2025年10月気になる地方自治トピックス
利子割の偏在是正
●利子割の偏在状況
都道府県の個人住民税の一つに銀行の普通預金の利子に課税する「利子割」がある。利子割は1987年度の税制改正で創設されたもので、従来、預金利子が所得税の確定申告から除外されていたため、新たに金融機関等を特別徴収者とする一律5%の源泉分離課税を行うこととなった。
同税は徴収する金融機関の営業所等が所在する都道府県に納められる。これは個人住民税の納税者の住所がおおむね金融機関等の住所地と一致することから、税収の帰属地と同一であるとみなして運用されてきたものである。
ところが近年、利子割が人口割合に比べ東京都に極端に集中する傾向が目立ってきている。従来、利子割の東京都のシェアは20%程度で推移してきたが、直近の2024年度のデータでは、総額392億円のうち40%へと急上昇しており、預金者の居住地比率と著しく乖離する状況が生じている。
その原因の一つがいわゆるインターネット銀行(以下「ネット銀行」と呼ぶ)の進出である。金融自由化のなかで交通通信関係の大手企業などが続々とネット銀行を創設しており、有利な金利やポイントの付与などを通じて急速に預金者のシェアを拡大させている。これらの銀行は営業所等を持たないところが多いため、本店所在地のある東京都などに利子割が納税され、近年の預金金利の上昇とあいまって偏在度が急上昇している。
●住所地課税との齟齬
個人住民税は、住民が居住する地方自治体のさまざまな行政サービスを受けていることから、地域社会の費用をいわば会費的に負担する考え方に基づき、住所地課税を原則としている。したがって、利子割も住所地に寄せて最寄りの金融機関等としてきたわけだが、ネット銀行の拡大によりこの原則と実態との間に齟齬が生じている。
●総務省研究会の中間報告 ― 都道府県間清算制度
総務省では「地方税制のあり方に関する検討会」を立ち上げ、利子割問題を含む地方税制の課題について、今年2月から審議を重ね7月に中間報告書を提出した。そのなかで利子割納税については、金融機関等の住所地に代わり、利子との相関性が高い所得に関する課税データにもとづき、都道府県間で税収を調整する「清算制度」を設ける案を示した。ちなみに地方消費税も納税地から最終消費地に帰属させるために同様の清算制度をとっているが、これと類似の方式である。今後、年末の税制改正大綱を通じた制度化をめざす。
●地方税が直面する課題
私たちの生活におけるソーシャルネットワークの普及は人や組織の関係をデジタル上で結びつけ、相互の関係性を発展させる点で優れているが、地方税にとっては存在や関係性が仮想化されることで、行政サービスを受けることと納税することの乖離がますます生じ、住所地課税という原則自体が時代の遺物になりかねない。
最近導入が進んでいる自治体独自の宿泊税についても、インバウンドの増加にともなう財源対策という点では類似の例といえる。
今後、ソーシャルネットワークやグローバルな人の動きのなかで、納税者と各自治体における財政需要に応じた税収をどのように結びつけていくかが、地方税制における重要な課題となるだろう。それは同時に納税をめぐる自治体間の緊張を高めることになるかもしれず、課題解決はそう容易なことではない。
【主な参考記事・資料】
2025年度普通交付税大綱 ― 地方交付税の算定結果はどうなったのか
●普通交付税大綱の概要
毎年度の地方交付税総額は概ね2月頃に閣議決定される地方財政計画において決定され、その94%に相当する普通交付税の各自治体への交付額は7月頃に客観的な算定式にもとづき確定する。その算定結果をとりまとめ閣議報告したものが普通交付税大綱である。
●2025年度の算定結果 ― 臨時財政対策債発行ゼロ
