地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2026年10月 気になる地方自治トピックス

「積極財政」の「責任」はどこへ?
― 「骨太2026」と「成長戦略」

2026年7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2026 『責任ある積極財政』元年~日本の挑戦を起動する!~」が閣議決定された(以下、単に「骨太2026」という)。同日には、「日本成長戦略」、「地域未来戦略」、「規制改革実施計画」も閣議決定されている。「骨太2026」のPDFファイルにおいて、その他の戦略・計画名で検索すると、「日本成長戦略」は8か所、「地域未来戦略」が12か所、「規制改革実施計画」が2か所それぞれヒットする。ただし、「日本成長戦略」は、「骨太2026」において「成長戦略」と省略されており、「成長戦略」と検索すると17か所ヒットする(以下、本稿でも「成長戦略」という)。

「骨太2026」においては、2027年度を「責任ある積極財政元年」と位置づけて第3章を「中長期経済財政計画」(計画期間:2027年度~2040年度)として策定、「成長戦略」、地域未来戦略等の点検を踏まえ、計画全体の実施状況を点検することとしている。「成長戦略」冒頭にある産業政策の潮流や各国政府の産業政策の展開がいかなるものかもう少し具体的に知りたかったところではあるが、「世界共通の課題解決に資する製品・サービス・インフラを開発し、国内外に提供することで日本の成長につながることが期待できるもの、又はイノベーションを通じた経済成長や国際的地位の確保につながるものとして、17の戦略分野を選定し」、これらを中心とした国内投資を実施することによって「危機管理投資」と「成長投資」という成長軌道に日本経済を導くことが目指されている。

地域未来戦略は、「47都道府県のどこに住んでいても、安全に生活することができ、必要な医療・福祉や質の高い教育を受けることができ、働く場所がある社会の実現を目指す」ものであるが、この実現のために何よりもまず重要なのは、「強い地域経済を構築すること」であり、「成長戦略」とともに「官民投資を誘発し、供給力を強化し、実質賃金で年1%程度の上昇の定着と中小企業の労働生産性の増加を目指し、雇用と所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収が自然増に向かう、GDP拡大の下での好循環を実現していく。各地方で大小の産業クラスターを戦略的に形成することによって、地域での投資を促進し、働く場所を創り、それを支える人材育成のエコシステムを生み出していく」という。ここも、なぜ、何よりもまず「強い地域経済」なのかが判然としない。

地方自治体にとっては、地域未来戦略で言及された「地域未来戦略予算パッケージ」の具体化を待ちつつ、また、「骨太2026」にも記載があるがいわゆる「シーリング」を排除した「強く豊かな日本」投資枠における各省庁の概算要求やこの先の予算編成作業に注目しつつ、次年度の予算編成方針の検討等を急ぎたいところであろう。しかし、「骨太2026」の閣議決定が異例に遅かったことなどもあって作業が難航する地方自治体も多いのではないかと思われる。


17分野と地域未来戦略

「骨太2026」、「成長戦略」はもとより、地域未来戦略においても17の戦略分野は強調されている。たとえば、「17の戦略分野について政府主導で官民投資を促進しつつ、地方公共団体と協力して具体的な立地を定め、同時に、地域の産業のサプライチェーンを支える中堅・中小企業の役割を重視し、戦略分野に関連する産業及び地域をけん引する産業の育成や地場産業を含む地域の産業の育成への地域主導のきめ細やかな取組・挑戦に対して国が一歩前に出て積極的な支援を行う」等とある。また、「公共施設等の集約・再配置等の地域経済を支える基盤機能との連携、持続可能な地域公共交通・物流の実現を、地域の事情に合わせて成長分野への投資と一体的に再構築する取組も促進する」ともあり、「具体的な立地」とならなければ投資の対象から外れかねない、公共施設等も「強い地域経済」優先で検討されるのではないかというような懸念を惹起すると思われる。

具体的に挙げられている分野、主要な製品・技術等および官民投資額をまとめたのが図表1である。これらが「47都道府県のどこに住んでいても、安全に生活することができ、必要な医療・福祉や質の高い教育を受けることができ、働く場所がある社会」のために「何よりも、まず」重要なのだろうか。その根拠は疑問なままであるが、地域未来戦略に沿った投資を地域で実施しようとする場合には、この17分野を意識せざるを得ない。

図表2のように、地域未来戦略予算は、A.戦略産業クラスター計画、B.地域産業クラスター計画、C.地場産業成長プランに大別される。それぞれの要件を地域未来戦略から確認しておこう。

まず、Aは最も17分野との関連が強くこれらとの整合性が要件の筆頭となる。さらに、「地方公共団体、地域経済界等と連携して策定された戦略産業クラスター計画の素案」に候補として明記されることが求められる。

