2026年7月 気になる地方自治トピックス
第34次地方制度調査会における論点整理と考察
第2回総会までの審議を踏まえて
現在、第34次地方制度調査会において、人口減少社会における持続可能な地方行政体制や、大都市制度のあり方をめぐる議論が展開されている。本稿では、執筆時点(2026年5月21日)において直近で開催された第2回総会までの審議経過と論点を整理し、そこから見えてくる今後の地方自治制度の方向性について考察したい。
I 第34次地方制度調査会の設置
1 諮問事項第34次地方制度調査会は2026年1月19日に設置された。今次調査会において内閣総理大臣から求められた諮問の主要な柱は以下の2点である。
① 国・都道府県・市町村間の役割分担関係② 大都市地域における行政体制関係
総理から示された諮問本文は以下のとおり。深刻化する人材不足やデジタル技術の進展を背景に、将来にわたる行政サービスの「持続可能性の確保」がその中核に据えられている。
【諮問本文】2 設置の背景:これまでの動き
今次調査会の設置に先立った、近年の具体的な政策動向について概説しておきたい。
(1) 国・都道府県・市町村間の役割分担関係
① 「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」報告書(2025年6月)
総務省は、人口減少下において地域の担い手を含めた資源の不足や偏在が深刻化する中、自治体の行財政を持続可能なものにしていくための具体的な課題整理と対応方策の検討を目的として、2023年11月に「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」を設置した。同研究会による議論の成果は、2025年6月24日に報告書として公表されている。
そのうえで報告書は、市町村単独では体制確保が困難な事務について、国や都道府県が担うことも視野に入れつつ、個別事務ごとに役割分担を再整理すべきだとした。具体的な方向性は以下のように整理されている。
さらに報告書は、市町村相互の自主的・水平的な連携に委ねるだけでは限界があるとの認識を示し、行政体制の見直しに向けて、国や都道府県がより積極的な役割を果たすことに期待を寄せている。
なお、2025年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」にも、「持続可能な地方行財政基盤の強化」として同様の内容が盛り込まれており、今次調査会の設置および諮問に向けた方向性は、この段階で既に示されていたと言える(2)。
(2) 大都市地域における行政体制関係
① 大都市制度をめぐる2つの動き
大都市制度をめぐる近年の動向としては、大きく分けて次の2つの動きがある。
1つは大阪府・大阪市が主張・主導してきた「都構想(都区制度)」である。これは、政令指定都市(大阪市)を廃止・分割して特別区へと再編し、広域行政を府に一元化する構想である。もう1つは、指定都市市長会が主張する「特別市構想」である。これは、指定都市を道府県から独立させ、区域内の権限と財源を一層の自治体(特別市)に集約する構想である。
このうち都構想(都区制度)は、第30次地方制度調査会で取り扱われ、並行して「大都市地域における特別区の設置に関する法律」が成立しているので、制度的には一定の整理がなされている。論点となりうるのは、いわゆる「副首都構想」と都構想との関係性だが、これも自民党と日本維新の会により関連法案の上程に向けて準備中と伝えられており、政治主導の案件となっているため、地方制度調査会で議論を深めるべき論点とはなりにくい(脱稿後に法案の内容が明らかになったので、本稿末に補足を加えた)。
よって、当面、大都市制度をめぐる議論の中心は特別市構想になると考えられる。ただし同構想は、指定都市市長会と、拒否権プレイヤーである道府県との間で水面下の駆け引きが展開されることが想定される、強い政治性を帯びた案件であり、制度論としてどこまで踏み込んだ議論が行われるかは未知数である。
② 大都市における行政課題への対応に関するワーキンググループ報告書(2025年6月)
前述の持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会の下には、「大都市における行政課題への対応に関するワーキンググループ」が設けられた。開催要綱では「大都市に特有の行政課題に対応する観点から、大都市に関する制度や大都市圏域での取組に関し、具体的な課題の整理及び対応の方策について幅広く議論を行うこと」を目的としていたが、2025年6月に公表された報告書では、ページの半分近くを割いて特別市制度を論じている。その中では、①特別市制度の意義、②広域自治体が分割されることによる影響、③住民自治の確保、④特別市への移行の要件・手続について包括的に検討しており、これらの項目は後述する地方制度調査会の「審議項目(案)」にも反映されている。
③ 指定都市市長会「多様な大都市制度実現プロジェクト」報告書(2025年11月)
特別市構想を主導する指定都市市長会は、2020年11月に「多様な大都市制度実現プロジェクト」を設置し、その議論をまとめた報告書を2025年11月に公表した。同報告書は、前述の総務省ワーキンググループが示した4つの論点について、次のように見解を示している。
まず、①特別市制度の意義については、住民に身近な基礎自治体が一元的に担うことで、効率的かつ機動的な都市経営が実現されるとしている。②分割による影響については、道府県と特別市、あるいは特別市と周辺市町村との連携を強化するほか、特別市による周辺への「水平補完」も視野に入れることで対応可能とする。③住民自治の確保については、公選の住民代表(区長・区議)の設置には踏み込まず、区選出議員による委員会設置や区長の特別職化などを軸としつつも、具体的な住民代表機能のあり方は引き続き今後の検討課題とした。④特別市への移行要件については、移行対象となる区域の住民のみの投票で決すべきとした。
④ その他
なお、特別市構想に反対の立場をとる全国知事会は、2026年3月に特別市制度を検討するための「大都市制度のあり方に関する検討プロジェクトチーム(PT)」を始動させており、同年10月に予定されている知事会議での最終的な意見表明を目指し、対抗軸を練っていると伝えられている(3)。
