐震率(市町村)は同1.4ポイント上昇の89.7%だった。施設別では、校舎・体育館99.6%、消防本部・消防署所95.7%、診療施設95.1%で高く、警察本部・警察署等86.8%、県民会館・公民館等89.1%で低い。また、同庁は8月31日、消防団員調査結果を発表した。2023年4月1日現在の団員数は76万2,670人で、前年より2万908人(2.7%)減った。3万6,395人が入団したが、5万7,303人が退団したため。なお、女性団員は2万7,954人で前年より351人、学生団員も6,562人で、同856人それぞれ増えた。

一方、政府は9月17・18日、横浜市で第8回防災推進国民大会(ぼうさいこくたい2023)を開催した。北原糸子立命館大学客員研究員が「関東大震災 ― 救護・救済を中心に」と題して基調講演。次いで「次の100年に向けて、来るべき巨大地震への備えを考える」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

◎地域交通のリ・デザイン検討へ会議発足 ― 国交省

国交省は9月4日、地域の公共交通リ・デザイン実現会議を発足させた。少子高齢化で居住地域では移動手段に不安が高まる一方、公共交通事業者もサービス水準維持が困難になっている。このため、地域の多様な関係者の共創による地域公共交通のリ・デザインと社会的課題の解決策を検討する。具体的には、①地域資源のマルチタスク化②自家用車による旅客サービス③デジタルの活用④エネルギーの地産地消など地域内経済循環⑤新たなモビリティ開発 ― などを、中小都市、交通空白地、地方中心都市、大都市、地域間の5類型に分けて検討。来年4月にも対応策をまとめる。

また、国交省は8月31日、地域公共交通の活性化・再生促進基本方針の変更を発表した。改正地域公共交通再生促進法の公布を受けて、「連携と協働」促進のためまちづくりとの連携の記載を充実したほか、①地域公共交通利便増進事業の留意事項②鉄道事業再構築事業の定義変更 ― などを追加した。

◎災害・コロナ時の「指示」で論点整理 ― 地制調

第33次地方制度調査会の専門小委員会は9月11日、ポストコロナやデジタル化進展を踏まえた地方制度のあり方に関する「総括的な論点整理」を審議した。地方六団体の意見聴取も踏まえ、年内に答申をまとめる。

論点整理は、①国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応②デジタル進展を踏まえた対応③自治体相互間の連携・協力 ― について論点を示した。うち、コロナ対応では個別法上の役割が不明確なため混乱が生じたが、「国は個別法や自治法で指示ができないなど法令上、国の役割が明確でない課題がある」と指摘。このため、災害やコロナまん延など国民の安全に重大な影響を及ぼす場合は、現行地方自治法とは明確に区分したうえで「一般ルール」を用意しておく必要があるとし、国が「必要な指示を行うことができるようにする」との考えを提示した。このほか、①保健所設置市区などの調整事務を都道府県が講じることができる②国が自治体に資料提出や意見表明を求めることができる③国が自治体間の応援・職員派遣の調整役を担うことを明確化する ― などを盛り込んだ。

また、同専門小委員会は9月27日、同論点整理について地方六団体から意見聴取した。その中で、全国知事会は緊急時に国が自治体に指示できる仕組導入は「地方の自主性・自立性の尊重が前提」と指摘したうえで、①双方向のコミュニケーションで国と地方が補完し合う制度とする②「指示権を行使できない想定の事態」の認定は、閣議決定前に協議する仕組みとする③自治体から国と実質的な協議を行える場・法定外の協議の場の流動的な設置 ― を求めた。また、全国市長会、全国町村会は個別法が想定しない場合の指示は限定的かつ厳格な制度とするとともに、災害・感染対応の都道府県の権限・財源移譲の議論を要請した。

◎食料安全保障の確保・強化などを答申 ― 農水省

農水省の審議会は9月11日、食料・農業・農村基本法見直しに向けた最終とりまとめを答申した。今後20年間に予測される課題に気候変動や農業従事者・農村人口の減少などを挙げ、基本法を平時から食料安全保障を実現する計画に見直すべきだと指摘。その具体策に、国民一人一人に食料を届ける食料システムの構築や農業法人の経営基盤強化・スマート農業の普及、災害や気候変動への対応強化、多様な人材活用による農村機能の確保などを挙げた。

また、林野庁は9月12日の林政審議会に2024年度から15年間を期間とする全国森林計画を提示した。新たに①盛土等の安全対策の実施②木材合法性確認の取組強化③花粉症発生源対策の加速化④林業労働力の確保促進⑤高度な森林資源情報の整備・活用 ― などを盛り込んだ。そのうえで、伐採立木材積を8億8,899万立方㍍、造林面積(人工林)を137万㌶、林道開設量を1万4,600キロ㍍などとした。

