2026年3月気になる地方自治トピックス
生活保護法・生活扶助基準引き下げに対する最高裁判決
2025年6月27日、最高裁判所は2013~15年にかけて行われた、生活保護制度の生活扶助基準の引き下げに対応した地方自治体(福祉事務所設置自治体)に対して保護変更決定を取り消すことと、国に対して損害賠償を求める「生活保護基準引き下げ処分取消等請求事件」に対する判決を下した。
以下、生活扶助基準の背景、判決内容、判決に対する厚生労働省の対応などについて簡単に解説する。
1 生活扶助基準の変遷について
生活保護法における生活扶助とは、食費・被服費・光熱水費等の日常生活に必要な費用として計算される(生活保護法(以下「法」)第12条)。そして、扶助方法は被保護者の居宅において行うものとされている(法第30条)。他の扶助方法としては、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、など8つの扶助がある(法第11条)。そして、生活扶助の水準は、生活保護制度の基本をなすものであり、その水準の変更は、被保護者の生活、暮らしを大きく左右するものである。では生活扶助の水準はどのように決められてきたのか(1)。
①旧生活保護法時代の1946~47年は「当時の経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算出し、生活扶助基準とする方式」(標準生計費方式)、②1948~60年は「最低生活を営むために必要な飲食物費や衣類、家具什器、入浴料といった個々の品目を一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式」(マーケットバスケット方式)、③1961~64年は、「栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて計算し、別に低所得世帯の実態調査から、この飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め、これから逆算して総生活費を算出する方式」(エンゲル方式)、④1965~84年は、「一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式」(格差縮小方式)、⑤1984年から現在は、「生活扶助基準が、一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当であるとの評価を踏まえ、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図る方式」(水準均衡方式)とされ、かつ「5年間に一度の頻度で、生活扶助基準の水準について定期的に検証を行う」(2)こととされた。
しかしながら、生活保護制度の運用や生活扶助基準は、様々な社会的な背景のもとで変化してきた。例えば、占領下の生活扶助基準は、GHQのもとで一定の水準が保たれていたものの、その後は高度成長による消費水準の上昇にもかかわらず、生活扶助基準は据え置かれる状況が1960年頃まで続いた。また、1980年代には生活保護の不正受給が大きな問題となり、保護申請を福祉事務所の窓口で規制することによって、保護が受けられないなどの問題が生じてきた歴史がある。
2 デフレ下での水準均衡方式による実際の運用
日本経済はバブルの崩壊以降デフレ経済が進み、賃金水準が上昇せず消費の冷え込みが続く中で、2007年11月に「生活保護基準部会報告書」が公表された。その内容は、夫婦子1人(有業者あり)世帯の年間収入階級第1・十分位世帯当たり生活扶助相当支出額が148,781円であったのに対して、生活扶助基準額は150,408円と高めとなっていること、60歳以上の単身世帯の同様の比較では、生活扶助相当支出額62,831円に対して、生活扶助基準額71,209円というものであった。
しかしながら厚生労働省は、原油価格の高騰が消費に与える影響等の社会経済情勢を見極める必要性があるなどとして、2008年度の生活扶助基準を政策的に据え置いた。その後も、2008年9月のリーマンショックによる世界金融危機の中、生活扶助基準は更に据え置かれることとなった。
3 リーマンショック前後の生活保護に対する厳しい社会情勢
リーマンショック以降の雇用情勢悪化により、生活保護受給者が2011年7月には205万人を超え、1951年度以来の過去最多記録を更新した。その結果、年間の保護費が3兆4,000億円規模に膨らみ、国や自治体の財政を圧迫している現状が大きく報道された。