Ⅱ 審議の状況
1 審議の経過(下表のとおり)表 審議経過
2 専門小委員会における審議内容
以下、第4回までの審議状況について、その要点を紹介する。
(1) 第1回専門小委員会(2月18日):諮問項目に関する事務局説明
初回の専門小委員会において、事務局から早くも以下のような「検討の方向性(案)」が示された。従来の地制調では、当初はヒアリングと委員からの自由討議を中心に進められ、しばらくして事務局から「論点整理」が示されることが通例であり、初回から「検討の方向性」が示されるのは異例とされる(4)。
【国・都道府県・市町村の役割分担のあり方に関する検討の方向性(案)】
【大都市地域における行政体制に関する検討の方向性(案)】
(2) 第2回専門小委員会(3月6日):ヒアリング(役割分担関係)
第2回専門小委員会では、まず厚生労働省から介護保険分野、国土交通省から上下水道・道路インフラ分野に関する現況と対応状況が報告された。
① 厚生労働省(介護保険制度)
小規模自治体を中心に要介護認定の共同設置が進む一方、人口減少・高齢化や人材不足により中山間地域でのサービス維持が喫緊の課題となっている。対応として、今後は全国を3分類し、特に人口減少地域で柔軟な枠組みを創設する方向である。また、都道府県が主体となって福祉人材確保のプラットフォームや医療・介護の広域的な協議の場を構築し、コーディネーターとして従来以上に積極的な役割を果たすことが期待されている。
② 国土交通省(上下水道・道路インフラ)
技術系職員の不足や予算縮小を背景に、市区町村が管理する膨大なインフラの維持・更新が限界を迎えており、対応策として自治体や分野の枠を越えた「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」を推進している。上下水道では地方共同法人である日本下水道事業団の活用に加え、都道府県や大都市による管理権限代行などの法制度化に向けた取り組みを進めている。道路分野では、国による直轄診断や、他自治体が点検・修繕を代行できる「連携協力道路制度」の創設など、段階的・広域的な連携体制の構築を目指している。
③ 高橋滋・法政大学教授
次いで、地方分権改革有識者会議座長代理を務める高橋滋・法政大学教授からのヒアリングが行われた。
高橋教授は、まず役割分担原則の「再解釈」と「量から質への転換」の必要性を指摘した。具体的には、地方自治法第1条の2が定めた役割分担原則は本来「質」を重視した規定であるにもかかわらず、第1次地方分権改革以降の動きは、事務移譲など「量の拡大」に偏重し、結果として自治体の事務負担を過重にしたと指摘した。
そのうえで、今後は「質的な自律性」の確保が重要であるとし、具体的には以下の3点を挙げた。第1に、国が本来負うべき責任を明確にし、住民との接点を理由に地方に委ねられてきた「経由事務」の整理。第2に、自治体の自由度を奪っている国の政省令による「従うべき基準」や負担を強いている法定計画等の見直し。第3に、社会変化や技術革新(SaaSやロボット等)の活用による自治体職員の負担軽減である。
つづけて高橋教授は、多様な主体の連携による執行体制の構築とそれを支えるガバナンスのあり方を提唱した。専門人材の確保が困難な自治体のために、国土交通省からの報告にあった日本下水道事業団のような、全国レベルの共同組織に専門人材やノウハウを集約してそこから広域的にサービスを提供する形も事務配分の選択肢に含めるべきであるとした。また、実効性のある協議の場を確保するため、国と地方、さらに民間を含めた「地方ニーズ・フィードバック型」の改革を進めるための、制度的な意見調整の仕組みが必要であるとした。さらに、民間リソースを活用しつつも、行政が事務遂行を適切に管理・コントロールできる「グリップ力」を保持することが必要とも指摘した。
最後に、こうした大規模な役割分担の見直しを進めるためには、従来の個別的な分権提案方式だけでは限界があり、2060年を見据えた長期的な視点のもと、地域の実情を踏まえた分野横断的な見直しを政府内で主導する新たな意見調整・検討の仕組みを制度的に設けることが求められると結んだ。
(3) 第3回専門小委員会(3月30日):ヒアリング(役割分担関係)
国・都道府県・市町村の役割分担関係に関して、消費者庁(消費者行政)および秋田県大館市・青森県中泊町・沖縄県・長野県からヒアリングが行われた。
まず、消費者庁からは、潜在的な被害を掘り起こして防ぐアウトリーチ型への転換が必要である一方、相談員の高齢化と担い手不足が深刻であるとの現状が示された。そのうえで、消費者行政は身近なセーフティネットとして基礎自治体の役割が重要であるため、今後は特に小規模自治体において、都道府県のバックアップや多様な広域連携、デジタル技術の活用などを通じて、いかに持続可能な体制を構築していくかが課題として示された。
次いで各自治体関係者からのヒアリングでは、主に次のような指摘がされた。
① 県による市町村支援
沖縄県・長野県からの報告では、人口減少や人材不足に直面する市町村に対し、県が実務を支える「補完・共同化」を進めていることが報告された。
例えば沖縄県においては、小規模離島町村の事務を共同処理するため、県と町村が共同で県庁内に組織を設置し、バックオフィス業務を集約化することを検討している。また、長野県は県下各地域に広域連合が設置されているが、このうち中心となる市が存在しない木曽地域において、県が広域連合に町村と対等な立場で加入し、観光・交通事業などの実務をともに担い、町村では困難な事業を補完しようとしている。
② 権限と責任の一致、国の役割をめぐる問題提起
現状の国・都道府県・市町村の関係において、権限と責任の所在が一致していない点が多く、地方への権限なき責任の押し付けがしばしば発生しているとの指摘が相次いだ。
阿部守一・長野県知事:同一分野に複数の主体が関わる現在の仕組みは、対応の遅延や責任の所在の不明確さを招き、施策推進を阻害すると批判。「責任なき国、権限なき地方」の是正に向けて、権限と責任の一致を議論の基軸に据えるべきだとした。その際には、時代に即した「ナショナル・スタンダード」とともに国の役割を明確に示すことを求めた。
