地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2024年4月コラム

人口減少社会と地方交付税

今回よりコラムの執筆を担当することになった。「自治総研」におけるコラムを遡れば、自治総研の諮問委員であった加藤一明先生(関西学院大学名誉教授)が、1992年7月号に執筆されたのが最初である(テーマは「連合とは何か」)。以来、学会を代表する研究者を中心に、毎回時宜にかなった優れた一文を綴ってきた。私も新たな執筆メンバーの一員として、微力ながら役割を果たしていきたい。

さて、今回は2024年度の地方交付税の話である。地方交付税は所得税、法人税、酒税、消費税、地方法人税の一定割合を「地方固有の財源」とみなし、法律にもとづく算定式を通じて各自治体に配分し、自治体間の税収格差の是正と標準的な行政水準に見合った一般財源を保障する。

各自治体が税でまかなうべき標準的経費の内容は、道府県分および市町村分の「基準財政需要額」で算定され、道路橋りょう費、小中学校費、社会福祉費など28項目(2023年度算定)を積算して総額を導く。具体的な算定式は項目ごとの経費単価である「単位費用」、各自治体の人口や面積などの「測定単位」、自然条件や社会条件などによる経費差を補正する「補正係数」を掛け合わせる。このうち測定単位は当該項目の必要額を算定するのに妥当な指標が用いられ、道府県分、市町村分ともに人口(国調人口)による算定が最も高い割合を占めている。これは人口と行政経費に正の相関性が見いだされるからであり、1954年の制度発足以来この考え方に則ってきたといえる。

2024年度は岸田内閣のこども・子育て対策の拡充を受けて、基準財政需要額の算定項目に18歳以下人口を測定単位とする「こども子育て費」が新設され、地方独自の子育て対策分として1,000億円を盛り込み、加えて既存の項目から子育て関連の経費を移行させることで、標準的行政として子育て需要を明確に位置付けた。なお、測定単位として18歳以下人口を採用するのは制度創設以来初めてである。

同項目の新設については、人口減少社会における子育て関連の積極的な財源保障として評価できるが、気になるのは測定単位である。2月27日に厚労省が発表した2023年の出生数は75.8万人、前年比マイナス5.1%と国の予想を上回って減少しており、若年層の人口減少に歯止めがかかる兆しは見られない。こうした状況を踏まえると18歳以下人口を測定単位とする同項目は、若年層が集中する都市部に短期的には優位となり、中長期的にはあまり将来性のある項目ではないように思われる。

ただし、総務省は18歳以下人口の割合が小さい団体に対して、補正を行うことで条件不利地域の子育て政策経費にも配慮する予定であり、そもそも同項目に地方単独分として1,000億円が盛り込まれたことと合わせ見ると、若年層人口の急減ゆえに必要な政策経費を地方交付税の算定に積極的に反映させたとみることもできる。

近年、人口減少や少子高齢化にともない、地域公共交通の撤退、空き家や耕作放棄地の増加などが深刻化するなかで、持続可能な地域づくりにおける自治体の役割は高まっており、地方交付税が描く標準的行政の姿も変化が求められる。いみじくも当コラムに執筆されている澤井勝先生は、2013年9月号で「地方財政は人口減少時代に対応し、増大する財政需要をきちんとカバーできる制度として、再構築することが求められている」と書かれている。今回のこども子育て費の創設が、制度発足以来の人口に比例的な算定にとどまらず、人口減少社会における財政需要を広くとらえる算定へと発展する節目となることを期待したい。

飛田 博史公益財団法人地方自治総合研究所副所長