更に2012年には、芸能人の親族による、生活保護受給騒動(ただしこれらは不正受給とは言えない)も起き、保守系議員による生活保護制度へのバッシングが起こった(この結果、生活保護申請時点においては、親族への扶養照会などが強化されている)。
こうした中、2012年の社会保障と税の一体改革の三党合意(民主党、自民党、公明党)に基づく社会保障制度改革推進法においては、生活困窮者対策の強化(後の生活困窮者自立支援法につながる)の一方で、生活扶助の給付水準の適正化や生活保護制度の見直しに向けた法改正にも取り組むとされた。そして、2012年12月の衆議院選挙において自民党は政権公約として、「(民主党への)政権交代後、急激に肥大化した生活保護の見直し(国費ベース8,000億円(中略)大胆な歳出削減を図ります)」を掲げ、政権復帰後、この公約実現に向けて進んでいくこととなった。
4 生活困窮者自立支援制度の創設
こうした生活保護制度の見直しと同時に、2011年から2013年という、民主党政権から自民党への政権交代の過渡期にあっても、生活困窮者自立支援制度が創設されている。ただ、生活保護制度見直しと一体のものとして検討されたため、一部の有識者・弁護士からは、生活保護申請を規制するものとして受け止められ、「生活困窮者を生活保護から遠ざけ・排除する『沖合作戦』に利用される」(3)との声明さえも登場した。
しかし現在、生活困窮者自立支援制度は、生活保護とともに、就労支援や子どもの学習支援、様々な生活支援を実施する制度として大きな役割を果たし、全国に定着している。特に、新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動の自粛は、急激な収入の減少により多くの生活困窮者を生んだが、住居確保給付金や社会福祉協議会による手続きが簡易な貸し付けにより、多くの方々の生活支援につながったことは、忘れてはならないだろう(4)。
5 2013年生活保護基準部会報告書
このような状況の中、2007年「生活保護基準部会報告書」から5年となる2013年「報告書」(2013年1月18日)が公表された。部会では、2009年に実施された全国消費実態調査のデータに基づき検証されたが、年齢、世帯人員、居住地域の3要素別の基準体系の検証のみが実施され、基準の水準(高さ)の検証については実施されず、年齢別、世帯人員別、級地別に、一般低所得世帯における消費支出の格差指数と生活扶助基準の格差指数の間の乖離(ゆがみ)があるかどうかを分析・評価した。例えば、夫婦と18歳未満の子1人世帯の年齢、世帯人員、地域による各影響の合計は8.5%減、夫婦と18歳未満の子2人世帯では、上記各影響の合計は14.2%減となり、大幅な乖離が認められた。一方で高齢者世帯はプラスという評価となった。
ただし報告書では、「検証手法について一定の限界があることに留意する必要がある」、「とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある」(5)などの意見も付されていた。
6 生活扶助基準の引き下げ
こうした結果や社会保障制度改革推進法も踏まえ、厚生労働大臣は、生活扶助基準を順次改定した。その内容は次の3つの手法を組み合わせて行われた。
7 最高裁判決の概要
こうした2013年の生活扶助基準の引き下げに対する2025年6月の最高裁判所判決は、「自治体による保護変更決定処分を取り消す。原告らの国に対する損害賠償請求を棄却する」というものである。
判決の具体的内容は、法第3条と第8条第2項の最低限度の生活とは、抽象的かつ相対的な概念であり、厚生労働大臣の政策的な判断には裁量的な余地があるものとされているとしつつも、「これまでも生活扶助基準の改定に際しては、専門家により構成される合議制の機関等により、各種の統計や資料等に基づく専門技術的な検討がされてきた」、「主として本件改定に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべき」(6)と、判断の基本的な考え方を示している。その判断の枠組みは以下の通り大きく3つに分けることができる(7)。
(1) デフレ調整について・ 物価変動率は、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。
・ 水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならない。
不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標とすることについて、基準部会等による審議検討を経ていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない。