石田健佑・秋田県大館市長:県が「地域医療構想(計画)」を策定するが、実際の医療提供は自治体病院や民間病院が担っている現状を指摘。圏域の中心都市が自前の財源で周辺住民の医療まで賄う不均衡が生じているとし、「誰が現場の維持に最終責任を負うのか」という実効性のある責任構造の確立を訴えた。
濱舘豊光・青森県中泊町長:専門職の確保や介護認定審査の負担増に悩む小規模町村の現状を報告。そのうえで、今後の役割分担の見直しにあたっては、一律の義務付けではなく「各団体が地域の状況に応じて自ら判断・選択できる仕組み」を前提に議論すべきであると強調した。
(4) 第4回専門小委員会(4月15日):ヒアリング(大都市制度関係)
大都市制度関連のヒアリングが実施されたが、特に特別市制度の創設をめぐっては、推進側である久元喜造・神戸市長(指定都市市長会会長)と、それに反対する立場である木村敬・熊本県知事の間で主張が対立した。主な対立点は以下のとおりである。
① 「二重行政」の認識と人的資源の最適配分
久元・神戸市長:都道府県と指定都市の間には依然として「二重行政」の弊害が存在すると指摘。限られた人的資源を有効活用するためにも、大都市の事務は大都市に完全に委ねるべきとした。これにより、道府県は大都市への対応から解放され、その分のリソースを大都市以外の市町村への支援に集中できるようになるとした。
木村・熊本県知事:現行制度下でも熊本県・熊本市は「調整会議」やトップ会談を頻繁に開催し、災害対応などで密に連携できていると反論。現行の指定都市制度は十分に機能しており、二重行政の問題はないと主張した。
② 特別市移行に伴う周辺自治体への影響
木村・熊本県知事:県税収が特別市に移されると、残された県の財源が不足し、過疎地への財政支援や広域インフラの整備予算が削られると危惧。さらに、県と特別市に事務が二元化されることで、災害対応や地下水保全、防疫、都市計画、さらには医師の確保といった広域的な行政において、各種事務の処理効率や調整機能に影響が生じると指摘した。
久元・神戸市長:神戸市と周辺自治体との水平連携の実例を挙げ、特別市移行後もこれを継続・強化する方向には変わりないとした。そのうえで、周辺自治体への支援は、むしろ国全体の問題であり、市町村の補完は県にしかできないという固定観念から解放され、もっと柔軟な「縦横斜めの相互依存関係」を構築していくことが、人口減少時代にふさわしい自治体間関係であると主張した。
③ 移行手続における合意形成と「住民投票」の範囲
木村・熊本県知事:全国知事会内の議論において、対象となる指定都市の住民だけでなく「残される県民(周辺自治体の住民)」も含めた全県的な住民投票を行うべきだとする意見があることを紹介し、歴史的な県民の帰属意識への配慮も含めた慎重な合意形成のプロセスが必要であるとした。
久元・神戸市長:特別市移行によって法律上の地位が変動するのは当事者である指定都市の住民のみであると指摘し、まずは当事者である指定都市の住民の意思(住民投票)を最優先すべきだと主張した。
Ⅲ 論点整理:第5回専門小委員会にて示された「審議項目(案)」を踏まえて
以上の議論を踏まえて、5月13日に開催された第5回専門小委員会において、事務局から今次地方制度調査会の「審議項目(案)」が示された。本章では、同小委員会における事務局説明(植田行政課長)の内容を踏まえつつ、提示された論点の概要とその背景について概説する。
1 国・都道府県・市町村間の役割分担のあり方について
(1) 地方分権改革以降の変遷と社会経済情勢の変化
事務局説明では、冒頭、地方分権改革のこれまでの動きと、それと並行して進行した社会経済情勢の変化とを関連づける形で、地方自治をめぐる現状認識が示された。
2000年の地方分権一括法施行以降、わが国の地方自治制度は、「基礎自治体優先の原則」の下で、権限移譲や義務付け・枠付けの見直しを進めてきた。しかし、2008年を境に総人口が減少局面へと転じ、人口減少は加速度的に進行している。加えて、災害の激甚化や急速に進展するデジタル技術への対応など、自治体を取り巻く環境も大きく変容した。現在の自治体現場では、人口減少・移住定住対策、カーボンニュートラルへの対応、老朽化するインフラの維持管理など、多様化・複雑化する行政需要への対応が求められている。また、国から求められる行政計画の策定等の増加が、自治体現場の負担増を招いている実態も指摘された。
こうした状況に加え、人材不足が深刻化する中で、将来にわたり持続可能な行政サービスをいかに維持・確保するかが、今次の地方制度調査会における主要な検討課題となっている。
(2) 取組の「加速化」に向けて
持続可能な行政サービスを確保するため、これまで定住自立圏や連携中枢都市圏といった圏域行政の取り組みが進められてきたほか、インフラ維持管理や医療・介護分野において国・都道府県・市町村の垣根を越えた縦横の連携・補完・支援が推進されている。あわせて、外部機関による補完やデジタル技術の活用も着実に広がりを見せていると事務局は説明する。
こうした現状認識を踏まえ、提示された「審議項目(案)」では、「事務の性格に応じ、事務自体や事務処理方法、制度上の事務配分の見直し、デジタル技術の実装、市町村間の水平連携や都道府県の補完・支援などの広域連携等の取組を加速化させることが適当と考えるか。適当と考える場合、その実現のためにどのような手法によることが必要と考えるか」との問いが示され、つづけて具体的に以下の3つの方向性を提起している。
これらは「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」報告書が示した4つの対応方策のうち、それぞれ「生産性を高める(AIを含めたデジタル技術の活用の方向性)」「まとめる(地方公共団体間の連携の方向性)」「担い手を広げる(国・地方公共団体以外の主体の活用の方向性)」に対応するものである。
① AIを含めたデジタル技術の活用の方向性(生産性を高める)
審議項目(案)の原文では、「取組を進めていく上で、急速に進展するAIを含めたデジタル技術の時宜に適った活用の在り方について、どう考えるか」と提起している。事務局はこれに補足して、電話問い合わせの自動化や福祉関連業務への活用など、自治体業務へのAIの実装が急速に進む一方で、正確性の懸念や情報流出リスク、対応人材の不足といった課題が浮き彫りになっており、時宜にかなったルールの整備が求められていると指摘する。
② 地方公共団体間の連携の方向性(まとめる)
