2026年9月 気になる地方自治トピックス
成立した副首都法と大阪都構想のゆくえ
1 副首都法の成立
自民党と日本維新の会(以下「維新」という)共同提出の議員立法「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律」、いわゆる副首都法が7月24日、参議院本会議において自民、維新、チームみらいなどの賛成によりわずか2票差で成立した。
法案は6月30日に衆議院特別委員会で審議入りしたものの、野党側は会期内での法案成立を目指す政府側の強硬姿勢に反発して、前日の定数削減法案審議に続き、本委員会も欠席し、審議は一時中断していた。その後、政府・与党が野党の求める党首討論、予算委員会での総理出席の集中審議の開催、国民民主党が提出した特別市設置法案の審議などを受け入れたため、7月10日から審議が再開した。14日には法案に反対していたチームみらいが「情報技術等の活用」を盛り込む法案修正で与党と合意し、翌15日に衆議院本会議において賛成多数で可決した。
参議院での審議に移ると、与党は副首都法案をはじめとする一連の法案を成立させるべく会期延長を決定し、17日の衆議院本会議において25日までの会期延長が議決された。参議院特別委員会では、与野党間で23日に総務委員会での連合審査と参考人質疑を行うことで合意し、22日から審議が開始された。24日には野党側が要求した特別区設置に係る住民投票と地方議会選挙が重複しないよう「最大限調整する」などの付帯決議を盛り込むことで与野党が合意し、法案は24日午後から夜にかけて同特別委員会および参議院本会議で可決・成立した。
2 副首都法の概要
(1) 大規模災害に備えた2つの受け皿?副首都法では大規模災害に備えた首都中枢機能代替地域と副首都の2つの受け皿が用意されている。
首都中枢機能代替地域は「大規模災害が発生し、東京圏において首都中枢機能を維持することが困難となった場合に、必要に応じて、一定期間、首都中枢機能の一部を代替する機能を担う地域(東京圏との同時被災の可能性が低いものとして政令で定める要件に該当する地域に限り、副首都の区域を除く)(*下線は筆者加筆、以下同じ)」と規定されている。
一方、副首都は「大規模災害が発生し、東京圏において首都中枢機能を維持することが困難となった場合に、必要に応じて、一定期間、首都中枢機能の全部又は大部分を代替する機能を担うとともに、多極分散型経済圏の形成の中核となる機能をも担う道府県として、第十八条第一項の規定により指定された道府県」と規定されている。
このうち「首都中枢機能」とは東京圏における国家社会機能、具体的には「政治、行政、司法及び経済に関する機能及び社会の重要な機能」の中枢的なものである。東京圏の機能を代替する担い手として、これら2つの地域・区域が規定されているが、両者が個別に存在しうるものなのか、それとも副首都を中核、首都中枢機能代替地域を外縁とする同心円として想定するのかは条文からは読み取れない。こうしたわかりにくい構造になっているのは、副首都構想をめぐる自維の実務者協議が3月に示した法案の骨子案において、自民が主張する首都中枢機能代替地域と維新が主張する副首都構想を一体的に盛り込んだためと推察される。いずれにしても副首都については東京圏に匹敵する経済圏の中核としても位置づけられていることに注目する必要がある。
(2) 副首都の指定
副首都の指定は政令で定める首都中枢機能代替地域の要件と副首都自体の要件を満たす道府県について、当該道府県の議会の議決を経て、道府県の申出を受けて内閣総理大臣が指定する。
副首都の要件として①国の出先機関の立地状況(一定の国の出先機関の存在)②経済や人口の集積状況(骨子案の例:県内GDPや人口の規模など)③適切な地方行政体制(骨子案の例:政令市と県の連携協約や特別区の設置など)が示されており、特に②については規模の設定によって対象となる道府県が限定される可能性がある。
(3) 基本方針や基本的施策
国は法施行後1年以内に各施策の総合的かつ計画的な推進を図る基本方針を策定しなければならないとしている。同方針では首都中枢機能代替地域の担うべき機能、そのために必要な機能整備や分散的配置および体制整備、副首都の担うべき機能、そのための区域に係る都市基盤の整備および必要な体制整備、経済基盤の強化などに関する事項を定めるものとしている。
また、基本方針を踏まえた基本的施策では首都中枢機能代替地域の機能を十分発揮するために、民間事業者等の移転等に関連する投資の税制上の措置やその他の必要な施策を講じる。
副首都については、上記の機能に対する施策のほか、国の機関等の拠点整備、交通施設整備、都市機能増進に寄与するまちづくりの推進、規制緩和、民間の資金、経営能力及び技術的能力の積極的な活用などを講ずるものとしている。さらに副首都ごとに総合的かつ計画的な整備に関する「副首都整備方針」を策定し、区域内の整備目標、産業競争力の強化、交通網の整備やその他都市基盤の整備、国の機関等の拠点整備、副首都圏域内のその他の地方公共団体との連携などの事項について定めることとしている。