・ 物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的知見との整合性を欠くところがあり、この点において、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったものというべき。
・ デフレ調整が一律に4.78%も減ずるものであり、生活扶助を受給していた者の生活に大きな影響を及ぼすものであることも考慮すると、平成29年検証の結果(8)によって、上記の評価は左右されない。
・ こうしたことから厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法第3条、第8条第2項に違反して違法。
(2) ゆがみ調整について・ 2分の1処理を含むゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるということはできない。
(3) 国家賠償・ 厚生労働大臣が、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとは言い難い。
・ 厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とデフレ調整に係る判断をしたと認め得るような事情があったとは認められない。
8 最高裁判決を受けた厚生労働省の対応
以上のように、「ゆがみ調整」とそれに対する「2分の1調整」については合法とされたが、「デフレ調整」については法第3条、第8条第2項に違反して違法とされた。判決を受けた厚生労働省は、2025年8月13日に、「専門的知見に基づく検討を行う」ため、学識経験者による専門委員会を、社会保障審議会生活保護基準部会のもとに設置し、11月18日に報告書が公表された。この報告書を受けて厚生労働省は、以下の対応について公表した(9)。
・ ゆがみ調整については、判決で違法とされていないことから、追加給付の対象としない。
・ 2008年から2011年にかけての消費水準は、リーマンショックの影響等により全体的に大きく低下し、とりわけ一般低所得世帯の落ち込みが大きかった。このため、リーマンショックの影響といった特殊要因を考慮することが必要。
・ 専門委員会の報告書では、平時に近い消費水準を基準とする観点から、リーマンショックの影響から一定程度回復した後の水準に補正する方法が示され、ゆがみ調整(1/2処理)反映後の基準額に対する改定率として3つの案が示されたが、2012年までの変動率に基づく▲2.49%を採用。具体的には、原告・原告以外を区別せず、高さ調整▲2.49%の水準で一律保護費の追加給付について、実施(▲4.78%と▲2.49%の差額分を給付)する。
・ 原告については、これまでの争訟の経緯を踏まえた原告との紛争の一回的解決の要請を踏まえ、高さ調整を実施しない水準となるよう、これに相当する特別給付金を支給(▲0%と▲2.49%の差額を追加給付に上乗せ)する。
9 生活保護の運用、生活扶助基準の脆弱性と柔軟性
判決に対する個々の評価については、別稿にゆずり、ここでは生活保護制度の性格について考えてみたい。
法第8条(基準及び程度の原則)では、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基」とするとされ、その測定方法が現在の水準均衡方式で検証される根拠となる。そこで、生活保護法の位置付けをみるならば、憲法第25条を根拠として制定され(法第1条)、憲法で定められた「権利」であるとはいうものの、社会保障制度の中では、行政の裁量の大きい「措置」制度として位置付けられている。一部の有識者は「権利としての生活保護」を主張するが、その制度運用の歴史をみると、必ずしも「権利」として安定して運用されているとは言い難い面がある。つまり社会保険制度のように、負担と給付の牽連性が強く、一定の要件を満たすと、反対給付としてのサービスを受けることができるという仕組みとはなっていないところに生活保護制度の脆弱性がある。その脆弱性がある限りは、厚生労働省の政策的な判断と言えども、社会情勢や経済情勢、国・地方自治体の財政圧力に対して影響を受けやすい性格を持っていると言える。
一方で、その脆弱性が厚生労働大臣の機動的な政策判断を可能とし、被保護者の急激な生活の変化を防止する面もあるとも考えられる。例えば、生活扶助基準は、水準均衡方式と言えども、消費者物価指数に基づく検証は5年おきとなっており、急激な経済変動に対応できない。このことから、厚生労働省は、物価高への対応として2026年10月から1年間、生活扶助費を1人当たり月1,000円引き上げる特例措置を拡大することにもみられる。また、本稿の事例にもある通り、リーマンショック時などの経済変動下でも厚生労働省の政策的判断として生活扶助基準の引き下げが先送りされており、ある意味、法第8条第2項の「前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない」という条文を超えた判断であったとも解釈できる可能性がある。