◎岸田内閣改造の総務相に鈴木淳司氏が就任

第2次岸田第2次改造内閣が9月13日に発足。総務相に鈴木淳司氏(衆院議員、愛知県第7区・当選6回、65歳)が就任した。鈴木総務相は、就任後の記者会見で首相から地方のデジタル基盤の整備、地方自治の在り方、地方税財政の充実、マイナンバーカードの普及などへの取組を指示されたことを明らかにしたうえで、マイナンバーの誤紐付け事案などについて「再発防止策を徹底するなど信頼回復に向けてしっかりと取り組んでいく」と強調した。また、総務副大臣には渡辺孝一氏(衆院議員、北海道ブロック・当選4回、65歳)、馬場成志氏(参院議員、熊本県・当選2回、58歳)が就任した。

一方、全国知事会は同日、岸田改造内閣発足を受けてコメントを発表した。岸田内閣では物価高への対応や賃上げ促進などの予算を確保し大胆かつ強力な経済対策を早急に講じるとともに、次元の異なる少子化対策実現のため地方の声を反映した「こども未来戦略」を策定し着実に実行するよう求めた。

◎市町村の58%で管理者がいない無縁墓発生 ― 総務省

総務省は9月13日、公営墓地の実態調査結果を発表した。人口減少と多死社会の進展や家族観の多様化で管理する者がいない無縁墓の増加が懸念されているとし、厚労省に市町村への支援を要請した。

墓地は全国で約87万区画、うち公営墓地は約3万区画あるが、死亡者の縁故者がいない無縁墓が58%の市町村で発生。このため、市町村では公営墓地の荒廃や不法投棄の防止に向け樹木の伐採や墓石の倒伏防止に費用をかけている。しかし、無縁墓防止のための縁故者詳報を把握する市町村は81%が2割未満など無縁改葬後の墓石の取扱が不明なため対応に苦慮していた。このため、厚労省に対し、①縁故者情報を事前に把握している事例を整理し提供する②無縁改葬後の墓石の取扱について保管期間や処分の事例を整理し提供する ― よう要請。併せて、今後も社会環境の変化や個人・集落等が経営する墓地でも課題となるため、地域の宗教的感情や習慣も考慮しながら自治体の対応事例を収集しつつ今後の墓地行政のあり方の検討を求めた。

◎高齢者の割合が29%と過去最高を更新 ― 総務省

総務省は9月17日、我が国の高齢者を発表した。65歳以上高齢者は2023年9月15日現在、3,623万人で前年より1万人減少したが、総人口に占める割合は29.1%と前年より0.1ポイント上昇した。また、70歳以上は2,889万人、前年比20万人増加、75歳以上は2,005万人、同72万人増加、80歳以上は1,259万人、同27万人増加。その割合は70歳以上23.2%、75歳以上16.1%、80歳以上10.1%でいずれも前年より上昇した。一方、高齢就業者数(22年)は912万人と過去最高を更新。その割合も全就業者の13.6%となった。同有業率を都道府県別にみると、男性は山梨41.3%、福井40.8%、長野39.6%、山形38.5%で高く、女性は福井23.3%、長野22.6%、山梨22.2%、佐賀21.8%で高い。

また、厚労省は9月15日、100歳以上高齢者(2023年9月1日現在)を発表した。前年度比1,613人増の9万2,139人で、過去最高を更新した。うち女性が8万1,589人で、全体の89%。最高齢は男性が111歳(明治44年生)、女性が116歳(明治40年生)だった。

◎こどもを「権利の主体」など5本柱 ― こども大綱案

内閣府のこども家庭審議会は9月25日、こども大綱の策定に向けた中間整理をまとめた。今後5年程度を見据えたこども施策の基本的方針と重要事項を整理したもの。その柱に、①こども・若者を権利の主体とし、今とこれからの最善の利益を図る②こどもや若者、子育て当事者の視点を尊重、対話しながら考える③こどもや若者、子育て当事者のライフステージに応じて切れ目なく支援④良好な成育環境を確保し、格差や貧困の解消を図る⑤多様な価値観・考え方を大前提に結婚、子育の希望・実現を阻む隘路を打破⑥関係省庁・自治体・民間団体との連携を重視 ― を掲げた。

また、幼児期までのこどもの育ちの基本的ビジョンでは、「誕生前から幼児期まで」のウェルビーイング向上に向け①こどもの権利と尊厳を守る②「安心と挑戦の循環」を通してこどものウェルビーイングを高める③「こどもの誕生前」から切れ目なく育ちを支える④保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援⑤こどもの育ちを支える環境や社会の厚みを増す ― との5ビジョンを示した。

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)