両者の施策を比較すると、副首都に指定された場合には多岐にわたる大規模開発投資や税財政上の優遇などが講じられる。
(4) 国の体制
以上の施策を推進するために内閣に内閣総理大臣を本部長とする「国家社会機能継続性確保施策・副首都整備推進本部」が設置される。同本部では基本方針や副首都整備方針などの策定、これに加えて各種施策の総合調整などが行われる。
(5) 税財政上の対応
副首都法では各施策の実施に必要な法制上、財政上、税制上の措置、その他の措置を講じなければならないとされており、先ほど触れたような民間事業者等の投資を促す税制上の措置、規制緩和などが具体的な措置としてあげられているが、国の施策全体における財政上の役割などについては不明である。
もし、本格的に首都中枢機能代替地域と副首都を複数地域で展開するとなれば、莫大な公共投資をともなうことが予想される。
(6) 附則 ― 大都市地域特別区設置法改正の違和感
このほか、注目されるのは附則において、既存の大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下「大都市地域特別区設置法」という)の一部改正が盛り込まれたことである。大阪維新の会の「大阪都構想」の議論をきっかけに2012年8月に成立した「大都市地域特別区設置法」は、政令市と周辺市町村の人口が200万人以上の地域について一定の手続きを経て既存の市町村を廃止して、特別区を設置することができ、特別区を包括する道府県は「都」とみなす制度である。法の附則11条では特別区を包括する道府県で副首都の指定を受けた「特別区包括副首都」については、副首都が同議会の議決を経て申請した場合に「都」の名称変更ができることとされた。一見、特別区の設置が副首都の要件のようにみえるが、無関係であり、むしろ副首都の指定により都の名称変更が容易になる。ただし、修正前の条文では大阪都構想と副首都の一体的実施と受け止められかねない内容が盛り込まれており、政局がらみの附則といえる。
3 副首都法案提出の経緯 ― 大阪都構想と連動した我田引水の顛末
法案提出にいたるまでには大阪都構想ありきの経緯があったことに触れておこう。昨年10月の第一次高市内閣発足とともに、自維連立合意書に盛り込まれた「副首都構想」の実務者協議が11月から開始された。維新が事前にまとめた法案の骨子素案では副首都の要件を「大都市地域特別区設置法」における特別区と明記しており、明らかに大阪都構想の実現と連動させる狙いがあった。これについて自民党側から大阪都構想ありきであるという批判があり、あくまで都構想とは切り離した協議を進める方向が示された。
その結果、今年3月に両党で合意にいたった骨子案では、副首都の要件として特別区の設置を前提としないことで合意にいたった。
この骨子にもとづき、5月29日には両党で法案審査が開始されたが、法案の附則で一定の条件で特別区設置の住民投票を道府県住民全体で行える規定が盛り込まれた。これは維新からすれば、大阪市民を対象とした過去2回の住民投票で実現しなかった大阪市廃止と特別区設置を、直接的な利害関係が薄い大阪府民の投票に付すことで実現可能性を高める内容であり、明らかに大阪都構想のための条文であった。
しかし、法案が明らかになると、憲法学者や弁護士団体などが違憲のコメントや意見書を提出し、自民党内でも同様の声が上がるようになり、結局、6月22日に高市首相が維新の吉村代表に附則の該当箇所の削除を求め、これを維新側が了承したことにより、24日に修正された副首都法案が衆議院に提出された。
ただし、特別区を設ける道府県の都への名称変更の手続きは残り、先述の「特別区包括副首都」の申請による変更が可能となった。
4 副首都構想のゆくえ
(1) 大阪府の副首都への期待副首都の指定は、政令の要件を満たせばすべての道府県に可能性がある。報道によれば福岡県や愛知県なども連携協約による副首都指定への関心を示しており、福岡県では6月25日に県議会が副首都指定を国に求める要望書を可決した。ただし、7月14日の衆議院特別委員会での野党質疑で「特別区を主張しているのは大阪だけ。つまり、この要件に当てはまるものは、限りなく大阪にしかほとんどない」(中道・早稲田有季議員)と指摘されるように、附則の特別区包括副首都の規定が明記されていることから、大阪都構想に配慮した法であると言わざるを得ない。