審議項目(案)では、「地方公共団体間の連携については、一部事務組合等を活用した市町村間の事務の共同処理に加え、経済成長と人口の『ダム機能』を目指した連携中枢都市圏構想、観光や産業振興分野を中心とした都道府県の区域を超えた単位での広域リージョン連携などの取組が進められてきたが、どのような性格の事務について、どのような連携を進めていくことが考えられるか」とされる。
事務局による説明では、新たな行政課題への対応や「連携中枢都市圏」の進展などに伴い、事務の共同処理に対する需要が増大する中で、既存の共同処理制度が現実のニーズに十分対応しきれているのかという問題意識が示された。
③ 国・地方公共団体以外の主体の活用の方向性(担い手を広げる)
審議項目(案)では、「国・地方公共団体以外の主体の活用については、全国で統一的な事務処理が可能なものに地方共同法人を活用する例や、公権力の行使に当たらない事務に民間法人を活用する例などが見られるが、どのような性格の事務について、どのような主体を活用することが考えられるか」とある。
事務局説明では、全国一元的に事務を担う「地方税共同機構」や「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」等の地方共同法人の役割、日本下水道事業団が有する専門職の「人材プール機能」の有効性が例示された。さらに、地方独立行政法人制度の窓口業務(申請等関係事務)への活用などを例に、官民の枠組みを越えた多様なリソースの動員の取り組みの可能性にも言及された。
(3) 取組を実効化するための枠組み(国・地方、都道府県・市町村)
前述のとおり、事務局からは各種取組の「加速化」の方向性が示されたが、これらを実際に進めていくためには、それを支える「推進枠組み」が必要となる。事務局は、この枠組みを「国・地方間」と「都道府県・市町村間」の2つのレイヤーに分けて検討する必要性を示している。
① 国・地方間
国・地方間の取組の現状として、事務局からは「提案募集方式」の近年の動向が紹介された。同方式が始まった当初は、自治体への事務・権限移譲に関する提案が多かったのに対し、近年では、各種計画の公表回数の見直しや経由事務の廃止といった規制緩和・事務の簡素化を求める提案へと比重が移っていることが報告された。この報告は、自治体現場の課題認識が、権限拡大から事務負担の軽減へとシフトしていることを示唆している。
さらに事務局は、デジタル行財政改革の推進体制として設けられたデジタル庁・総務省・自治体が参画する「国・地方デジタル共同基盤推進連絡協議会」のスキームにも言及した。国と地方が協議・調整を行いながら新たな制度の実装を進めるための新たな連携モデルとして位置づけているものと考えられる。
② 都道府県・市町村間
自治体の実情は地域ごとに多様であり、全国一律の制度設計には限界がある。そのため事務局は、各地域固有の実情に応じて市町村間の水平連携や都道府県による垂直補完を進めるために、都道府県・市町村間の検討枠組みが必要であるとしている。
総務省(事務局)の把握によれば、都道府県と市町村が共同で将来の行政体制を検討する枠組みは、すでに47都道府県の半数以上で設置されているという。事務局としては、こうした取組をさらに展開するために、どのような枠組みが有効であるかを地方制度調査会で議論し、全国的な取組の底上げにつなげたい意図がうかがえる。
2 「大都市地域における行政体制」のあり方について
(1) 特別市制度の意義
「審議項目(案)」における大都市制度をめぐる論点は、もっぱら「特別市」の制度化の是非に焦点が絞り込まれている。
まず、冒頭で提起されているのは、「『特別市』を制度化した場合の国全体にとっての意義や住民にとってのメリット・デメリットをどのように考えるか」という問いである。
事務局の説明を踏まえると、総務省(事務局)の問題意識の根底には、大都市行政における「垂直的な統合(特別市制度の導入による二重行政の解消)」と「周辺自治体との水平的な連携(広域行政)」とのトレードオフ関係がある。事務局は、ロンドン、トロント、釜山など海外の大都市改革の事例を参照し、一層制を志向しながらも、結果として広域圏単位での事務処理や周辺自治体との連携枠組みを併せ持つ制度設計が模索されてきたことを紹介している。
こうした課題は、特別市の成立によって既存道府県に残される周辺・残存地域との格差問題とあわせ、戦後直後の「(旧)特別市制」をめぐる議論以来、繰り返し指摘されてきた論点でもある(5)。
(2) 「特別市」の制度化をめぐる論点
特別市の設置は、長年定着してきた都道府県の区域を実質的に分割することを意味する。「審議項目(案)」では、この分割が、行政実務や財政、住民自治、さらには国民生活に及ぼす影響について、個別に論点を示している。
① 広域事務への影響等
都道府県が担ってきた広域事務が分割されることに伴い、特別市が区域外で果たすべき広域的役割を仕組みとして担保できるかが論点の1つとして挙げられている。事務局説明では、具体例として以下の3分野が示された。
第1に警察事務である。特別市単独で警察組織を設置する場合には、組織分断によるコスト増や、他県警察への応援派遣体制への影響が懸念される。他方で、特別市と残存道府県が共同設置する場合には、公安委員会のあり方を含む民主的管理の仕組みに課題が生じうるとされた。
第2に医療提供体制の確保についてである。大都市部に病院や医師等の医療資源が集中している現状を踏まえると、区域分割によって医療資源の効率的活用や、圏域一体での医療提供体制の維持が困難となる可能性が指摘された。
第3に都市計画分野である。具体的には、広域的見地から決定すべき都市計画の権限を誰が担うのかが問題として示された。仮に国が担う場合には、地域のまちづくりに国がどこまで関与するかという問題や、国の業務負担増といった課題も生じる。
② 財産・施設や議員・職員への影響等
財産や施設の取扱いについても、制度設計上の重要な課題として提起されている。事務局説明では、その困難性を示す例として、神奈川県における県民利用施設の約4割が、横浜市・川崎市・相模原市の3指定都市区域内に集中している実態が紹介された。加えて、議員や職員の身分・配置をどのように整理するかについても、検討課題として言及された。
③ 財政への影響
