地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2025年7月気になる地方自治トピックス

公共交通の人手不足

〇利用者減少 ― 公共交通の従来からの課題

公共交通の課題は、地域が過疎化することなどにより利用者が減少し、利用者の減少が事業者の収益を圧迫、それが路線の縮小や減便を通じて利便性が低下し、さらなる利用者の減少を呼ぶというスパイラルに陥ることだと考えてきた。コロナ禍で大きな打撃を受けた公共交通であったが、これは、大都市部であっても利用者がいなければ当然収益も上がらず、また、外出が控えられた中で従前の運行スケジュールを維持すること自体が非現実的であることからの減便が主であった。

コロナ禍が明け、テレワークの普及などにより大都市部の通勤定期旅客が従前に戻らないなどの新たな課題は見受けられたが、外国人観光客の流入により利用者の減少が補われる都市・地域においては混雑の問題は起きても路線の存廃をめぐる問題は少し先の課題ではないかと認識していたのである。もちろん、この時期に毎年のように報じられる人口減少のニュースにより、いずれ大都市部においても現状と同様の公共交通の維持が困難になるであろうことは容易に想像できる。

〇「2024年問題」のインパクト

ところが、建設業、医師、自動車運転などに対しては遅れて適用されることとなった時間外労働の上限規制(この適用が2024年4月からであったことから「2024年問題」と呼ばれる)によって都市・地域の大小、事業者規模の大小を問わず路線バスの廃止・減便が相次ぐ事態となった。ある事業者によると、この問題はコロナ禍とは比べ物にならないほどのインパクトであるという。

長時間労働の是正によるワーク・ライフ・バランスの改善などを目指した時間外労働の上限規制が人手不足を助長してしまうというのは皮肉な結果であるが、時間外労働が前提となってシフトが組まれ、時間外手当が前提となって生計が維持されてきたとすれば事業者は人手不足、労働者は所得減少につながる「改革」となってしまったようだ。

〇自動運転とライドシェア

前者が実現すれば「人手」の問題はある程度解決するかもしれない。技術的にはかなりの水準にあるとも聞くが、社会への「実装」を待っていられるほど悠長な課題でもなさそうだ。職業ドライバーに対する「カスハラ」も多いことから実現への期待も大きいと思われるが、精緻に運行されているがゆえに交通におけるミスやトラブルに不寛容な国民性が醸成されてしまっているこの国においては自動運転に求められるレベルも高そうだ。

後者は、いつの間にか「日本型」と「公共」に区分されいずれも導入が促進されている。そもそも、免許や料金体系が明確でむしろ車両の不足も天候や鉄道のトラブル等以外では生じていないように見える日本で、しかも、タクシーアプリの普及によってライドシェアに求められることの大半が実現できるようになったと思われる現状で「日本型」をこれ以上推進する明確な理由は見当たらないのではないか。そのタクシーアプリについて、公正取引委員会が実態調査を実施している(詳細は公取委ウェブサイトを参照)。「公共」をめぐっては、別府市で市長自らライドシェアドライバーとなり職員もドライバーとして登録しているという。迎車料金1,000円のうちドライバーの取り分も気になるが、市職員がドライバーとなる場合、公務員の兼業や報酬の関係をどのように整理しているのかも興味深い。

〇多少現実的な解決策?

担い手不足への対応が喫緊の課題となっている自動車運送業分野(バス、タクシー及びトラック運転手)について、特定技能制度の対象分野への追加を閣議決定したのは、2024年3月29日のことであった(https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001761559.pdf)。不覚にもこのニュースについては見逃してしまっていたが、この間、受け入れ態勢を整える動きは着々と進み、その動きの中には日本の自動車教習所が海外に展開して学科と実技の教習プログラムを提供するというものも含まれていた。

バス、タクシー、トラックいずれにおいても人手不足は深刻である。免許取得や接遇、車両の操作などの難しさを考えると、人材が育成されるとしても路線バスよりも貸切バス、バスよりもタクシー、タクシーよりもトラックとなりそうだ。しかし、安易な「外免切替」が問題視される中で来日前から教習を施す取組は、利用者の安心にもつながるし、免許取得人口も減少する中で厳しい経営を余儀なくされる教習所にとってもメリットがありそうだ。さらに解決すべきは、この円安にあって教習や日本語の修得をクリアしてまで日本での運転業務に従事しようと思わせるだけの待遇を外国人材に用意できるかであろう。そもそも全産業平均より労働時間が長く所得が低いのがこの業界なのである。

【主な記事】

・路線バス業界で深刻化する運転士不足 外国人の雇用目指し行政などが「検討会」立ち上げ ― “言葉の壁”や緊急時の対応などハードルも、福井 [福井テレビ2025/5/12]

・中山間地域、バス廃止で乗合タクシー拡大へ ― 運転士不足理由に、市が説明 [タウンニュースさがみはら緑区版2025/5/8]

・(社説)路線バス縮小 ― 官民で“地域の足”守れ[神奈川新聞 2025/5/2]

・留学生、バス運転手に ― 人手不足解消へ育成モデル事業 [読売新聞2025/4/7]

・外国人バス運転手誕生へ ― 両備Gに「特定技能」合格第1号 [朝日新聞(岡山全県)2025/3/1]

・カンボジアで運転手育成 ― 教習所ミナミHD、人材不足の運送に紹介 [日本経済新聞(地方経済面・九州)2025/5/9]

・足りぬ「ぽっぽや」止まるローカル線 ― 鉄道員の1割不足、バスと「二刀流」で採用 [日本経済新聞2025/4/7]