Bは、都道府県知事が主導し、主体となって形成を進めるものであるが、有望度として「産業クラスターの形成・育成を図る製品・サービス等が明確で、市場ニーズを特定していること」、「実現する製品・サービス等が海外輸出で外貨を獲得し得るもの又は国内で上位シェアを目指し得るもの、すなわち、域外から持続的に収益を獲得可能なものであること」が求められるなどハードルが高い。

Cは、「市町村又は都道府県がその地域に根ざす農林水産業、観光業、スポーツ産業、伝統的工芸品製造業、部品加工業等を始めとする地域住民の生活を支える多様な産業の発展、地域経済の成長を促すものである」と位置づけられる。ここに求められる有望度としては、「実現する製品・サービス等が明確で、市場ニーズを特定していること。実現する製品・サービス等が、既存の製品・サービス等と比較して付加価値を高めるもの又は販路拡大が見込まれるものであること」が求められる。


図表1 戦略17分野の「主要な製品・技術等」における官民投資額

図1

出所)経済財政諮問会議(2026)第8回会議、資料1
   https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/0624_shiryo01.pdf


図表2 地域未来戦略予算のイメージ

図2

出所)「地域未来戦略」3頁
   https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/pdf/20260721_honbun.pdf


「産業構造の高度化が進む中で、研究開発機能や情報、人材育成等に関する新しい産業の重要性が高まっており、工業に加え、これらの分散、再配置を図る。このため、地方中枢・中核都市を中心として、公的な研究施設等の先行的な整備により、新素材、バイオテクノロジー等特色ある研究開発拠点の整備を図るとともに、共通施設を有する業務用ゾーンの整備等により、ソフトウェア業、情報処理サービス業等の誘致、育成を促進する。これらにより、先端技術産業や新しい産業の定着と、地元産業との交流、複合化を図り、地域への産業・技術の波及効果を拡大する。」

この文章は、本稿に掲げたいずれかの計画等にあるものではなく、1987年6月末に閣議決定された「第四次全国総合開発計画」(四全総)からの引用である。四全総は、多極分散型国土の実現を目指したものであり、昨今の副首都制度や大都市制度の議論などとも一定の類似点を見出すことができそうだ(当時は、遷都論が盛り上がっていた)。一方で、このあとバブル経済を経て円高による製造業の空洞化が深刻な課題になった当時とこれほどの円安においてもその国内回帰が見通せていない現在とでは相違点も少なくない。産業クラスター論がさかんに論じられていたのも1990年代末から2000年代初頭であったように記憶するが、なぜ、今、「多極分散」や「産業クラスター」なのかについて冷静に分析してみる必要がありそうだ。


中長期経済財政計画と次年度予算

本来は書き始めで明記すべきであったが、本稿に当初与えられていた課題は、地域未来戦略等も踏まえた「骨太2026」について概要と論点を提示することであった。ここまでは、「成長戦略」と地域未来戦略とにほとんどの紙幅を費やしてしまったが、概ね「骨太2026」の第1章、第2章を論じたといってもよいのではないだろうか。

そこで、ここでは第3章以降について触れておきたい。第3章は責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」である。そもそも、財政ないしは積極財政における「責任」とは何かについても判然としないが、これまで述べてきた「『強い経済』の構築と『財政の持続可能性』をバランスよく同時に実現することにより今を生きている国民と未来を生きる国民への責任を果たしていく」(「骨太2026」3頁)というのが責任ある積極財政らしい。「骨太2026」の中で、「責任」という単語が「責任ある積極財政」以外に用いられているのはこの3頁のほか、「2033年度再開場に向けた国の責任による国立劇場再整備を行う」(14頁)、「平和と繁栄を創る『責任ある日本外交』を展開…」(17頁)、「外国人が日本社会の一員として責任ある行動をとれるよう、日本語及び我が国の制度・ルール等の教育を強化し…」(23頁)である(下線はいずれも筆者による)。なお、高市早苗首相は、2026年7月30日の記者会見で減税する消費税について「私が責任をもって、確実に税率を元に戻す」旨の発言をしている。

図表3にあるように、目指す経済・財政の姿は、2040年度にGDPが1,100兆円に「近づく」、債務残高対GDP比の安定的低下、実質で1%超、名目で3%超の経済成長を「できるだけ」早期に定着、さらに上昇させることである。これをみると、債務残高のGDP比を安定的に低下させることが「責任」にあたる部分のようにも見受けられる。ただし、これは、分子である債務残高を減らしても低下するが、債務残高が一定、あるいは増加してもそれ以上にGDPが増えれば債務残高を問題視しないとも理解することができそうである。しかも、この数値について具体的にどの水準を目指すのかについての言及もない。


図表3 中長期経済財政計画の概要

図3

出所)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」概要
   https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/summary_ja.pdf