財政面では、「特別市」「残存する道府県」「全国の自治体」の三者それぞれに生じる影響を考慮する必要があるとされた。事務局資料では、指定都市と、それを含む道府県の財政力指数を比較した結果、多くの指定都市において、指定都市の方が高い財政力を有していることが示された。豊富な税源が特別市側に移転すれば、中山間地域などを抱える残存道府県の財政基盤が弱体化する可能性がある。事務局は、現行の地方交付税制度のみではこの不均衡への対応が困難となる可能性を示唆し、何らかの制度的対応の必要性を論点として提示している。
④ 住民自治・住民代表機能の確保と制度的影響
特別市における住民自治や住民代表機能をどのように確保するかも、重要な論点として示されている。第1回専門小委員会において谷口副会長が指摘したが、特別市への移行によって都道府県という自治のレイヤーが1つ減少し、住民の政治参加の機会が縮小する。自治体の規模が巨大化する一方で、住民が関与できる政治的接点が減少することは、民主主義の観点から慎重に評価されなければならない。
⑤ 特別市の設置手続
特別市の設置にあたって、住民の意思確認を「どのような方式(住民投票か議会の議決か)」で、「どのような範囲(当該指定都市の住民のみか、残存することになる道府県民全体も含めるべきか)」で行うのが適切であるかが論点として提示されている。特別市の設置が広域的影響を伴う以上、民主的正統性をいかに確保するかが制度設計上の焦点となるだろう(本稿末の補足を参照)。
3 委員からの意見
以上の「審議項目(案)」の説明に対して、委員からは次のような意見が示された。
(1) 「国・都道府県・市町村間の役割分担」および取組の「加速化」について
まず、事務局が掲げる「事務の性格」に応じた取組の加速化という基本方針に対しては、現実の自治体運営の実態を十分に踏まえていないのではないかとの違和感が示された。
荒見委員は、「事務の性格」に応じて機械的・類型的に広域化や補完を進める発想ではなく、住民生活の維持を起点として制度設計を考えるべきであると指摘した。その上で、行政サービス維持が困難になっている背景には、各省庁の個別制度自体が、現在の自治体の実態に十分適合していないという構造的問題があるとの認識を示した。
同様に牧原委員は、ただ「取組の加速化」を図るのではなく、急速な社会変化への対応と、住民の基本的生活を安定的に支える自治体本来の役割とのバランスを意識して対応する必要性を指摘した。
また、土山委員は、行政サービスの持続可能性を論じる前提として、深刻化する人材不足という構造問題への対応が不可欠であると指摘した。その上で、「持続可能かつ最適な行政サービス」は最終的に住民のためのものであり、その主体はあくまで市町村であるという原則を見失うべきではないと論じた。
人材をめぐっては、松永委員から、単なる量的な人材確保にとどまらず、多様な主体間の利害調整や協働を育てる「コーディネート人材」の育成・確保という視点を盛り込む必要性を指摘している。また、大橋委員からは、自治体における人員不足が進む中で、国の役割分担を増やす選択肢も含めて検討すべきとの提案があった。
デジタル技術・AIの活用については、牧原委員から、人口減少地域において先行的に導入を進めることで、都市部との格差縮小につなげるべきだとの意見が示された。大屋委員は、生成AIのみを前提とするのではなく、「学習型」「ルールベース型」といったAIの類型ごとの特徴と課題(判断過程のブラックボックス化など)を踏まえて整理しなければ、実務と乖離した議論になりかねないと警鐘を鳴らした。さらに辻委員からは、急速な技術革新を踏まえ、足元の制度対応だけでなく、将来を見据えた未来志向の議論も必要であるとの指摘があった。
(2) 「大都市地域における行政体制(特別市)」について
「審議項目(案)」が当初から「特別市」の制度化の是非に収斂していることについて、議論の性急さを指摘する意見が相次いだ。
牧原委員は、いきなり特別市の制度設計に立ち入るのではなく、まず指定都市・都道府県の役割分担や大都市圏域全体の見取り図を整理した上で特別市の意義を検討すべきだとした。原田委員からは、特別市制度のみを論じるのではなく、都道府県制度のあり方も含めて議論する必要があるとの問題提起がなされた。
特別市と周辺自治体との関係については、牧原委員や横田委員から、首長の交代などによる政策転換も想定して、特別市が果たすべき広域的役割を法的・制度的に担保する必要があるとの指摘があった。荒見委員は、地方交付税制度を含めて、特別市制度導入に伴う財政措置のあり方を検討項目に加える必要性を指摘した。御手洗委員は、「1.国・都道府県・市町村の役割分担」に関する議論が、小規模・遠隔自治体における行政サービス維持を主眼としているのに対して、「2.大都市地域における行政体制(特別市)」に関する議論ではそうした地域への視点が希薄であり、両者の問題意識が相反しかねないとの矛盾を突いた。
さらに、住民自治との関係では、林委員から、現行の指定都市制度の下では、都道府県が指定都市に対して限定的な権限しか有しない一方で、知事選挙や都道府県議会選挙には指定都市住民の意思が大きく反映されるという歪(いびつ)な構造が指摘された。そして、人口構造が変化する中で、広域自治体レベルにおける住民自治のあり方を再考する必要があり、その文脈の中で特別市を選択肢の1つとして位置づける視点も必要である、との問題提起がなされた。また、林委員は参議院議員選挙における合区問題に触れ、国政選挙における地域代表のあり方をどのように考えるべきかという論点を示した。これに呼応して谷口副会長からも、合区により単独では参議院に代表を送り出せない県が存在する一方で、特別市が成立すればそこに多数の代表が集中することになると述べ、地域代表制をめぐる構造的な課題として同様の懸念を示した(6)。
4 第2回総会(2026年5月20日)に際しての修正と委員からの意見
(1) 「審議項目(案)」の修正
以上の第5回専門小委員会における議論を踏まえ、5月20日に開催された第2回総会に提出された「審議項目(案)」では、一定の修正が加えられた。主な修正点は次のとおりである。