普通交付税の総額は17兆8,198億円(前年度比1.6%増)と7年連続で前年度を上回った。算定の基礎となる基準財政需要額は、交付団体ベースで道府県分が22兆7,851億円(2.8%)、市町村分が24兆7,223億円(3.1%)と昨年を上回る伸びとなった。これは昨年度の給与改定および今年度の給与改定見込み分、施設管理委託料や光熱費等の物価高対策などが算定されたことが寄与している。今年度は地方交付税を一部地方債に振り替える「臨時財政対策債」(以下「臨財債」と呼ぶ)の発行が2001年度の制度導入以降初めてゼロとなった。そのため、通常、各自治体では基準財政需要額から臨財債発行可能額を控除する計算を行うが、今年度はこれがなくなり算定結果がそのまま普通交付税額に反映された。このほかの算定では高等学校運営経費について学科ごとの経費差を補正する算定が新設されたことも注目される。
一方、基準財政収入額は、交付団体ベースで道府県分が13兆5,009億円(4.6%)、市町村分が16兆1,618億円(3.2%)とこちらも昨年度の伸び率を大きく上回っている。主な増加要因は道府県分では個人住民税(所得割)、法人事業税、特別法人事業譲与税、市町村分では個人住民税(所得割)、固定資産税があげられる。いずれも近年の賃上げ動向、地価を含む物価上昇、企業業績の堅調な拡大などを見込んだ結果である。
●不交付団体は微増 ― 熊本県菊陽町、初の不交付団体
基準財政収入額が基準財政需要額を上回った不交付団体は、前年度から2団体増加し85団体となった。都道府県では例年通り東京都のみであり、市町村では前年度の交付団体から不交付団体に移行したのが10団体、不交付団体から交付団体へ移行したのが8団体で実質2団体の増加となった。これらの自治体はもともと基準財政需要額と基準財政収入額が拮抗しており、算定結果の微妙なバランスが不交付、交付団体のボーダーを左右している。
不交付団体のうち注目されるのは熊本県菊陽町である。同町では誘致した台湾の半導体メーカーTSMCの熊本第一工場が昨年から本格稼働し、これに合わせて周辺の宅地開発が進展したことから固定資産税を中心に大幅な税収増となり、基準財政収入額が大幅に伸びた結果不交付団体となった。ただし、これまで交付団体であった菊陽町にとっては、不交付団体に移行することで税収の動向が直接一般財源に影響するため、より先を見た行財政運営が求められることになる。
●普通交付税は増額したけれど…
今年度の普通交付税の増額は、地方税の増額傾向とあわせて自治体の一般財源総額にプラスに働いたとみられるが、給与改定や物価高騰にともなう一般財源所要額としては十分であるかどうか慎重に評価する必要がある。
昨年、財政危機を表明した北海道北見市では財政悪化の要因の一つに物価高騰によるインフラ整備や公共施設の維持管理費の負担があげられている。また、静岡県でも昨年秋の段階で人件費の増加や施設整備費の高騰などによる財政悪化を表明し、今年度も財政の危機感を強めている。
財源保障の大枠となる地方財政計画では、長年にわたり一般財源総額を中期的に安定させる「一般財源総額実質同水準ルール」にもとづき地方交付税の総額を確保してきた。しかし、近年の行政コストの上昇は顕著であり、一般財源総額の確保がこれに追いつかない状況となっている可能性がある。いずれにしても行政コストの顕著な上昇傾向を踏まえれば「一般財源総額増額確保」の方針で財源保障を考えていく必要があるだろう。
●トランプ関税の影響は?
現地時間9月4日にトランプ大統領が日米の貿易合意に関する大統領令に署名した。これにより、日本からアメリカへ輸出する自動車・部品関税については27.5%から15%へ引き下げられ、16日に発効された。また、その他の品目にかかる相互関税は、既存税率が15%以上のものを除き一律15%となり、こちらは8月7日に遡って適用された。関税以外のアメリカへの対応として、農産物についてはアメリカ産米の輸入拡大、その他農産物の日本円で1.2兆円の購入などが実施される。
気になるのは日本経済への影響である。大統領署名の報道を受けて日経平均は続伸しており、市場では好感をもって受け止められている。また、国内のシンクタンクの予測では経済成長率に抑制的な影響はあるものの、人手不足への対応、DX・GX投資の拡大、インバウンド需要などの底堅い内需に支えられて、景気後退まで至らないという見方が散見される。
ただし、年末までに国税や地方税の法人税収が当初見込みを下回れば、補正予算において地方交付税原資の下振れが生じる可能性もあり、今後の税収見通しを注視していく必要がある。