財務省「日本の財政関係資料 令和8年4月」によると、2024年度時点で債務残高の対GDP比の国際比較において日本は172位の214.5%、171位のシンガポール(166.0%)とも大差がついている。このような財政状況と「骨太2026」閣議決定までの案において日本銀行の独立性を脅かして利上げをけん制したとの市場の受け止めから長期金利の上昇を招いたことにより、それに配慮した文言の修正等を実施したが財政を軽視しているとの市場の受け止めを払拭できてはいないようである。

これまで、財政健全化の指標として用いられてきたプライマリーバランスについては、「債務残高対GDP比の低下に向けて確認する指標とし、その安定的低下と整合するよう複数年で管理する。単年度の黒字化時期を機械的に追うのではなく、経済・金利環境、歳入歳出の動向を踏まえ、景気変動や危機管理投資・成長投資の必要性に応じて一時的な悪化も許容し得るものとしつつ、債務残高対GDP比の安定的な低下に向けて、改善・管理していく」こととなった(「骨太2026」25頁)。

「強く豊かな日本」投資枠にはシーリングを設けないこととなったが、各省庁がどの程度の投資をどの程度の規模で実施することになるのか、総務省が地方の事業としてどの程度の水準を設定できるのかが不透明である間は、地方自治体の次年度予算編成作業も停滞することになりそうだ。地方の一般財源については2026年度を基準とする総額同水準ルールが維持されるとともに、「経済・物価動向等を的確に反映する」ともされている。税源の偏在を巡った新たな措置や地方制度調査会における議論の行方によっては、次年度から影響を受ける地方自治体が出る可能性もありそうだ。

地方自治体全体への財政的な影響としては、給付付き税額控除(最近の報道では「所得連動型給付」などと表現するものも多いが「骨太2026」では給付付き税額控除としている)とそのつなぎについて、「骨太2026」閣議決定後の7月30日に、食料品等の消費税(と地方消費税)を2027年4月からの2年間限定で8%から1%にする方針が表明された。この減収分がどのように措置されるかも地方の予算編成を不透明なものにさせそうだ。

第4章は、当面の経済財政運営と次年度予算編成に向けた考え方を述べている。前者は、「強い経済」を実現すべく(日本銀行の独立性に配慮しつつ)「安定的な物価上昇」を実現させながら、「成長型経済」への移行を確実なものにする旨、言及している。

後者は、「責任ある積極財政」の考え方を具体化すべく講じられてきたとする「強く豊かな日本」投資枠などの施策が並ぶがやはり、責任よりも「積極財政」すなわち、楽観的な拡大(放漫とまで呼ぶべきかには若干逡巡がある)が目立つように見受けられる。「補正予算に依存した財政運営からの脱却」(38頁)は支持したいが、熊本の震災を受けても予備費を充当し補正予算を検討しないという発想は理解しがたい(今年度予備費のみを追加する補正予算を編成済みであるが、予備費に関しては「放漫」ないしは「無責任」ではなかろうか)。


「まひし」から「し」へ?

「骨太2026」から「財政健全化」の文言がなくなった旨が報じられているが、消滅はしなかったものの、前年度に比して激減した用語が「地方創生」である。2025年度においては18か所登場したが、「骨太2026」では1か所、「これまでの地方創生の取組に加え」(10頁)て地域未来戦略等を推進する旨が触れられ、「あわせて、豊かな生活環境や、若者や女性に選ばれる地方を実現することにより強い地域経済を下支え」(同)という従来も用いられた文言により継続性が表現されているようだ。

「地方創生」という用語にも個人的には違和感が強かったが、今となっては何となく地域振興全般を指す用語として定着しつつあると思われる(内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」にはすでに「地域未来戦略」も注目ワードに加えられている)。もともとこの根拠法は「まち・ひと・しごと創生法」であり、「まち・ひと・しごと創生」とは、まち:国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成、ひと:地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保、しごと:地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進することを指していた。金井利之・東京大学教授はこの「まち・ひと・しごと」の頭文字を「まひし」として数多くの論考を展開してきている。

今回それに「成長戦略」や「地域未来戦略」が加わることによって、相対的に「ひと」が後景に退き、「しごと」が「魅力ある多様な就業の機会」から「域外から稼いでくるもの」へと変容したように思われ、その意味での「しごと」が前面に押し出されたように思われる。すなわち、「まひし」から「し」である。

ただし、新たに稼げるとみなされた地域や「副首都」なるエリアにおいては投資も実施されると思われることから稼ぐに相応しい「まち」が一部において創られる可能性があるだけ「まし」かもしれない。いずれにしても「まち」は自治体間競争による優勝劣敗の様相が先鋭化し、「ひと」は「しごと」にフィットする人材の選別が加速するように思われる。

ところで、「骨太2026」からは「東京一極集中」の文言もなくなったという。吉村洋文大阪府知事は「副首都」が必要な理由として一極集中を挙げていたが、ここでは小池百合子東京都知事への配慮が優先されたということであろうか。

(其田 茂樹 地方自治総合研究所常任研究員)