「国・都道府県・市町村間の役割分担」のあり方をめぐっては、まず全体として、人口減少や担い手不足、公務人材に求められる役割の変容など、自治体行政を取り巻く社会状況の変化に関する記述が加えられた。また、「事務の性格」に応じた取組の加速化という方針については、「行政分野・地域・事務の性格」といったように、事務の性格以外の考慮事項が付け加えられた。あわせて、「住民にとって持続可能かつ最適な形で行政サービスを提供するための国・都道府県・市町村間の役割分担や関係の在り方」との表現が加えられ、制度改革を住民視点から検討すべきことが明示された。さらに、「住民にとって持続可能かつ最適な形で行政サービスを提供するための、地方議会が担うべき役割やガバナンスの確保の在り方、住民自治の在り方について、どう考えるか」との小項目が追加された。
また、大都市制度については、特別市制度をめぐる論点に入る前段として、大都市地域が果たすべき役割、およびその役割に照らして「今後あるべき大都市制度をどのように考えるべきか」という総括的な論点が加えられた。特別市制度をめぐる論点に関しては、特別市制度の導入に伴う財政調整制度の対応、ならびに都道府県制度そのもののあり方に及ぼす影響に関する論点が追加された。さらに林委員や谷口副会長らの指摘を踏まえ、「大都市地域における住民自治や住民代表機能の在り方」に関する論点も追加された。
(2) 委員からの意見
「審議項目(案)」に対して、国会議員・地方六団体を代表する委員からは、主に以下のような意見が示された。
国・都道府県・市町村間の役割分担のあり方については、「事務を減らす」という視点を重視すべきとの意見が相次いだ。神谷委員(中道改革連合)は、「事務の棚卸し」が必要ではないかと主張した。岸委員(立憲民主党)は、法定受託事務の割り当てが自治体現場において過剰な負担となっていると指摘したうえで、国の法令に基づく各種計画策定など、自治体に課せられている負担の軽減を優先すべきであると主張した。棚野委員(北海道白糠町長・全国町村会長)は、既存事務について必要性の検証を踏まえた見直しが必要であり、そのための枠組みの整備を求めた。
また、阿部委員(長野県知事・全国知事会長)は、第3回専門小委員会における問題提起と同様に、国と地方の権限・責任のあり方を見直す必要性とともに、国と地方の役割分担を継続的に検討・改善するための協議体の設置を提案した。また、中本委員(広島県安芸太田町議会議長・全国町村議会議長会会長)は、広域連携を進める場合には、併せて広域連携によって進める事務事業に対する議会のチェック機能を確保することが肝要であると主張した。
大都市制度(特別市制度)については、慎重な検討を求める意見が多く示された。国会議員の江島委員(自民党)からは参議院の合区解消をめぐる選挙制度改革への影響について、橘委員(自民党)や宮下委員(自民党)からは一層制化に伴う住民自治への影響について懸念が示された。また、宮下委員からは、財政調整を含む税財源のあり方についても課題が指摘された。阿部委員は、都道府県を分割することとなる特別市制度について、現在進められている都道府県を超えた広域連携の動きに逆行するとの懸念を示した。棚野委員からは、都道府県の分断に伴う広域調整機能の低下や、道府県財源の減少による周辺自治体への補完支援機能の縮小に加え、そもそも特別市制度は国民的議論の対象となっていないのではないかとの指摘があった。
Ⅳ 考 察
1 国・都道府県・市町村の役割分担について(1) 「事務を減らす」議論の不足
前述のとおり、第34次地方制度調査会に先立って設置された「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」の報告書は、対応方策として「事務を減らす(事務の整理・縮小や頻度の見直しなど)」「まとめる(水平連携・垂直補完)」「担い手を広げる(民間活用や住民参加の促進)」「生産性を高める(デジタル技術の活用など)」の4点を示していた。
ところが、第34次地方制度調査会における事務局資料では、「事務を減らす」議論の比重が他の3点に比べて薄い。現状認識として、行政計画の増殖等への問題意識や事務自体の見直しへの言及はみられるものの、「取組の加速化」を図る分野として項目を立てて掲げられているのは、「生産性を高める(AIを含めたデジタル技術の活用)」「まとめる(地方公共団体間の連携)」「担い手を広げる(国・地方公共団体以外の主体の活用)」の3項目であり、「事務を減らす」は中心的な論点として位置づけられているとは言い難い。
しかしながら、行政計画の増加や国への対応要請など、国の制度運用に起因して自治体に追加的に生じている負担の調整は、地方の持続可能性を論じる際の出発点であるはずだ。近年、「提案募集方式」における自治体からの提案内容が規制緩和や事務の簡素化に関するものへとシフトしていることは、現場の関心がこうした負担軽減に向かっていることを示している。第2回専門小委員会で高橋滋・法政大学教授が指摘した「量から質への転換」の視点をふまえれば、事務・手続の簡素化、基準緩和、処理水準の柔軟化、行政計画の義務付け削減などを通じた事務総量のコントロールが重要な論点となる。
(2) 「新たな考え方として定式化する」の射程
第1回専門小委員会で事務局から示された「検討の方向性(案)」においては、これまでの国・都道府県・市町村や外部主体を交えた連携・協働・広域対応など種々の取り組みを踏まえつつ、「これらの傾向をより加速させる必要がある場合には、国・都道府県・市町村の役割分担のあり方に関する新たな考え方として定式化する必要があるのではないか」とされている。
この射程が、単なる既存手法の整理にとどまるのか、それとも地方分権一括法以降の「国・都道府県・市町村」の役割分担原則そのものに修正を迫るものかによって、その制度的含意は大きく異なる。仮に後者であるならば、それは地方分権改革以降に形成されてきた地方自治制度の枠組みそのものに変更を加えることを意味する。すなわち、単なる運用改善ではなく、いわば地方分権改革レジームの再編に踏み込む可能性を内包しており、その制度的・政治的インパクトは大きい。議論の射程を注意深く見守る必要がある。
(3) 権限と責任の不一致 ― 「分離」と「融合」のジレンマ
第3回専門小委員会における自治体からのヒアリングでは、現行の国・都道府県・市町村の関係において権限と責任の所在が乖離しているとの指摘が相次いだ。特に、財源や制度の運用方針を決定する権限を国(あるいは都道府県)が保持したまま、事務負担や政策結果への責任のみを現場の自治体が負わされる「権限なき責任の押し付け」に対し、自治体側から強い批判が寄せられた。