広がりを見せる宿泊税

〇嚆矢は東京都

東京都の宿泊税は2002年10月、法定外目的税として導入された。周知のとおり、法定外目的税は2000年4月施行の地方分権一括法を受けて新設され、最初の導入例は山梨県の河口湖町、勝山村、足和田村(現・富士河口湖町)で導入された遊漁税である。東京都の宿泊税は、宿泊料金が1人1泊1万円以上1万5,000円未満の場合は100円、1万5,000円以上の場合は200円が徴収され、その税収は、「国際都市東京の魅力を高めるとともに、観光の振興を図る施策に要する費用」(東京都ウェブサイト)に充てられる。

税条例案が都議会に提示される頃には片山善博鳥取県知事が「東京に来て欲しくないというメッセージ」などと批判したのに対して石原慎太郎東京都知事が「恥をかくのはてめえの方だ」などと応戦する一幕もあったが、当時は1万円未満で宿泊できるホテルも多く税収も当初の見積もりを下回るなど導入後は大きな注目を浴びることもなくなっていた(肩書は当時、引用は『朝日新聞』2001年11月3日)。

〇宿泊税ブームの様相

宿泊税は東京都が最初に導入した頃には「ホテル税」と呼ばれることの方が多かったが、2番目に導入したのは大阪府であった。大阪府の宿泊税は、1人1泊7,000円以上のホテル等(民泊を含むことが明示されているあたりが目新しさであろう)に対し7,000円から1万5,000円までは100円、それ以上2万円未満は200円、2万円以上は300円を徴収するものである(2025年9月からは7,000円から1万5,000円が200円、1万5,000円から2万円が400円、2万円以上が500円と改定される)。

その後、条例の施行日順に京都市(2018年10月)、金沢市(2019年4月)、倶知安町(2019年11月)、福岡県(2020年4月)、福岡市(2020年4月)、北九州市(2020年4月)、長崎市(2023年4月)、ニセコ町(2024年11月)、常滑市(2025年1月)、熱海市(2025年4月)においてすでに徴収または条例施行がなされており、条例制定済で総務大臣同意済であるが未執行の事例として高山市、下呂市、赤井川村、松江市、宮城県、仙台市、札幌市、小樽市、釧路市、北見市、網走市、広島県がある(2025年4月21日現在、総務省ウェブサイトより)。条例策定中のものなどを含めるとさらに事例は増えると思われ、コロナ禍にかけて検討されてきた宿泊税が一気に実現へと動き出したようにも見受けられる。

〇多様化した宿泊税

法定外税等が多くの自治体で導入されるようになると、それぞれの課税方式に特色が見受けられるようになってくる。いわゆる「産業廃棄物税」がそうであるし、超過課税ではあるが府県単位で導入されさまざまな名称をもつ「森林環境税」もそうである。新たに導入された宿泊税を眺めてみると、東京都や大阪府で設定されていた「免税点」が設定されているものといないものが見受けられるようになったほか、宿泊料金に応じて何段階かに分けて課税するものが多いが、それに関わらず定額とするものや定率とするものもあらわれるなどバリエーションが豊富になっている。

宿泊料金という全く同じ課税標準を採用しつつ都道府県も市町村も宿泊税を採用する動きも出てきた。この意味で先行事例となった福岡県では宿泊税導入市(北九州市・福岡市)においては50円、これ以外においては200円のそれぞれ定額とした。北九州市の宿泊税は150円の定額、福岡市の宿泊税は宿泊料金2万円未満の場合は150円、同2万円以上の場合は450円である。この結果、福岡県で宿泊する人は福岡市の宿泊料金2万円以上の人(500円負担)を除けば200円を負担するという制度設計となっている。

〇普通税思考へ?

このほか、宿泊税の制度設計においては修学旅行を免税とするか否か等の差異もあるようだ。倶知安町が定率制の宿泊税を採用している北海道では道の宿泊税を制度設計する際に倶知安町との継続的な協議を要したという(2024年12月に合意)。このように、都道府県・市町村の双方が宿泊税を導入する場合の制度設計が今後の課題になりそうだ。

いずれの宿泊税にも残る共通点は「法定外目的税」であることだ。青木宗明神奈川大学教授は「宿泊税を応益課税で根拠づけて観光目的税とするのは間違いである」と断じ、正しい課税根拠を「原因者課税」であるとする。青木教授は入域を課税根拠とする環境協力税等が法定外目的税であるのに対し、法定外普通税であるところの入域課税「宮島訪問税」導入を支えてきた。浦安市で検討されている宿泊税(検討委員会委員長は大塚成男熊本学園大学教授)は浦安市への来訪者により浦安市の実質的な人口を増加させ、その財政負担は観光行政にとどまらず一般的な行政サービスにも及ぶことから「普通税としての性格が強く想定されている」という。

このように普通税としての宿泊税は、本来であれば当該地域の住民を対象外とした上で、日帰りも含む「来訪者」に課税したいところであるが、それが難しいことから「宿泊者」を納税義務者として制度設計したのであろうと思われる。この発想が宿泊税の制度設計に大きな影響を与えることは確かだ。

【主な記事】

・(観光立国の課題㊦)宿泊税、正しい根拠で導入を(青木宗明・神奈川大学教授) [日本経済新聞2025/4/30]

・(先読み・Views)宿泊税の引き上げ・新設 ― 「観光地経営」に生かせ(石鍋仁美・編集委員) [日本経済新聞2025/3/9]

・宿泊税を26年4月に導入 ― 神奈川県湯河原町 [官庁速報2025/3/17]

・島での宿泊税導入を検討 ― 香川県土庄町、小豆島町 [官庁速報2025/3/28]

・(自治)浦安市における宿泊税の導入(大塚成男・熊本学園大学教授) [自治日報2025/5/26]

其田 茂樹 地方自治総合研究所研究員)