10 実務的な課題と今後の動向
なお、忘れてはならないのは、追加給付の実施にあたっての実務的な課題である。つまり、対象者の特定、給付額の算定、通知・相談対応、生活保護システムの改修など、広範な事務が自治体現場に集中することが想定されている。このことから自治労は、厚生労働省の方針を受け、2026年1月15日に要請書を提出していることも紹介したい。
そんな中2026年1月23日、政府において、外国人の受入れに関する関係閣僚会議が開催され、その「総合的対応策」に、外国人による生活保護制度の利用に関する文言が入れられた。内容は、外国人による利用の実態が不明とし、入管との情報連携や、「行政措置の対象となる者の見直しも含め、保護の補足性の原理との関係も考慮しながら必要な措置を検討すべき」との文言が入った。今のところ、厚生労働大臣は「まずは実態調査」(大臣会見概要2026年2月3日)との立場だが、差別的な取り扱いとならないよう、今後の動向を注視する必要がある。
【註】
(1) 厚生労働省「生活扶助基準の検証関係参考資料」2008年5月1日 https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2008/18989/20080501_1shiryou5_1.pdf 2026年1月28日閲覧。
(2) 社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在り方についての中間まとめ」2003年12月16日。
(3) 自由法曹団「『改正』生活保護法、生活困窮者自立支援法の成立に抗議し、両法律の廃止を求める声明」2013年12月27日。
(4) 連合総研『2020~2021年度経済情勢報告』2020年11月(コンポーズユニ)。
(5) 社会保障審議会生活保護基準部会「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」2013年1月18日。
(6) 最高裁第三小法廷判決 2025年6月27日。
(7) 厚生労働省「第1回最高裁判決への対応に関する専門委員会資料」2025年8月13日。
(8) 平成29(2017)年生活保護基準部会検証の結果では、夫婦子1人世帯の年収階級第1・十分位の生活扶助相当支出額は、概ね均衡しているとなっている。
(9) 厚生労働省「社会保障審議会生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書等を踏まえた対応の方向性」2025年11月21日。
【参考文献】
副田義也 『生活保護制度の社会史』1995年8月(東京大学出版会)
【参考資料】
・共同通信2025/6/27「生活保護費の引き下げは違法 最高裁『裁量の逸脱、乱用』」
・朝日新聞2025/6/28「生活保護減額 勝訴『大きな励みに』原告や支援者 歓喜の声=北海道」
・朝日新聞2025/6/28「[社説]生活保護判決 減額の裏付け怠った責任重い」
・共同通信2025/7/1「生活保護、専門家審議の場設置へ 減額判決受け厚労相」
・共同通信2025/8/13「生活保護専門委、13日に初会合 引き下げ違法で対応審議」
・共同通信2025/8/13「生活保護原告ら、全額補償を要求 専門委でヒアリング」
・朝日新聞2025/8/30「原告側が政府批判 再手続きで生活保護減額『誤り』 厚労省専門委」
・朝日新聞2025/10/3「生活保護費、引き下げるなら ― 論点示す 最高裁『違法』判決受け、厚労省内『手続きの問題』」
・共同通信2025/11/7「生活保護一部補償が妥当、厚労省 最高裁違法判決、首相初めて謝罪」
・朝日新聞2025/11/8「生活保護減 再改定を 有識者委、報告書3案了承 引き下げ『違法』判決」
・朝日新聞2025/11/13「片山財務相『同様な立場』 生活保護費巡り、首相『おわび』」
・朝日新聞2025/11/22「生活保護減額 一部を補償 厚労省 原告には給付上乗せ」
・朝日新聞2025/11/22「やっと届いた声『踏みにじった』生活保護、利用者ら落胆」
・朝日新聞2025/11/30「生活保護、こだわった再減額 『違法』分との差額、新基準で算定」
・朝日新聞2025/12/10「生活保護費、再減額に反発 原告側、再提訴も視野 判決後の調整」
・朝日新聞2026/1/9「生活保護費『再減額』審査請求へ」