地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2024年8月中央の動き

◎地方創生10年で新たな発想の施策実施を推進 ― 政府

政府は6月10日、「地方創生10年の取組と今後の方向性」をまとめた。人口減少や東京圏への一極集中が変わらないため、地方移住や企業の地方移転、女性や若者に魅力的な地域づくりを推進。また、①結婚や子どもを持ちたい希望をかなえる少子化対策②地域資源の掘起しなど付加価値を高める産業・事業の創出③デジタル活用による地域の持続可能性低下への対応 ― など新たな発想による施策を推進するとした。

また、政府は6月13日、地方創生に関する地方6団体との意見交換会を開催した。自見地方創生担当相が「本年は地方創生10年の節目。女性・若者に魅力的な地域づくり、インフラ・サービス強化など自治体の取組を後押しする」と述べた。これを受け、地方側からは「少子化と人口減少に歯止めがかからない。人口減少対策を喫緊の課題と位置付けるべき」(村井全国知事会長)、「人口減少・少子化、東京一極集中が進んでおり、改めて国全体の戦略が必要」(水谷網走市長)、「東京一極集中と少子化は自治体努力だけで改善は図れない。新たな発想の対策が必要」(吉田全国町村会長)などの意見・要望が相次いだ。

◎人口減少社会対応と自治強化で討論 ― 全国知事会

全国知事会は6月11日、「地方自治の意義理解拡大に向けたセッション」を開催した。基調講演で神野直彦東大名誉教授が「人口減少社会は分権・分散型社会で乗り越える必要がある」と強調。これを受けて、三村明夫人口戦略会議議長は「消滅可能性自治体がなお744団体あり、政府・民間も危機意識が必要。子育てを若者だけに任せず国民会議を結成したい」と述べたほか、地下誠二経済同友会地域共創委員長は「人手不足が深刻。地方でも子どもが育ちやすい社会づくりが必要だ」、谷隆徳日経新聞編集委員は「自治体には広域連携を求めたい。企業も参加し深化させないと持続的発展はない」と指摘。河野太郎デジタル相は「人口が減る中で各地域で幸せに暮らせる社会をどう作るかだが、地域ごとに課題も異なる。権限があり意思決定できるトップがいるかが大事だ」と述べた。

一方、参加知事からは「東京の出生率が低く、コロナ以降の東京への人口集中再活発化でブラックホールに入り込んでいる」(平井伸治鳥取県知事)、「その構造的問題を変えるには地方に責任と権限を増やすことが重要」(湯崎英彦広島県知事)、「企業の本社移転も進んでいない。国がやらないとできない」(村井嘉浩宮城県知事)など東京一極集中の弊害の指摘が相次いだ。これを受けて、コーディネーターの阿部守一長野県知事が「人口減少問題には、これから30年~50年の構想が問われる」と結んだ。

◎会長に松井一實・広島市長を選出 ― 全国市長会

全国市長会は6月12日、都内で総会を開き、新会長に松井一實・広島市長を選出した。松井氏は「社会経済の変化に対応するため、地方は競争より協調を重視する政策に転換する必要がある」と抱負を語った。

また、決議では令和6年能登半島地震の復旧・復興に関する決議のほか、「デジタル社会の推進と新たな地方創生の実現」「都市税財源の充実強化・地方分権改革の推進」「国土強靭化、防災・減災対策等の充実強化」「東日本大震災と福島第一原発事故からの復興」「参議院議員選挙制度改革」などを採択した。

◎食料・農業・農村基本計画の策定を指示 ― 首相

政府は6月12日、食料安定供給・農林水産業基盤強化本部を開き、岸田首相が改正食料・農業・農村基本法の成立を受けて「食料・農業・農村基本計画」の今年度中策定に向け夏から議論を開始するよう関係閣僚に指示した。併せて、①所得向上に向けた合理的価格の形成②食料安全保障確立に向けた人口減少下での農業用インフラの保全管理③林業経営体の育成と集積・集約化の促進 ― の新たな法制度の次期通常国会提出に向け作業を進めるよう要請した。

一方、政府は6月5日、第3回農福連携等推進会議を開き、「農福連携等推進ビジョン」(2024改定版)をまとめた。2030年度までの目標に①農福連携に取り組む主体数を1万2,000件以上②地域協議会に参加する市町村数を200以上 ― を掲げたほか、11月29日を「ノウフクの日」に設定し関係団体・企業等が連携して普及啓発を推進する。併せて、①ユニバーサル農園の普及・拡大②社会的に支援が必要な者の農福連携への参画促進③「林福連携」「水福連携」の推進 ― などで「農・福」の広がりを発展させるとした。

◎仕事と健康の両立支援が必要 ― 男女共同参画白書

政府は6月14日、「2024年版男女共同参画白書」を公表した。白書は「仕事と健康の両立」を特集。女性がキャリアアップするには仕事・家庭・育児の両立支援に加え、女性特有の症状を踏まえた健康への理解・支援が求められると指摘した。併せて、仕事と介護の両立に向け介護を社会全体で支える必要性も強調。そのうえで、「健康経営」の取組を大企業のみならず中小企業等にも拡大させることが必要だとした。

また、政府は6月11日、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024」(女性版骨太の方針2024)を決めた。女性活躍・男女共同参画を推進するため「人材の育成」を横串にすえ、①企業等における女性活躍の推進②女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の推進③あらゆる分野の政策・方針決定に参画する女性人材の育成 ― を推進するとした。また、今般の能登半島地震を踏まえ防災現場における女性の参画拡大とリーダー層の意識醸成などの必要性も指摘した。

