立ち返る原点
10月27日の衆議院選挙で与党が過半数割れとなり、いささか書きにくくなってしまった。石破内閣の地方創生のことである。石破氏は同月1日の記者会見で「もう一度原点に返って地方創生をリニューアル」するとして、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置して10年間の基本構想を策定し「地方創生2.0」を強力に推進すると述べた。また、4日の所信表明では地方創生の交付金(以下「地方創生関連交付金」と呼ぶ)の倍増を表明した。
石破氏のいう「原点」というのは何だろうか。衆議院選挙の政権公約や地方創生担当大臣であった当時の言説などから推察すると、地方創生を日本経済の成長戦略の柱として改めて位置づけ、交付金により「地方における可能性を最大限引き出し」、経済成長の起爆剤とする政策指向である。地方重視という視点では異論はない。ただし、その推進力となる地方創生関連交付金の目指す方向やこれまでの運用を見る限り起爆剤となるのか疑問である。
地方創生関連交付金は、石破氏が地方創生担当大臣に就任した2014年度の補正予算で創設された「地方創生先行型交付金」に始まり、段階的に改称しつつ現在では「デジタル田園都市国家構想交付金」へと展開している。基本的な交付の枠組みは、国が策定する地方創生総合戦略(5年間)を踏まえて、自治体が策定した地方版総合戦略にもとづく地域再生計画を内閣府に提出し、内閣府が審査して交付決定する流れである。当時石破氏は同交付金について「自由度の高い交付金」であり、地方自治体が自ら政策を考えてKPI(達成度目標)を設定しPDCAサイクルで事業を管理することも求めるもので「バラマキではない」と述べていた。
しかし、同交付金は成長の起爆剤どころか地方を疲弊させてしまう懸念がある。その最大の要因は、国が交付要件とする事業計画の要求内容が詳細かつ高水準で、実質的に地方の創意工夫を制約していることである。
直近となる「デジタル田園都市国家構想交付金」では「デジタル実装タイプ」「地方創生推進タイプ」など4つの事業タイプに細分化され、基本となる地方創生推進タイプはさらに「先駆型」、「横展開型」、デジタル社会対応の「Society5.0型」に分かれ、3から5年間の事業を対象としている。また、それぞれの評価基準として事業の自立性、KPI設定の適切性、デジタル社会の形成への寄与など7項目を5段階で評価する仕組みとなっている。つまり、他の自治体にはない先進的あるいは全国に伝播させられる事業で、5年以内に成果が表れる事業が求められている。こうした条件を満たす事業を自治体が短期間に立ち上げるのは相当な負担であり、ましてや担当職員が少ない条件不利地域ではなおさら困難であろう。そうしたことを見越してだろうか、国はホームページにガイドラインや先進事例集を公開している。そうなると自治体はとりあえず交付金を得るためにこうしたマニュアルに頼って無難な計画を策定せざるを得なくなり、とても地方の可能性を引き出す仕組みとはなっていない。今年6月に内閣官房が自治体に対して行った地方創生10年目の意識調査では、地域の課題を把握する取組が増えたなど、多くの自治体で問題意識が向上したと回答しているが、一方で肝心の産業の活性化や雇用の増加などについては町村の5割以上で効果に否定的な回答となった。同交付金の限界である。
注意したいのは、ここまで細かい注文をつけながら、国はあくまで自治体の自主的・主体的な取組であることを建前とするので、地方創生推進の結果責任は自治体に帰せられる。極めて筋の悪い交付金である。むしろ、国はこうした類いの補助金をやめて、既存の義務教育や福祉などの国庫負担率の引き上げに財源を向けた方が、自治体にとっては補助金の裏負担から解放された「自由な」財源でじっくりと地方創生に取り組めるのではないだろうか。
そもそも今日にいたる「交付金」の原点は、三位一体改革(2004~06年度)の補助金改革にあり、補助金を通じた国の関与を薄め地方財政の自治を尊重することが目的の一つであった。いかなる政権になろうとも立ち返る原点は地方創生ではなく、地方自治・分権である。