地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2002年9月自治動向


国・地方の借金(国債・地方債発行)によるクラウディングアウト?
 9月20日、日銀総裁は記者会見において、10年利付国債の応募額が入札額に満たないいわゆる「未達」が発生したことを明らかにし、これを受けて、債券市場では一時な暴落が発生し、前日比0.13%高の1.31%までに利回りが上昇(価格は下落)した。これには18日に日銀が発表した銀行株の買い入れの政策方針が、債券市場におけるネガティブな材料となっていたという伏線があった。その後、利回りは再びほぼ1%まで戻り、安定して推移している。
 金融当局は「未達」について、銀行の中間決算を前にしたあくまで一時的なものであり、依然として国債購入の意欲は強いとの見方を崩しておらず、実際に市場動向も安定していることから、心配無用というところであろう。しかし、米債券格付け会社S&Pはこうした状況を踏まえて、日本の長期国債の格付けを先進国7カ国では最低の「AAマイナス」に据え置くことを発表しており、一時的なことでは必ずしも済まされない。発行した国債が売れ残るという事実は注目すべきである。
 平成14年度の国債等の発行予定額は、新規発行に加え借換債、財政融資特会債を含め総額約133.9兆円にのぼり、このうち市中発行分は104.7兆円である。
 国債は財政法5条に基づき市中消化を原則としており、その発行方式は①金融機関や証券会社等による国債募集引受団(シンジケート団)が募集を引き受け、売れ残った場合にそれらを共同して引き受けるいわゆる「シ団方式」②発行条件などを入札参加者(シ団メンバー)による入札を通じて決める「公募方式」などがあり、基本的には各種国債ごとにこれらの方式が単独で、あるいは組み合わされて採用されている。今回問題となった10年利付き国債は、①と②の混合タイプで引受額の75%が公募入札方式(価格競争入札方式)で行われており、売れ残りはこの部分で生じた。この10年国債の利回りは、企業向けの貸し付け金利の基礎となる長期プライムレートの目安となっており、利回りの変動は企業の投資を大きく左右する。
 バブル崩壊以降、国、地方は景気対策や税収不足を補うために大量の国債、地方債を発行し続け、平成14年度予算ベース(普通会計)で国、地方あわせて約550兆円(国414兆円、地方136兆円)にのぼり、これらは民間部門を中心に消化されてきた。民間部門による消化を可能にした要因として、不良債権による財務の悪化とBIS規制、株価が低迷などをなかで、金融機関等が資金運用のウェイトを有価証券、特に国債、地方債などに切り替えていることがうかがわれる。*資料1参照
 資料2、3は全国銀行の資金運用状況の推移であるが、特に平成9年度頃から、景気悪化や金融不安が深刻化するなかで、有価証券への投資が増加する傾向があり、しかも有価証券のうち、リスクの高い株式よりも安定的な国債、地方債へと保有構成比をシフトさせていることがわかる。バブル崩壊以降、さまざまな金融緩和政策により、金融機関へ供給された潤沢な資金は、企業向け貸付よりもむしろ国債、地方債への投資に向いていると推察される。公定歩合が0.1%と限界に近い金融緩和をしているにも関わらず、依然として消極的な貸し出し態度が続いている原因の一つと考えられる。
 現状では、国債、地方債の増発と金融市場の動向は、景気低迷と株価下落のなかで、微妙なバランスを保っている。しかし、今回のような国債発行で生じた需給のアンバランスのは、国や地方の財政運営において、起債により資金調達ができるという前提が必ずしも保証されたものではないということを警告している。しかも、起債にともなう債券市場の変動が、長期金利の動向を通じて実体経済に影響を与える可能性をも示唆している。
 以後12月に至るまで幸いにも未達は生じていないが、今後、債券市場が飽和状態となり国債や地方債の供給過剰が生じないとも限らない。こうした微妙なバランスが崩れた場合には、市場価格の暴落と長期金利の急上昇をもたらし、企業の新規投資に一層のダメージを与える可能性も考えられる。もちろん、金融当局による買いオペなどを通じた市場の安定化が図られ、その影響は少ないかもしれない。また、今年度から政府が意欲的に推進しているの個人向け国債も、市場の安定化には幾分なりとも寄与するであろう。
 いずれにしても、今回の出来事は、起債が金融市場を通じて実体経済と不可分であることを、改めて認識させるものである。
文責 : 飛田博史