◎国・地方デジタル共通基盤で連絡協設置へ ― 政府

政府は6月18日、デジタル行財政改革会議を開き、「デジタル行財政改革取りまとめ2024」「国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針」「デジタルライフライン全国総合整備計画」を決めた。デジタル行財政改革では、①オンライン診療・遠隔医療の拡充②保育DXによる現場の負担軽減③災害時の情報共有化と避難者支援のデジタル化 ― などを盛り込んだ。また、国・地方デジタル共通基盤では、共通化すべき業務・システムの基準・費用負担の考え方を示すとともに、国と地方の連絡協議会を近く設置する。これを受けて、岸田首相は「デジタル活用を阻害する規制・制度の徹底した見直しを進める」と述べた。

一方、全国知事会は6月18日、デジタル社会の実現に向けた提言をまとめた。国と地方が一体となったデジタル社会実現に向けた重点計画の推進のほか、デジタル化の新たな交付金制度創設では自治体の意見を反映させるよう要請。さらに、生成AIの利活用の促進に向けた自治体共通の指針を示すとともに、生成AIを安全・安心に活用できる環境整備を求めた。

◎大規模災害時に国の補充的指示創設 ― 改正自治法

改正地方自治法が6月19日に成立した。①大規模災害・感染症まん延時に国から地方への補充的指示を創設②情報システムの適正利用と公金収納事務をデジタル化③地域住民の生活サービス提供団体を市町村長が指定 ― などを盛り込んだ。うち、「補充的指示の創設」では、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に国は講ずべき措置を自治体に指示できるとしたほか、①国は自治体に資料・意見の提出を求めることができる②国による応援の要求・指示、職員派遣の斡旋ができる③国の指示で都道府県が保健所設置市区との事務処理の調整を行う ― なども盛り込んだ。なお、同指示は個別法の規定では想定されない事態に限定。このため、新たな章を設けて特例として規定した。また、同指示内容の国会報告の義務化が修正追加された。

これを受けて全国知事会は同日、同指示が「地方自治の本旨に反し安易に行使されることがないよう衆・参両院の附帯決議を踏まえた制度運用とすることを強く求める」とのコメントを発表した。また、松本総務相は6月18日の記者会見で、「補充的指示は地方分権一括法の基本原則に則って的確迅速な対応を可能とするもので各府省に周知徹底を進めたい」と述べた。

◎児童の虐待相談が21万件と過去最多 ― こども白書

政府は6月21日、初となる「2024年版こども白書」を公表した。こども・若者をとりまく状況で「安心できる場所がある」「どこかに助けてくれる人がいる」と思うこども・若者は9割超と多いが、相対的に貧困状態にあるこどもは12%、児童相談所の虐待相談対応件数は21万9,170件と過去最多を更新。また、「自分の将来は明るい希望がある」は66%あるが、「結婚、妊娠、こども・子育てでは温かい社会に向かっている」は28%にとどまる。さらに、「自分自身に満足している」は17%で、諸外国の3割台を下回った。白書は、そのうえで「こども大綱」「次元の異なる少子化対策」を紹介するとともに、貧困連鎖防止の学習支援(香川県、山梨県)、こども家庭センター(豊中市)、こども自殺対策(長野県)、学校外からのアプローチによるいじめ防止対策(旭川市、熊本市)、ヤングケアラー支援(神戸市)などの取組を紹介した。

また、改正子ども・子育て支援法が6月5日に成立した。こども未来戦略の「加速化プラン」に盛り込まれた①児童手当の高校生までの支給と所得制限撤廃②妊婦の支援給付と相談支援事業の創設③両親ともに育児休業した場合の育児時短就業給付の創設 ― などを盛り込んだ。併せて、家族の介護や世話を行っているヤングケアラーを国・自治体の支援対象に明記。子ども・若者支援地域協議会・要保護児童対策地域協議会が連携して支援するとした。

◎2025年度の国・地方PB黒字化堅持 ― 骨太方針2024

政府は6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2024」を閣議決定した。「経済新生への道行き」にデフレからの完全脱却と少子高齢化・人口減少の克服を掲げた。そのうえで、人口減少が本格化する30年代以降も実質1%を上回る成長を目指すとともに、①医療・介護DXや先端技術・データの活用で全国どこでも最適な医療・介護を提供②教育DXで全国どこでも個別最適な学び ― などを掲げた。併せて、財政健全化では「財政健全化の旗を下ろさず目標に取り組む」とし、改めて2025年度の国・地方PB(基礎的財政収支)黒字化の財政健全化目標を掲げた。地方一般財源総額の「24年度地財計画の同水準確保」も盛り込んだ。

一方、総務省の地方財政審議会は5月31日、地方税財政改革の意見をまとめた。地方歳出では人件費上昇・物価高・金利上昇などの歳出増要因が拡大し、これまでの人件費・投資的経費・公債費削減で社会保障関係費の増加を吸収する構造から大きく変化したと指摘。このため、社会保障関係費等の増加と持続可能な地域社会実現のための行政需要を適切に地方財政計画に計上、2025年度以降も必要な一般財源総額を確保するとともに臨時財政対策債の新規発行の早期解消を目指すべきだとした。

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)