もっとも、権限と責任を一致させるべきだとしても、それをどの主体(国・都道府県・市町村)に寄せるのかという点は、極めて困難な課題である。事務の性質や自治体のリソースが多様化する中で、一律に「寄せ先」を決定することは現実的ではないからである。
このジレンマを象徴するのが、第3回専門小委員会における阿部守一・長野県知事の報告である。阿部知事は、「実務(責任)を伴わない機関が権限を独占すべきではない」として、権限と責任を同一主体に帰属させる「分離」型の論理を基軸に据える。その一方で、「政策の設計段階から国と地方が一体となり、方向性を共有して責任を引き受け合う仕組み」の必要性も説いており、こちらは相互依存を前提とした「融合」型を志向している。この「分離」と「融合」のジレンマをどう打開するのかが、本問題への対応策のカギとなる。
(4) 都道府県による垂直補完の可能性と限界
① 垂直補完に向けた具体的方策
前述のとおり、事務局資料からは、DXの活用と並んで都道府県による垂直補完に強い期待が寄せられているように見受けられる。専門小委員会における議論やヒアリングを踏まえると、以下の2つの方向性が想定される。
ⅰ.人的リソースにおける共同連携
アドホックな対応としては都道府県職員の応援派遣が検討され、中長期的・制度的な対応としては都道府県レベルでの「人材プール化」が想定されうる。特定の自治体が職員を抱え込むのではなく、広域圏や県レベルで専門職のプールを作り、必要に応じて派遣や技術支援を行う体制づくりである。
ⅱ.事務執行体制の共同化
事務事業そのものを共同で担う枠組みの構築である。沖縄県が構想している県と離島自治体が「事務センター」を共同設置する方式や、長野県のように広域連合等の既存の枠組みに県が参画し、市町村と合同で事務を執行する方式が挙げられる。
② 受け皿としての都道府県の限界
一方で、受け皿としての都道府県の限界も認識する必要がある。
ⅰ.実務ノウハウの不足
都道府県へ事務を逆移譲、あるいは都道府県による補完を期待しようとしても、都道府県は現場から遠く、現場で住民に直結する事務事業を実施するためのノウハウや実働部隊・体制を十分に確保できないケースが多いと考えられる。
ⅱ.都道府県自体の人材不足
第3回専門小委員会における阿部知事の発言にもあるように、いまや都道府県自身も土木・建築・DXといった専門職を中心に職員の確保に苦心している。都道府県のリソースに余裕がない中での市町村事務の補完には自ずと限界がある。
ⅲ.市町村ごとに異なる事務処理への対応
市町村間で処理基準や手法が大きく異なれば、都道府県が広域的に事務を補完する際の大きな障害となる。これはDXの活用においても同様であり、今後は「事務処理の標準化」が議論の主課題として浮上してくる可能性が高い。
③ 都道府県の役割強化と「トップダウン型広域化」への懸念
第5回専門小委員会で示された「審議項目(案)」では、「市町村間の水平連携や都道府県の補完・支援などの広域連携等の取組を進めていくため」の「枠組み」づくりに向けた審議が提案されている。筆者は、この点が制度改正や具体的な施策にもっともつながりやすい論点であると考えている。
ⅰ.想定される制度改正の方向性(垂直補完の明文化)
まず、制度改正論として、具体的には地方自治法第2条5項の解釈・制度的位置づけを再整理する方向が考えられる。
同法2条5項が規定する都道府県による市町村の補完役割は、「事務の規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの」であり、市町村の規模や能力の格差に応じて都道府県がそれを補完することまでは条文上明示されていない。すなわち、「小規模町村だから県が肩代わりする」という垂直補完は、条文から直接的に導かれるものとは言い難い。そもそも「垂直補完」が小規模自治体をめぐる議論と結びついて政策概念として定着していったのは、いわゆる「西尾私案」以降のこととされる(7)。なお、2条4項は、規模や能力を備えた市町村への事務移譲を想定したものである(8)。
したがって、議論の出口として、同条第5項を中心に法改正し、市町村の規模や能力に応じた都道府県の補完役割を明文化する方向性が考えられる。ただしこれは、下記のとおり、個別の市町村や住民の意思を置き去りにしたまま、規模や事務の性格に応じて一律に広域化・補完を強制・誘導する仕組みへとつながるリスクも孕んでいる。
ⅱ.想定される政策展開(広域連携推進のトップダウン体制)
第5回専門小委員会の資料では、すでに消防や水道行政において都道府県を広域連携の推進役とすることが明確化されていることが紹介されている。これを展開(加速化)して、都道府県に広域連携の推進体制(プラットフォーム)を整備させ、推進要綱等の策定とそれに基づく広域連携の推進を求めるという方向性が想定される。併せて人材確保などの財政需要に対する財政措置を講じることも想定されよう。こうしてトップダウン的な広域連携への積極的な誘導体制が出来上がることとなる。これは「平成の大合併」において、都道府県が「市町村合併推進要綱」を策定し、合併の旗を振った(中には事実上の圧力をかけた事例も伝えられる)先例と重なる。
こうしたトップダウン型の広域連携の計画的な推進は、都道府県が市町村事務を地理的・分野的に分散・個別的に補完することは非効率的で、対応も困難であることから、地理的には面的な広がりをもって、分野的には一定のまとまりをもって事務を引き受ける方が、効率的かつ現実的であるという認識によって正当化されうるだろう。
ⅲ.懸念される問題点
しかし一方で、都道府県主導で計画的に広域連携が推進される場合には、個別市町村の意向が十分に考慮されないまま、誘導的あるいは半ば強制的に広域連携へ組み込まれるおそれがある。例えば、医療・介護・保健行政を一体的に展開してきた市町村において、介護分野の一部事務が広域連携の枠組みに移され、医療・介護・保健行政の一体的・総合的な実施が解体されるような事態も想定される。また、前述のように事務処理の標準化が推進されれば、個別自治体による特徴的な取り組みや地域独自の工夫が失われ、均質化されるおそれもある。
さらに、都道府県のいわゆる「地方課」(都道府県によって名称は異なるが)の影響力が強まり、同部局に配される国からの出向官僚ラインを媒介として、国・都道府県・市町村という「垂直的な統制」が再強化される懸念も否定できない。