大阪府にとって副首都の指定と特別区設置が実現すれば、大阪府(都)に行財政機能を集中させ、あわせて副首都法にもとづく国の支援や民間投資などを期待する道筋ができあがる。すでに大阪府は府庁本館の西側に「副首都庁合同庁舎(仮称)」の建設を検討しており、国の機関として新たな防災庁や総務省消防庁などの設置を想定している(時事通信、2026年5月25日)。また、7月7日には三重県、奈良県とともにリニア中央新幹線の早期全線開業に関する要望書をJR東海、財務省、国交省に提出しており、2037年の全線開業を目指して工事の早期着工と、そのための財政投融資の活用を求めている。いずれも副首都法に係る国家社会機能継続性確保あるいは副首都の整備に係る施策の対象となる可能性がある事業であり、副首都指定に前のめりの姿勢がうかがえる。
(2) 財政の裏付けなき副首都
ただし、7月15日の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会における野党質問で予算規模が全く示されていないという指摘があったように(中道・早稲田有季議員)、向こう5年間を集中期間としながら予算の見通しが立っておらず、法が成立したとはいえ制度の実効性には疑問が残る。副首都の整備には先ほど述べた多岐にわたる事業が必要であり、条文に書かれているようにまさに総合的かつ計画的な予算編成が不可欠である。ところが7月21日に閣議決定された政府の経済財政運営と改革の基本方針2026では、副首都等の整備が盛り込まれているもののわずか3行であり、「強い経済」の実現へ向けた政策の優先順位は決して高いとはいえないだろう。
5 大阪都構想のゆくえ
(1) 2027年4月を目指す3度目の住民投票副首都法の成立を受けて、維新の目指す次なる目標は大阪都構想の実現である。大阪市を廃し、特別区を設置する住民投票は、これまで2015年、2020年に実施され、いずれも反対多数の結果に終わったが、維新・吉村代表は付帯決議を無視して、大阪市の2027年4月の統一地方選と3度目の住民投票の同日実施を表明している。
これに向けて大阪府、大阪市の両議会では大阪都構想案を議論する法定協議会の設置議案を可決し、副首都を想定した大阪都の姿を描いていく。
8月7日には法定協議会で特別区を4区とすることが正式決定され、今後は府との具体的な事務配分の検討が注目される。
なお、大阪都構想の実現は、いかなる内容であろうとも旧大阪市の財政構造を抜本的に変えてしまうため、大阪府・市は大阪市民に対して、正確かつ十分な情報提供を行い、適切な判断ができる環境を整える必要がある。
(2) 大阪都構想の財政の影響
大都市地域特別区設置法では、特別区を包括する道府県は都とみなすとしており、特別区の設置にともない都制度が適用され、旧大阪市の財政権は以下のように見直される。
第一に課税権の府への移行である。具体的には特別区域の固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税、事業所税、都市計画税は府税として課税される。現在、大阪市では市町村民税法人分で超過課税を行っているが、こうした税率決定権も移ることになる。その他、区域内の一般国道の面積に応じて政令市に交付されている軽油引取税交付金も対象外となる。
第二にその他の財源の縮小や府への移行などである。地方譲与税については地方揮発油譲与税の譲与基準の縮小、石油ガス譲与税および特別とん譲与税が府へ移行する。事業税の一部を市町村に交付する法人事業税交付金は後述する特別区財政調整の財源となる。このほか、都道府県と政令市で発行できる宝くじの発行権の対象から除外される。
第三に地方交付税算定の都区合算制度の適用である。東京都の普通交付税の算定は東京都と特別区域を一の市とみなして、それぞれ算定し合算しており、大阪市についても特別区を一の市として大阪府の算定と合算することになる。ただし、東京都は不交付団体であるが、大阪府は交付団体となるため、府に交付された普通交付税を特別区へ配分する必要がある。
第四に特別区財政調整制度の創設である。都制度においては地方自治法にもとづき都と特別区、および特別区間の財政の均衡化を図るため条例により特別区財政調整交付金を導入する。財源は都が課税する固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税、法人事業税交付金の合計額で、都と特別区の配分割合、特別区財政調整交付金の配分方法については事務配分に応じて条例により定める。
以上のように特別区の設置は旧大阪市と比較すると、その財政権にさまざまな制約を受けることは制度上避けられない。むしろ焦点は普通交付税や特別区財政調整を通じた特別区への財源保障が、事務配分に応じて確実に行われるかどうかということになる。その場合、地方自治法で設置が義務づけられる都区協議会での府と特別区間の協議が極めて重要になるだろう。しかし、従来の府・市の関係を踏まえると特別区の交渉力はあまり期待できそうにない。副首都の話題に注目が集まりがちだが、この流れの先にある特別区設置の是非を特別区の自治の可能性や限界を踏まえて慎重に判断する必要があるだろう。