2 大都市制度について
(1) 特別市創設に伴う道府県による補完機能への影響
国・都道府県・市町村の役割分担に関する議論が都道府県の補完機能強化を志向しているのに対し、特別市制度の導入は、財源や人材の一定数が道府県から特別市へと移転することを意味し、結果として道府県の補完能力の減退を招きかねない。
特別市と周辺都市の「水平連携」は可能であっても、特別市がもともと属していた道府県の全体(特に中山間地域などの脆弱な自治体)にまで目配りをしてサポートを行うことには、リアリティが乏しい(第5回専門小委員会における御手洗委員の発言はこの点を指摘したものと思われる)。
これに対し、特別市に広域的な事務への対応を義務付けるという提案(牧原委員ら)もあるが、その実効性担保を誰が行うか(誰がお目付役を担うのか)という制度的問題が残る。仮に国が履行を監視して半ば強制することになれば、地方分権とは逆行する形で、結局のところ国の統制が強まるという皮肉な帰結を招くおそれがある。
(2) 大都市における住民自治の歪み
特別市制度の導入は、住民自治のあり方にも大きな課題を提起する。特別市に移行した地域では、自治のレイヤー(階層)が1つ減少することになり、これが住民自治の希薄化を招かないかという懸念がある。
その一方で、現行の政令指定都市制度においては、都道府県は指定都市に対して限定的な権限しか有していないにもかかわらず、都道府県知事・議会選挙において指定都市の住民の意思が強く反映されるという、統治構造上のねじれも生じている(第5回専門小委員会における林委員の指摘を参照)。
特別市制度の設計においては、住民自治をめぐるこれらの問題にどう対応すべきかが厳しく問われている。
(3) 都道府県制度の枠組み自体に及ぼす影響
第5回専門小委員会では、特別市制度の導入を検討するにあたり、都道府県という制度枠組み自体のあり方も含めて議論すべきではないかとの意見が出された(原田委員)。事務局が示した「審議項目(案)」を読む限り、現在のところ総務省は地方制度調査会を通じて都道府県制度そのものに変革を加える意思はないとみられるので、少なくとも今次の地方制度調査会では踏み込んだ議論には至らない可能性が高い。しかし、第35次以降の地方制度調査会のテーマに影響を及ぼす可能性は否定できないだろう。
大都市制度の議論の延長線上には、道州制や参議院の合区問題(第5回専門小委員会にて原田委員・林委員・谷口副会長が言及)を含め、現行の都道府県制度の枠組みそのものの是非に関するテーマが控えていることを念頭に置く必要がある。
以上、地方制度調査会におけるこれまでの審議経過と論点を整理し、それらに基づく考察を試みた。今次地方制度調査会の審議はまだ緒についたばかりである。今後、持続可能な地方自治制度の構築に向けて議論がどのように展開していくのか、引き続きその動向を注視し、折に触れて経過を報告していきたい。
補:副首都法案における大都市法特例と特別市構想の制度的整合性
脱稿後の5月末に、自民党と日本維新の会が今国会での成立を目指す「副首都構想」に係る法案(国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案)が明らかとなった。
本法案には、附則として、大都市法(大都市地域における特別区の設置に関する法律)について、「特別区の設置と一体的に名称変更をする場合の特別区設置手続の特例」が設けられており、実質的に、大阪市を廃止して特別区に再編する「都構想」を念頭に、住民投票の対象を「大阪市民」から「大阪府民」に拡大しうる内容となっている。
この法案の性格とその帰趨は、地方制度調査会において審議が進められている「特別市」構想をめぐる議論にも影響を及ぼすものと想定されるため、ここで補足しておきたい。
なお、副首都法案は、大阪に限らず福岡など他の道府県も対象となりうるが、本稿では、大都市法特例の適用対象として想定されている大阪府・大阪市を具体例として記述する。
大都市制度の変更に伴う自治体の住民の意思確認の範囲をめぐっては、大きく分けて次の2つの考え方がある。
従来の大都市法は、大阪市の廃止により自治体への帰属において直接的に地位が変更される大阪市民を対象にしており、結果として(1)に近い考え方に立つ制度設計であったと考えられる。しかし今回の副首都法案では、副首都への指定とあわせて名称変更(府→都)を行う場合には、特例的に住民投票の対象を府全体に広げようとしている。
大阪市以外の府民にとって、副首都化や名称変更に伴う影響は受けるとしても、大阪市民のように自治体への帰属そのものが直接変更されるわけではない。したがって、本法案は、「(1)自治体への帰属に関わる地位変更の当事者」(大阪市民)に加えて、「(2)制度変更による行政・財政・制度上の影響が及ぶ者」(大阪市以外の大阪府民)にも対象を広げ、それらの意思を一括して確認する制度設計と解される(なお、この特例は副首都の指定前の指定を目指す段階においても準用できる仕組みとされている)。
一方、特別市構想をめぐっては、指定都市市長会は(1)の立場を主張する一方で、今次の地方制度調査会では、制度変更の影響が道府県全体に及ぶことを理由に全県的な住民投票を主張する意見も提起されている。例えば、安田充委員(元総務事務次官)は第4回専門小委員会において、特別市移行に伴って特別市以外の道府県民にも影響が及ぶのであるから、道府県全域を対象とする住民投票が必要ではないかと提起している。これは、制度変更の影響範囲を重視するという意味で、(2)の考え方に基づく意見と言える(9)。
副首都法案の本附則については、与党自民党内からも、憲法に定める地方自治の本旨との関係を懸念する異論が出ており(日本経済新聞2026年5月29日配信「副首都法案に自民党から異論 大阪都構想、府全域の住民投票を警戒」)、現行の法案のまま成立に至るかは不透明だが、仮に「(2)制度変更の影響範囲を対象とする考え方」に基づいて制度化されれば、同様に広域的な影響を伴う特別市構想をめぐる地方制度調査会の議論にも影響を及ぼすことになるだろう。少なくとも、住民意思確認の範囲について、大都市法と特別市制度との制度的整合性をどのように整理するのかという論点は、避けて通れなくなるものと思われる。